ノリントン/カメラータ・ザルツブルクの十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

垢を剥ぎ取ってみるとどうなるのか、いつも気になる存在です。

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サー・ロジャー・ノリントン(Sir Roger Norrington)指揮のカメラータ・ザルツブルク(Camerata Salzburg)の演奏で、ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版。収録は2005年1月15日から16日にかけて、ウィーンのコンツェルトハウスでのライヴ。レーベルはORF。

ノリントンには伴奏も含めると、色々なアルバムがあります。交響曲についてはEMIのロンドン・クラシカル・プレイヤーズとの99番以降や、SWR放送交響楽団とのザロモンセットのライブなどに加えて、天地創造、四季など、何気にハイドンの名曲をおさえています。演奏スタイルはご存知のようにこれまでの演奏の垢を剥ぎ取るようにノン・ヴィブラートのモダンな解釈でリニューアルするようなもの。有名曲をことごとく録音しており、アルバムのリリース数の多さから考えても、現代の聴衆にはかなり受けている模様。最近ではN響にも客演するなど、日本でも知名度は増すばかりでしょう。

2010/06/26 : ハイドン–オラトリオ : ノリントンの四季、到着
2010/06/20 : ハイドン–オラトリオ : ノリントンの天地創造
2010/03/18 : ハイドン–交響曲 : ノリントンの新旧交響曲集

これまで取り上げたノリントンの演奏では天地創造と四季が印象に残っており、交響曲の方はかなり以前に概論的に取り上げただけですので、ノリントンはかなり久しぶりに聴く印象。ということで聴く方は意外と真剣な姿勢。

Hob.XX:1 / "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七語」 [D] (1785)
序章
予想通り速めのテンポでグイグイ畳み掛けてくる演奏。録音も迫力重視でグイグイきます。荘重な音楽に仕上げてくる普通の演奏を尻目に、タイトな迫力こそこの曲の真髄とばかりに飛ばしてきます。演奏に対する価値観が最初から違うといわんばかり。このへんの割り切りの良さがノリントンならではということでしょう。

第1ソナタ
つづくソナタは7分台の演奏が多いなか、5分少々と快速テンポ。一貫してタイトで速めな演奏から滲み出すモダンな情感。ゆったり奏でることで描かれる劇性とはかなり異なる印象を残します。不思議と腰高な印象ばかりではなく、スタイリッシュに聴こえるのもノリントンの役得でしょう。媚びないフレージングが醸し出す見通しの良さ。

第2ソナタ
前ソナタのスピーディーな印象が演奏の印象を大きく左右しましたが、このソナタは標準的な演奏に近いテンポで、逆に意外な感じ。それでもノンヴィブラートの弦楽器の清らかな響きが普通の演奏との違いをアピール。この透明感を伴いながらさらりとうねるメロディーの面白さが徐々に効いてきます。

第3ソナタ
ノリントンのテンポに慣れてきたのか、この曲では速めなのにじっくりと沈むイメージをもつのが不思議なところ。そよ風のような爽やかさを帯びたメロディーなんですが、印象的な休符の処理によって幽玄さも感じさせます。意外に劇的な展開も相まってなかなか盛り上がります。この曲から秋の空のような印象を覚えたのははじめてのこと。

第4ソナタ
楽章間でテンポの変化はないものの、曲調が変わったことを印象付けるフレージングの変化。ノリントン独特の速めなのにぐっと沈むメロディーの演出が実に効果的。ハイドンの時代の古典的な曲とはかなり印象を変え、現代的な俊彦さを印象づけ、スタイリッシュな劇性で聴かせます。

第5ソナタ
ピチカートの伴奏が印象的な曲ですが、ノリントンの演出はさらに印象的。ピチカートをかなりおさえてさざめくような深遠さを感じさせ、力強い弦楽器のメロディーをかなりクッキリと浮かび上がらせます。ピチカートが伴奏ではなく効果音のような落とし方。この辺の感覚が常人離れしていますね。痛快なほどのコントラストに唸ります。音楽のうねりも大胆になり、爽やかに盛り上がります。

第6ソナタ
終盤に至って、呼吸も深くなり、かなり落ち着いた表現に到達します。この辺の曲の全体を見渡した演出設計はさすがノリントンというところ。ハイドンの書いた美しすぎるメロディーが連続するこの曲ですが、そのメロディーをじっくり描くだけではなく、非常に晴れやか爽快な印象まで感じさせるノリントンの演出は見事の一言。この曲は圧巻。ここまでの境地に至るとは思っていませんでした。

第7ソナタ
最後のソナタは、通常名残り惜しさを感じさせる哀愁を帯びた演奏が多いのですが、音楽に力が漲りながらも、さらりと枯れていくところはこの曲の新たな魅力を感じさせるもの。これまで多くの演奏者が当ててきた光の方向とはまったく違う角度からこの曲の魅力を浮かび上がらせるような新鮮さ。この第6ソナタから第7ソナタにかけての流れは素晴らしいものがあります。

地震
期待通りノリントン節炸裂。メロディーを練りながら痛快に盛り上がります。ノリントンが不敵な笑みを浮かべながらオケを煽る様子が目に浮かびます。素晴らしい盛り上がり。あまりに個性的な盛り上がりに、最後は観客が拍手をするタイミングを逃したようにまばらな拍手で迎えますが、徐々にじわりと拍手が厚くなります。

鬼才ロジャー・ノリントンによるハイドンの名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版のライヴ。切々たるこの曲の演奏もいいものですが、これまでの演奏の垢をぬぐい去り、ノリントン流にモダンにまとめあげたこの演奏も見事。人によってこの演奏の評価はいろいろあると思いますが、私は非常に気に入りました。これまでいろいろ聴いたノリントンのハイドンでは最もしっくりくるもの。遅い楽章だけで構成されたこの曲を見事に組み立てなおし、新鮮かつ実に説得力のある演奏でした。特に終盤の爽やかな演出は見事。さらに最後の地震の炸裂っぷりもノリントンならでは。評価は[+++++]とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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