オレグ・カガンのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)

新たに湖国JHさんから送りこまれたアルバム。ようやく手がつけられるようになりました。

OlegKagan.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

オレグ・カガン(Oleg Kagan)のヴァイオリンによるハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)と、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲(RV 278)、ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調の3曲を収めたアルバム。ハイドンの演奏はワシーリー・シナイスキー(Vassily Sinaisky)指揮のモスクワ交響楽団(Academic Symphony Orchestra of the State Philharmony Moscow)で、収録は1980年3月20日、モスクワのチャイコフスキー音楽院でのライヴ。レーベルはリヒテルのライヴなどをリリースしているLIVE CLASSICS。

オレグ・カガンは1946年、サハリンのユジノサハリンスク生まれのヴァイオリニスト。後年、リヒテルと妻であるナタリア・グートマンと室内楽の演奏で知られた人です。また現代音楽、特にベルクのヴァイオリン協奏曲の支持者でもありました。近年リリースされたライヴ録音によって再評価されてるそうです。

手元のリヒテルのライヴアルバムのなかに、オレグ・カガン音楽祭の演奏があり、私はそれで名前を知っている程度でした。略歴をたどると、サハリンという極東の生まれながら、7歳の時にはロシアの反対の端にあたる現ラトビアのリガ音楽院に入り、13歳でモスクワで高名なヴァイオリニスト、ボリス・クズネツォフに師事することになります。1960年代には、シベリウス・コンクールやバッハ・コンクールで優勝したほか、エネスコ・コンクール、チャイコフスキー・コンクールで上位入賞します。クズネツォフが亡くなった後は、ダヴィド・オイストラフに師事、1969年以降はリヒテルとナタリア・グートマンとの室内楽の活動を始め、またピアニストのワシーリー・ロバノフと頻繁に共演するようになります。これらのメンバーとドイツのバイエルン州ヴィルバート・クロイト(Wildbad Kreuth)で音楽祭を主催しますが、オレグ・カガンが1990年、癌のため43歳の若さで亡くなってしまいます。音楽祭はその後彼の功績を讃えてオレグ・カガン国際音楽祭と改名され、その後、妻のグートマンやリヒテルなどによって継承されということです。ようやく、彼の名を冠した音楽祭のことがわかりました。

リヒテルの強靭なピアノに対抗できる存在感のあるヴァイオリン、あらためて聴くとどのような印象になりますでしょうか。

Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
録音はライヴだけにすこし甘い感じですが、冒頭からオケの色彩感がなかなか良く出たもの。ハープシコードが雅な趣を加えています。穏やかな伴奏から始まりますが、カガンのヴァイオリンは師のオイストラフというよりシゲティを思わせる、強いテンションの持続音をベースとしたもの。淡々とメロディーを弾いていくだけですが、かなりの存在感。この演奏時、カガンは34歳くらいですが、すでに巨匠然とした堂々たる演奏。ヴァイオリンから華麗ではなく、強い浸透力のあり美音を轟かせていきます。伴奏を担当するシナイスキーも堂々とした演奏。小細工などなく、カガンが弾きやすいようゆったりとオケを鳴らします。盤石の信頼関係なのでしょう。カデンツァはヴァイオリンの響きの面白さを生かしたもの。1楽章は壮麗極まりないもの。
好きなアダージョですが、1楽章に続いてゆったりしたオケの伴奏に乗ってカガンが堂々と美音を披露します。ハイドンの美しいメロディの真髄をつく超絶的な美しさ。ヴァイオリンの音色がグイグイ迫ってきます。ヴィブラートが痺れます。ところどころ咳払いが聞こえますが、ホールに轟く美音に観客席も静まりかえります。
フィナーレの入りは意外にさりげない感じですが、徐々にオケの色彩感が溢れ出してきます。シナイスキーもここぞとばかりにオケを煽り盛り上げてきます。カガンのヴァイオリンはここにきて神々しいほどの輝き。ヴァイオリンという楽器の音色のもつ美しさとエネルギーの限りを尽くした演奏。最後の一音の余韻が消えると同時に聴衆の拍手に包まれます。この日の聴衆の驚きに満ちた拍手がこの演奏の素晴らしさを物語っています。

このアルバムの3曲目に収められたストラヴィンスキーのバイオリン協奏曲も痺れます。こちらはエフゲニー・スヴェトラーノフ指揮のロシア国立交響楽団との1979年のライヴ。現代音楽を得意していたというのは偽りではありません。こちらもカガンのヴァイオリンキレまくって、加えてスヴェトラーノフの伴奏も最高。こちらも痺れました。今までストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲のなかでも間違いなく一押しの名演です。

オレグ・カガンによるハイドンのヴァイオリン協奏曲。これまでカガンのヴァイオリンがこれほどまでに素晴らしいとは知らずにおりました。若くして亡くなってしまいましたが、存命であれば間違いなく現代最高のヴァイオリニストの一人だったでしょう。最近カントロフ、スークなど名手のヴァイオリン協奏曲を聴いて、ヴァイオリンの音色の魅力、ヴァイオリンという楽器の素晴らしさの奥行きの深さにあらためて驚いています。決してヴァイオリンの名曲という範疇ではないハイドンのヴァイオリン協奏曲ですが、ハイドンの曲は楽器の音色に対する鋭敏な感覚を踏まえて書かれており、カガンがその真髄に迫ったということなのだと思います。この演奏、録音が万全ではありませんが、それを補って余りある名演、ハイドンのヴァイオリン協奏曲の名盤として広くおすすめしたいものです。評価はもちろん[+++++]です。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ヴァイオリン協奏曲 ライヴ録音 ストラヴィンスキー

コメントの投稿

非公開コメント

へぇ~、カガンにハイドンの録音があったのか、と驚きました。

聴いてみたい!

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、こんばんは。
このようなアルバムは意図して探さないと出会いませんね。私も今回湖国JHさんに貸していただくまでその存在すら知らなかったアルバムです。オレグ・カガンのヴァイオリン、リヒテルが認めただけのことはありますね。この録音は貴重です。私も注文を入れてしまいました。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

時計ロンドン太鼓連打交響曲102番交響曲99番軍隊交響曲95番交響曲93番交響曲98番交響曲97番驚愕奇跡ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:37フルート三重奏曲古楽器LPオーボエ協奏曲ロッシーニドニぜッティライヒャピアノソナタXVI:34ピアノソナタXVI:48ディヴェルティメント弦楽三重奏曲皇帝ひばりピアノ協奏曲XVIII:3ピアノソナタXVI:20ストラヴィンスキーシェーンベルクミューザ川崎東京芸術劇場マーラーチェロ協奏曲東京文化会館ホルン協奏曲フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.2弦楽四重奏曲Op.17弦楽四重奏曲Op.9剃刀弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103ピアノソナタXVI:46ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:26ピアノソナタXVI:318人のへぼ仕立屋に違いないタリスモンテヴェルディパレストリーナアレグリ東京オペラシティバード天地創造すみだトリフォニーホールライヴ録音ピアノ協奏曲XVIII:11ピアノソナタXVI:6アンダンテと変奏曲XVII:6ヒストリカル交響曲1番告別美人奏者ピアノソナタXVI:39四季交響曲70番交響曲12番迂闊者アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:7ピアノ協奏曲XVIII:4バリトン三重奏曲SACDスコットランド歌曲ガスマンヴェルナーシューベルトベートーヴェンモーツァルトピアノソナタXVI:38哲学者交響曲67番交響曲80番ラメンタチオーネピアノソナタXVI:24交響曲35番交響曲51番交響曲46番ヴァイオリン協奏曲協奏交響曲DVDピアノソナタXVI:52交響曲47番十字架上のキリストの最後の七つの言葉テレジアミサピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3ピアノソナタXVI:40サントリーホール帝国ラ・ロクスラーヌハイドンのセレナード弦楽四重奏曲Op.76ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:51ラルゴ五度ピアノ三重奏曲日の出弦楽四重奏曲Op.64ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1リヒャルト・シュトラウス騎士弦楽四重奏曲Op.74交響曲17番ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:27シベリウス武満徹時の移ろい交響曲42番交響曲4番無人島ベルリンフィルホルン信号交響曲19番弦楽四重奏曲Op.55弦楽四重奏曲Op.54王妃交響曲86番交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:10リュートピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6ピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏交響曲39番冗談ナクソスのアリアンナ英語カンツォネッタ集アレルヤピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲81番交響曲79番交響曲78番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードドイツ国歌カノンモテットオフェトリウムスタバト・マーテルピアノソナタXVI:42弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールクラヴィコードパッヘルベルアダージョXVII:9受難パリセット交響曲84番ブーレーズベルク交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノショスタコーヴィチ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲50番交響曲89番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲交響曲38番火事リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲18番交響曲34番交響曲77番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生ピアノ小品音楽時計曲ピアノソナタXVI:47bisピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストピアノソナタXVI:14オーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:12変奏曲XVII:7ピアノソナタXVI:22オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノピアノソナタXVI:2ヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場裏切られた誠実マリア・テレジアバリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャ交響曲56番マリアテレジア交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番小オルガンミサ大オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番交響曲10番テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲107番交響曲62番交響曲108番変わらぬまことジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲9番交響曲2番交響曲3番スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
149位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
10位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ