ハンス・リヒター=ハーザーのピアノソナタXVI:49(ハイドン)

久しぶりにヒストリカルなアルバム。

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ハンス・リヒター=ハーザー(Hanns Richter-Haaser)のピアノによる、モーツァルトのピアノソナタ2曲(K.284、K.533)、ベートーヴェンのピアノソナタ16番、そしてハイドンのピアノソナタHob.XVI:49の3曲を収めたアルバム。何れも1950年代の収録ですが、ベートーヴェンとハイドンは1959年10月7日、ラジオ放送向けにフランクフルトのヘッセン放送3/Cスタジオでのセッション録音。レーベルはヒストリカルなアルバムを多くリリースしているmelo CLASSIC。

ハンス・リヒター=ハーザーは、もちろんはじめて聴く人。調べてみるとドイツのピアノの大家でベートーヴェンを得意としていた人のようです。1912年、ドレスデンで大工とアマチュア音楽家の家庭に生まれ、13歳の時にドレスデン音楽アカデミーに進み、ハンス・シュナイダーに師事。18歳でベヒシュタイン賞に輝いたとのこと。16歳でドレスデンでデビューし、ドイツ国内でフリーランスのピアニスト、指揮者、作曲家として活躍しました。大戦中はドイツ軍の高射砲部隊に配属され、ピアノを弾く機会には恵まれず、ピアノの腕も落ちましたが、終戦時には米軍病院で演奏する機会を得て音楽活動に復帰します。1946年にはドイツ中部のデトモルト(Detmolt)のデトモルト管弦楽団の音楽監督となり、翌1947年までにはピアノのマスタークラスをもつ教授の立場となり、後年のデトモルト音楽アカデミーの礎となりました。1949年、再びコンサート活動を再開し、ヨーロッパの主要国で、カラヤン、ベーム、バレー、ヨッフム、フリッチャイ、サヴァリッシュらと共演し、ギーゼキングやバックハウスに次ぐヨーロッパの音楽界を席巻するピアニストとして活躍しました。録音も多かったようですが、有名なところではカラヤン/ベルリンフィルとのブラームスのピアノ協奏曲2番があります。1959年アメリカでデビューを果たし、1963年にはザルツブルク音楽祭にも出演しました。亡くなったのは1980年、ドイツのブラウンシュヴァイクでブラームスのピアノ協奏曲を演奏中に倒れ、間もなく息途絶えたとのこと。

ピアニストに詳しいわけではありませんが、かつては一世を風靡した人ですね。今は知る人も少なくなってきたのではないでしょうか。アルバムの左下には"FIRST CD RELEASE"とあり、この録音がCD時代も終わりを迎えんとする、演奏から55年もの年月を経てリリースされたということを感慨深く感じざるを得ませんね。

アルバムをCDプレイヤーにかけると、モノラルながら恐ろしく鮮明なピアノの響きに打たれます。しかも揺るぎない堅固さをもちながらも、タッチのキレも良く、今の時代に聴いてもあまり古さを感じさせません。モーツァルトのソナタもベートーヴェンも流石の演奏。じっくりと聴いて、いざハイドンです。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
1959年という録音年代が信じられないような鮮明な響き。十分クリアな響きで、眼前に厚みのあるピアノが位置します。かなり速めのテンポで、グイグイ弾き進めていきます。ハンス・リヒター=ハーザー47歳の演奏ということで、脂の乗りきった頃の演奏。この年アメリカデビューを果たしますが、アメリカから帰ったあとの演奏でしょうか。指はキレまくり、メロディーは高速に転がるよう。テクニックは素晴しいものがあります。速いパッセージの指のキレはグールドを思わせるような冴え冴えとしたもの。もちろんグールドの狂気のようなものはなく、あくまでも正統な、しかもかなり本流の正統派の演奏。辛口硬派なハイドン。
アダージョに入っても速めな印象は変わらず、しっとりというより岩清水のような清透な響きですが、水質は超硬水。ゆったりとするとか癒されるというより、鋼の冷たさと固さをもったアダージョという感じ。敢えて間をおかずに音楽の滔々たる流れの良さを意識した展開。良く聴くと右手のメロディーの揺るぎないタッチが一貫して音楽の強さを造っているよう。同じ鋼を感じさせているとはいえ、リヒテルの空間を揺るがすような強さとは、また異なった演奏。
フィナーレは逆にテンポを少し落として枯れた印象を加えます。淡々と音楽を進めますが、鋼のよなタッチが時折表情を引き締め、あくまでもハンス・リヒター=ハーザーの演奏であるという枠をはずしません。骨太なのにキレの良い不思議と充実したハイドンでした。

ハンス・リヒター=ハーザーの演奏するハイドンのソナタ。55年も前の演奏とは思えない瑞々しい録音によって、往年の巨匠の演奏が蘇りました。これは素晴しい仕事。リリースする甲斐のある素晴しい演奏といっていいでしょう。ここには今の時代には聴かれることのない骨太の音楽があり、ピアニストの気骨が噴出するような素晴しく個性的な音楽が流れていました。ハイドンのソナタの演奏としてどうこうと言うより、一人のピアニストの貴重な演奏の記録として存在意義のある演奏です。最初はすこし評価を割り引こうかとも思いましたが、この気骨は多くの人に聴いていただく価値があるということで、[+++++]を進呈することにしました。音楽を聴くということは、そういうことなのでしょう。

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