【追悼】ロリン・マゼール/ベルリン放送響の「驚愕」1975年ライヴ(ハイドン)

7月13日、ロリン・マゼールが84歳で亡くなりました。肺炎による合併症とのこと。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートをずいぶん振ったので日本でもおなじみの指揮者でしょう。

Maazel94.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ロリン・マゼール(Lorin Maazel)指揮のベルリン放送交響楽団の演奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番(独奏:ヴィルヘルム・ケンプ)、ハイドンの交響曲94番「驚愕」の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1975年6月8日、ベルリンの放送ホール1でのライヴ。レーベルは貴重なライヴを次々とリリースする独audite。

マゼールのハイドンの録音は多くはありませんが、それでもいろいろ探して過去に2度ほど取りあげています。リンク先を読んでいただければわかるとおり、私はマゼールは嫌いではありません。

2013/04/11 : ハイドン–交響曲 : ロリン・マゼール/ベルリン放送響のオックスフォード、太鼓連打
2011/07/12 : ハイドン–交響曲 : ロリン・マゼール/ウィーンフィルの85年オックスフォードライヴ

マゼールで皆さんおなじみなのはやはりウィーンフィルのニューイヤーコンサート。調べてみると、弾き振りのヴィリー・ボスコフスキーの後を受けて1980年から7年連続で指揮をとり、その後1994年、96年、99年、2005年と振り、都合11回も指揮台に登っています。ボスコフスキーの25回、クレメンス・クラウスの12回について3番目に多い回数です。ボスコフスキーの後を継いで指揮をとった1980年のコンサートでは、優雅なボスコフスキーとは対照的にムジークフェラインを吹き飛ばさんばかりの大迫力の演奏に賛否両論だったのが懐かしいところ。もちろんオケのすべてのパートに指示を出すような精密機械のような指揮ぶりも圧巻。マゼールの音楽は音だけ聴くとフレーズの造りが微視的で大きな流れが弱いところがありますが、ディティールの緻密さと時折聴かせるグロテスクなまでの誇張によって、怖いもの見たさのような感覚で聴いてしまう面白さがありました。やはりマゼールは映像でその指揮姿を見ながら聴くのが一番特徴がわかる気がします。クライバーの魂を揺さぶるような指揮ぶりともちがって、鋭い眼光とタクトの先ですべての奏者を監視しながら恐ろしく精密に指示を出す姿は才気爆発。指揮者の指示を聴くような気になります。何れにしても、巨匠と呼ばれる世代の最後の世代の人でしょう。マゼールより高齢で活躍しているのは、もはやスクロヴァチェフスキくらいでしょうか。

今日取り上げるアルバムはフェレンツ・フリッチャイの後任として1964年から首席指揮者の地位にあったベルリン放送交響楽団とのコンサートのライヴですが、マゼールもこのライヴと同じ1975年にその地位を離れ、しばらく後の1982年にリッカルド・シャイーが首席指揮者に着きました。すなわちベルリン放送交響楽団との10年以上にわたる関係の総決算のような時期の演奏ということになります。若き日のマゼールの才気が迸るでしょうか。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
録音は年代なりで、すこし痩せ気味ですが、十分鮮明です。1楽章は速めのテンポでグイグイ攻める感じ。アクセントがきっちりついてリズムを強調するあたりがマゼールならでは。首をふりながら指揮するすがた想像できるよう。オケもきっちり指揮についてキリリと引き締まった表情をつくっていきます。終盤になるに従ってオケの振幅も大きくなり、スピーディながらリズムに溜めをつくって表現を大きくしていきます。このへんの設計の確かさは流石なところ。一貫したスピードの中、表現の振幅を巧みに変えて音楽の抑揚をうまく造っていきます。1楽章は流石の出来。
意表をつかれるのが続くアンダンテ。テンポが速い。ビックリの部分も驚かそうなどというそぶりはまったくなく、単なる強弱記号をこなしていくだけのようなあっさりした表現。このアンダンテも緊密な音楽の構成を速いテンポで浮かび上がらせようと言う事でしょう。一貫してタイト。終盤の展開部も速めのテンポでグイグイあおり、ダイナミック。ところどころで金管にアクセントをつけて変化を加えます。
予想通りメヌエットも速い。ハイドンの音楽からスタイリッシュなダイナミックさが浮かび上がってきます。ここにきて節回しがマゼールっぽくなってきました。指揮棒をクルクルまわしてオケに指示を出しているのでしょう。
一貫して速めのテンポで来たので、フィナーレは突っ走ってほしいものです。まずは期待どおりの速めの入りですが、まだオケは抑え気味。徐々にスロットルを開いて行く快感。マゼール流のちょっとくどい感じもしかねないアクセントがかえって痛快。爆発を期待します。なんだか不思議な高揚感。最後は期待通りのクライマックス。やはり盛り上げ方は流石です。知的な印象も残し、ハイドンのやり方によってはちょっと温くもなってしまう交響曲をキリリと引き締めたタイトな曲に仕上げてきました。
最後は拍手に包まれます。

ロリン・マゼールが手兵ベルリン放送交響楽団を振ったコンサートのライヴ。若き日のマゼールの才気が味わえるなかなかいい演奏でした。マゼールのハイドンに対するスタンスは純音楽的にタイトに仕上げる素材としての古典期の曲というところでしょう。標題性には一切媚びる事無く、ハイドンの書いたメロディーとオーケストレイションをキリリと引き締めて聴かせる手腕は流石です。音楽を自在に操る類いまれな能力が迸っていました。このハイドン、マゼールらしさが出た秀演でしょう。評価は[+++++]に格上げです。

マゼールは演奏によっては独特の灰汁の強さがあり、好き嫌いが別れる指揮者だったと思いますが、この独特の演奏に惹き付けられた人も多いのではないかと思います。マゼールのハイドンの録音はほとんどないと思いますが、この不思議なタクトでもう少しハイドンを聴いてみたかったですね。また一人、偉大な個性が消えていきました。ご冥福をお祈りします。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 驚愕 ライヴ録音

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

ヴァイオリン協奏曲ピアノソナタXVI:50ベートーヴェンピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:48驚愕哲学者ニコライミサミサブレヴィス小オルガンミサ交響曲95番ヒストリカル奇跡交響曲93番弦楽四重奏曲Op.20交響曲78番時計交響曲99番軍隊ピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:40王妃モーツァルトピアノソナタXVI:52アンダンテと変奏曲XVII:6武満徹SACDライヴ録音チェロ協奏曲交響曲80番交響曲19番古楽器交響曲81番交響曲全集マリア・テレジア交響曲21番豚の去勢にゃ8人がかりクラヴィコードピアノソナタXVI:20無人島ラメンタチオーネ騎士オルランドLPBlu-ray東京オペラシティ交響曲86番チェロ協奏曲1番十字架上のキリストの最後の七つの言葉交響曲10番交響曲9番交響曲11番交響曲12番ロンドン太鼓連打交響曲4番交響曲15番交響曲2番交響曲37番交響曲1番交響曲18番ひばり弦楽四重奏曲Op.54ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:5天地創造ディヴェルティメントリヒャルト・シュトラウス東京芸術劇場交響曲102番交響曲97番交響曲98番ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:49フルート三重奏曲オーボエ協奏曲ドニぜッティロッシーニライヒャピアノソナタXVI:34弦楽三重奏曲皇帝ピアノ協奏曲XVIII:3ストラヴィンスキーミューザ川崎シェーンベルクマーラー東京文化会館ホルン協奏曲フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.2弦楽四重奏曲Op.17弦楽四重奏曲Op.9剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ピアノソナタXVI:31ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:26タリスアレグリパレストリーナモンテヴェルディバードすみだトリフォニーホールピアノ協奏曲XVIII:11ピアノソナタXVI:6告別ピアノソナタXVI:39美人奏者四季迂闊者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7ピアノ協奏曲XVIII:4アコーディオンバリトン三重奏曲スコットランド歌曲ガスマンヴェルナーシューベルトピアノソナタXVI:38交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲46番交響曲35番協奏交響曲DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:21アリエッタと12の変奏XVII:3サントリーホールラ・ロクスラーヌ帝国弦楽四重奏曲Op.76ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51五度ラルゴピアノ三重奏曲弦楽四重奏曲Op.64日の出ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.74騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス交響曲42番時の移ろいベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:10リュートピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6ピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏交響曲39番冗談英語カンツォネッタ集ナクソスのアリアンナアレルヤピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲79番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードモテットオフェトリウムカノンドイツ国歌スタバト・マーテル弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難パリセット交響曲84番ベルクブーレーズ主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノショスタコーヴィチ交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲50番交響曲89番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生音楽時計曲ピアノソナタXVI:11ピアノ小品ピアノソナタXVI:47bisカートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47第九読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャ交響曲56番マリアテレジア交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲108番変わらぬまこと交響曲107番交響曲62番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲3番スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
01 | 2018/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 - - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
144位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
12位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ