マイゼン/セベスティアン/オステルタークによるフルート三重奏曲集(ハイドン)

台風が去って、空は澄み、気分も落ち着いてきました。秋の夜長にぴったりの静謐な室内楽を楽しみます。

PaulMeisen.jpg
HMV ONLINEicon(別装丁盤) / amazon / TOWER RECORDS

パウル・マイゼン(Paul Meisen)のフルート、エルネ・セベスティアン(Ernö Sebestyén)のヴァイオリン、マルティン・オステルターク(Martin Ostertag)のチェロによるハイドンのフルート三重奏曲6曲(Hob.IV:6、IV:7、IV:8、IV:9、IV:10、IV:11)を収めたアルバム。収録は1990年2月、3月、独ニュルンベルク近郊のノイマルクトのライトシュタッデル(Reitschtadel)でのセッション録音。レーベルは独mDG GOLD。

このアルバムもいつも渋めの名演奏を貸していただく湖国JHさんから借りているもの。奏者もアルバムもその存在を知らなかったもので、いつもながら実に渋いところを突かれてしまいます。早速奏者について調べてみます。

フルートのパウル・マイゼンはハンブルク生まれで、ハンブルク、デトモルト、チューリッヒで音楽を学び、1952年から1972年の間、カールスルーエ、ミュンヘン国立劇場、ハンブルク州立フィルなどで首席フルート奏者を務めた人。以降は教職に就き、デトモルト音楽アカデミー、ミュンヘン州立音楽アカデミーなどにおいて教授職をつとめています。
ヴァイオリンのエルネ・セベスティアンはブダペスト生まれ。23歳でハンガリー国立歌劇場管弦楽団のコンサータマスターに抜擢され、1968年には同じくブダペストのフランツ・リスト音楽アカデミーの教授になります。1970年にはハンガリー放送交響楽団のコンサートマスター、1971年にはベルリンドイツオペラのコンサートマスター、そして1980年にはバイエルン放送響のコンサートマスターとなるなど、有名オケのコンサートマスターを歴任した人です。1988年からはミュンヘン州立音楽アカデミーの教授職にあります。
チェロのマルティン・オステルタークはスイスのバーゼルのすぐ脇のドイツのレラハ(Lörrach)に生まれ、カールスルーエ、パリ、デトモルトなどでチェロを学びました。1967年にウィーン国際コンクールで優勝し、1968年にはデュッセルドルフ交響楽団、1971年にベルリン・アマティ・アンサンブル、1972年にはベルリンドイツオペラ、1974年にはバーデンバーデンのSWF交響楽団の首席チェリストを歴任しています。1980年からはカールスルーエの州立音楽アカデミーの教授となっています。

3人とも有名オケの首席を務め、教職についているということで、そのテクニックは確かなものがあるはず。略歴をしらべていてほくそ笑んでしまいましたが、演奏はまさにこうした奏者の経歴が頷けるもの。正確なテクニックで純粋に音楽を演奏することに集中しているような流れ。特にオケの奏者を歴任してきたメンバーらしく、正確無比な演奏という感じです。このフルート三重奏にはクイケン兄弟によるこれまたストイックな名盤があり、その対向盤という位置付けでしょう。

Hob.IV:6 / Op.38-1 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.1 [D] (1784)
鮮明な録音に鮮明なアンサンブルの響き。実際のアンサンブルよりもすこし楽器が大きめに定位する録音。禁欲的な印象すらある、鋼のような冷徹さを感じさせる正確さ。フルートという楽器の優美な音色の魅力ではなく、グイグイ攻めてくる演奏。短い1楽章のアダージョから鮮烈なアレグロに入り、メヌエットで終わるという3楽章構成の曲。フルートの演奏を楽しむというよりは完全に勝負に来ています。彫りが深い峻厳な表情にゾクッときます。大学教授3人のアンサンブルということで妙に納得できる演奏。

Hob.IV:7 / Op.38-2 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.2 [G] (1784)
勝負は続いてます(笑) それぞれのパートがそれぞれくっきりとメリハリがついて、アンサンブルも絶妙な精度。まるで一人が楽器を変えて多重録音で演奏しているような音楽性まで完璧に揃った演奏。最初は無機的にすら聴こえたんですが、この演奏の抜群の精度に徐々にやられてます。アレグロ-アダージョ-フィナーレという普通の構成。ハイドンのこの手の曲集は曲ごとに巧みに曲想が変化していくのにいつも唸らされます。この曲でもアダージョの翳りとフィナーレの躍動感の対比が見事。

Hob.IV:8 / Op.38-3 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.3 [C] (1784)
アレグロ・モデラート-ポコ・アダージョ-フィナーレという構成。3曲目に至り、演奏の安定感というか盤石さは素晴らしいものがあり、少しは隙を見せて欲しいと思うくらい。1楽章のチェロのコミカルな寄り添いが微笑ましいですね。ただ演奏には教則本の演奏見本のような完璧さがあり、逆にもう少しユーモラスでもいいと思わせなくもありません。2楽章に入り曲自体は素朴な美しさが際立ちますが、演奏は相変わらずキリリと引き締まったもの。フィナーレでは再びチェロが活躍。

Hob.IV:9 / Op.38-4 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.4 [G] (1784)
4曲目はバリトントリオで聴き覚えのある旋律。妙に神秘的な余韻が漂う不思議な曲。アダージョ-スケルツァンド-フィナーレという構成。バリトンの優雅な響きの印象があるので、この演奏はそれに比べると足早な印象がつきまといます。ただアンサンブルの精度は前曲までと同様、引き締まって精度が青光りするほど。

Hob.IV:10 / Op.38-5 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.5 [A] (1784)
なんとなくこの曲が一番心に響きます。アンダンテーアダージョ-メヌエットという構成。入りのしっとりとした曲調がフルートの響きの美しさを際立たせているよう。篠笛のような幽玄さを感じさせるフルートの響きの魅力を存分に楽しめます。マイぜンのフルートはパユの気配まで優美にしてしまうようなしなやかな演奏とは異なり、このような優美な曲でさえもキリリとひきしまった印象を残すもの。残す詩情の種類が異なります。もちろんテクニックは十分。誰に聴かせてもツッコミどころがないような正確さと正当さを感じさせる演奏。続く短いアダージョもフルートの独壇場。最後の楽章もフルートの音色が曲を彩ります。

Hob.IV:11 / Op.38-6 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.6 [F] (1784)
最後はアレグロ・モデラート-アダージョ-ヴィヴァーチェという構成。最後まで切れ味鋭いフレージングは保たれましたが、最後にちょっと面白い拍子が耳に残ります。ここにきてようやく砕けた感じがと言いたいところですが、砕けたとまではいかず、規律はきちんと保ちます。ただし、続くアダージョでは初めてじっくりと沈みこみ、間をじっくりととった踏み込んだ表現。これはこの6曲の曲集の最後だということでの踏み込みのよう。ハイドンの楽譜の指示か、はたまた奏者の表現なのでしょうか。最後のヴィヴァーチェもジブシー風な響きでちょいと華やいだ印象を残します。

ドイツの腕利き奏者で教授まで務めた3人によるフルート三重奏曲集。書いた通り最初は踏み込みがちょっと足りない演奏のようにも聴こえましたが、アンサンブルの精度はキレキレで、テクニックは素晴らしいものがあります。弦楽四重奏では険しくタイトな演奏もよく聴きますが、フルートを交えた曲では逆に珍しいスタイルだと思います。最後まで聴き終えると、6曲セットでの演奏としての表現を考えての演奏だという印象を得ました。何度か聴いているうちにこの演奏の魅力も楽しめるようになり、奏者の意図もなんとなくつたわりました。評価は[+++++]をつけました。

いつもながら湖国JHさんの送り込まれるアルバムには感服です。次なる使者の予告もあり、ちょっと期待です(笑)

(私信)
こちらもそろそろ返送します!

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : フルート三重奏曲

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
スクロールできます。

剃刀ひばり古楽器弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:31ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:268人のへぼ仕立屋に違いない東京オペラシティバードタリスパレストリーナモンテヴェルディアレグリ天地創造すみだトリフォニーホールピアノ協奏曲XVIII:11ライヴ録音マーラーストラヴィンスキー弦楽四重奏曲Op.9アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:48ピアノソナタXVI:6交響曲97番ヒストリカル告別交響曲1番美人奏者ピアノソナタXVI:39四季迂闊者交響曲70番交響曲12番東京芸術劇場太鼓連打ピアノ協奏曲XVIII:7ピアノ協奏曲XVIII:3アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:4SACDバリトン三重奏曲スコットランド歌曲ガスマンディヴェルティメントヴェルナーモーツァルトベートーヴェンシューベルトLPピアノソナタXVI:38ラメンタチオーネ哲学者交響曲80番交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲46番交響曲35番交響曲51番協奏交響曲ヴァイオリン協奏曲DVDピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:52交響曲47番十字架上のキリストの最後の七つの言葉テレジアミサピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:34ピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:40アリエッタと12の変奏XVII:3ピアノソナタXVI:20サントリーホールラ・ロクスラーヌ帝国弦楽四重奏曲Op.76皇帝ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:51五度ラルゴピアノ三重奏曲弦楽四重奏曲Op.64日の出チェロ協奏曲ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33軍隊リヒャルト・シュトラウス騎士弦楽四重奏曲Op.74弦楽四重奏曲Op.20交響曲17番ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:27シベリウス武満徹時の移ろい交響曲4番無人島交響曲42番ベルリンフィル交響曲19番ホルン信号弦楽四重奏曲Op.55弦楽四重奏曲Op.54王妃交響曲87番交響曲86番フルート三重奏曲トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:25驚愕時計ロンドンリュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏交響曲39番冗談ナクソスのアリアンナ英語カンツォネッタ集アレルヤピアノ協奏曲XVIII:9ピアノ協奏曲XVIII:5ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ホルン協奏曲ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲78番交響曲79番交響曲81番交響曲99番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードモテットドイツ国歌カノンオフェトリウムスタバト・マーテルピアノソナタXVI:42弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールクラヴィコードパッヘルベル弦楽四重奏曲Op.17交響曲102番アダージョXVII:9受難ピアノソナタXVI:35パリセット交響曲84番ベルクブーレーズ交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41ショスタコーヴィチ交響曲57番交響曲68番オーボエ協奏曲リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲89番交響曲50番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲交響曲38番火事リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10奇跡交響曲18番交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタ交響曲98番ドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生交響曲93番ピアノソナタXVI:47bisピアノソナタXVI:11音楽時計曲ピアノ小品カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストシェーンベルクピアノソナタXVI:14オーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:12変奏曲XVII:7ピアノソナタXVI:22オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノピアノソナタXVI:2ヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場マリア・テレジア裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ピアノソナタXVI:8ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャ交響曲56番マリアテレジア交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場弦楽四重奏曲Op.2皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ小オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番交響曲10番サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲95番交響曲108番交響曲107番変わらぬまこと交響曲62番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲9番交響曲2番交響曲3番スカルラッティ声楽曲カンタータ戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤン弦楽三重奏曲スウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
151位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
12位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ