絶品! ウィーンピアノ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々のピアノトリオ。しかも超名演盤です。

WienerKlavierTrio.jpg
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ウィーンピアノ三重奏団(Wiener Klaviertrio)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:12、XV:27、XV:25、XV:29)を収めたアルバム。収録は2008年8月22日から24日、ドイツ、ハノーファーの南西にあるマリエンミュンスターという街の修道院でのセッション録音。レーベルは独mDG。

ウィーンピアノ三重奏団は1988年に設立されたトリオ。このアルバムが録音された2008年には結成20周年とのこと。アルバムはハイドン没後200年のアニヴァーサリーである2009年にリリースされたものでです。

ヴァイオリン:ヴォルフガンク・レディック(Wolfgang Redik)
チェロ:マティアス・グレトラー(Matthias Gredler)
ピアノ:シュテファン・メンデル(Stefan Mendl)

設立当時からチェリストが変っているようですが、20年間、ヨーロッパ、アメリカ、日本を含むアジアの一線で活躍してきたようです。師事したのはアイザック・スターン、当ブログでも取り上げたチェリストのラルフ・カーシュバウム、ピアニストのヨゼフ・カリヒシュタインの他、ボザール・トリオ、グァルネリ四重奏団、ラサール四重奏団など。

Wiener Klaviertrio - Vienna Piano Trio

彼らのサイトを見ると、これまでに主要な作曲家のピアノ・トリオをmDGから10枚ほどリリースしています。なかなか堅実な仕事ぶりですね。

Hob.XV:12 / Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
最近の録音らしく鮮明で自然な響き。残響はそれなりにありますが、3台の楽器の響きは鮮明でダイナミック。響きの良い修道院の空間を感じさせながらも鮮明さを失わないなかなかの録音です。演奏は冒頭にも触れたとおり、オーソドックスな現代楽器によるアンサンブル。ピアノトリオの真髄であるリズムのキレの良さが際立ち、かなりメリハリの効いた演奏ですが、自然さもかなりあり、純粋にハイドン盛期の巧みな筆致が楽しめます。この演奏で思い出したのが、このトリオが師事したカリヒシュタインの参加したカリヒシュタイン・ラレード・ロビンソン・トリオによるピアノ三重奏曲の演奏。

2012/01/08 : ハイドン–室内楽曲 : カリヒシュタイン・ラレード・ロビンソン・トリオによるピアノ三重奏曲

記事を読み返してみると、選曲も1曲が異なるだけでほぼ同じ。ウィーンピアノ三重奏団の演奏の原点はカリヒシュタインの名演であるような気がします。気になって取り出し、聴き比べてみると、カリヒシュタインらの演奏はすこしゆったり目で各楽器の演奏にしっとりとした表情と余裕があります。ウィーンピアノ三重奏団の演奏は現代風に先鋭ですが、音楽の聴かせどころは先輩の演奏のツボを受け継いだものだと感じられます。鮮度の高い録音も相俟って、音楽の楽しみと緊張感が程よく同居した演奏。どこにも破綻を感じさせない完璧な演奏と言っていいでしょう。1楽章は素晴らしい覇気と迫力に圧倒されながら、テクニックののキレにも関心しきりです。
1楽章の迫力から一転、穏やかに残響を楽しむようなアンダンテ。3人の息がピタリと合ってクッキリとメリハリのついた音楽を奏でていきます。そしてフィナーレに入るとピアノのキレの良いリズムにヴァイオリンとチェロが呼応して火を噴くようなアンサンブル。素晴らしいテクニックを持つ奏者が楽しげに9分の力で演奏しているような余裕も感じられるところが素晴らしい。1曲目から素晴らしい演奏に圧倒されます。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
続いて名曲です。前曲で3人の素晴らしいテクニックと息の合ったところはわかっていますが、この曲で精緻なアンサンブルな上に抜群の躍動感を披露。しかもキリリと引き締まったアクセントによって、曲の魅力も精緻に描き出します。やはりピアノのシュテファン・メンデルの鮮やかなタッチがアンサンブルを引っ張りますが、ピアノだけがクローズアップされるのではなく、アンサンブルに一体感があり、長年アンサンブルをやっているだけのことはあります。特に強音のキレ具合は痛快なほど。
この曲のアンダンテは入りはさらりと穏やかなものの中間部のキレは恐ろしいほど。まるでこの部屋で演奏しているような超鮮明な録音によって素晴らしい迫力が味わえます。もはやあまりの素晴らしい演奏に、フィナーレはただ聴き惚れるのみ。次々と打ち鳴らされる巧みな強音を浴びるように聴きます。

Hob.XV:25 / Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
つづいて名曲ジプシーロンド。特徴的な冒頭のメロディーはさらりとやり過ごし、溜めを活かしながらカッチリとした音楽を創っていきます。もはや演奏に絶対的な信頼があるので、レビューというよりは純粋に楽しみながら聴きます。1楽章の引き締まった表情から2楽章のポコ・アダージョのゆったりとした音楽に移り、そしてフィナーレのジプシーロンドへの表情の変化は見事。3楽章は迫力の演奏かと思いきや、最後はかなりメロディーを崩してこの曲の面白さを強調してきました。このあたりは演出の上手さが光ります。

Hob.XV:29 / Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最後の曲も、実に余裕たっぷりにメロディーとリズムの面白さを表現。曲に仕込まれた機知をうまく拾い上げて音楽を造っていくあたりの手腕は見事と言うほかありません。時を刻む時計の神妙な響きのようなピアノのリズムにゾクゾクします。曲に潜む気配を感じ取る鋭敏な感覚に圧倒されます。1楽章から冴えまくり。独特の表情をもつ2楽章は音楽に静けさが宿る入り。短い楽章を物足りなく感じさせない深い表現。印象的な間が幽玄さを助長して至福の境地。そして快活なフィナーレに突入。転がるようなピアノ音階にヴァイオリンとチェロが応じ、最後は阿吽のやりとり。ピアノトリオの弦楽四重奏との決定的な違いである、ピアノの透明な響きの迫力をベースとした音楽のキレの良さを見せつけます。まるで白熱したジャズセッションのようなリズムの競演。古典派の枠内でのことですが、この音楽のキレは未曾有のもの。最後まで引きつけられっぱなしの名演でした。

はじめて触れたウィーンピアノ三重奏団の演奏ですが、あまりの見事さに圧倒されました。ハイドンのピアノトリオの名曲4曲を収めたアルバムの構成もすばらしく、また触れたとおり演奏も録音も絶品。ハイドンのピアノ三重奏曲の名盤として全ての人に聴いていただきたい超オススメ盤です。ハイドンの音楽の素晴らしさと室内楽の喜びに満ちた完璧な演奏。そしてなにより素晴らしい技術に裏付けられた、作為がくどくないオーソドックスなタイプの名演盤です。ウィーンピアノ三重奏団には是非、全集にトライしてもらいたいものです。評価はもちろん全曲[+++++]です。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ三重奏曲

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真打ち登場!

お久しぶりです。Daisyさん。やっと届きました、ウィーンピアノ三重奏団の新盤。まさに真打ち登場!です。

旧番の名演奏にずっと満足していたのですが、Daisyさんのレビューに惹かれて、やっぱり新盤が聴きたくなった次第。

〉まるで白熱したジャズセッションのようなリズムの競演。この音楽のキレは未曾有のもの。

全くお書きになっているとおりの演奏です。旧盤も良かったのですが、比べると新盤はふた皮くらい剥けています。

どこが良いかと言って、それは何よりダイナミズムでしょう。まるで覇気と才気溢れるベートーヴェンに、老獪な叡知が加味されたような音楽になっています。

それは、「ベートーヴェンの先取り」なんて大ハイドンに失礼なレッテルではなく、そもそもハイドンはこうだったのです。(結局、老獪な功緻と健康的なユーモアにおいて、ベートーヴェンはハイドンを越えられなかったのです)

バシバシと決まるアクセントが余りに小気味良いので楽譜を見ると、ハイドンはしっかりフォルテの中でフォルツァンド(その音を特に強く)を書いています。それもあちこちに。それを忠実に活かしたら、このような演奏になるのは必定。いつものパパハイドン的なまったりした音楽とは少し違いますが、こちらの解釈の方がハイドンのイメージしたものに近いのではないでしょうか?

彼らは楽譜を非常に精密に読み込んでいます。たとえば、スラーの最後の音譜がスタッカートになっているか、それともテヌートが付いているかで全く違うアーティキュレーションを施しています。もちろん、それはそうしなければいけないのですが、あんがい今までの演奏は曖昧なものも多いのですよ。

そこから生じるのは恐ろしいほどのキレキレ感です。てもそれがいたずらに独り歩きしてとんがった感じにならないのは、そこはウィーンの音楽家だからなのでしょう。

残念なことに、CD等のハイドンピアノ三重奏の解説を読むと、「英国の上流階級の子女を想定した華やかな甘さ」などと書いてあるので、いかにも「遅れてるなー」とため息を付かざるを得ないのですが、そんな音楽評論家諸氏には、ぜひ聴いていただきたいのが、このウィーンピアノ三重奏団の新盤であります。

ウィーンピアノ三重奏団の新盤は、既成のハイドン・ピアノ三重奏曲像の修正を迫る圧倒的超名演盤です。

Re: 真打ち登場!

Skunjpさん、コメントありがとうございます。週末もお忙しくされているようですね。

さて、ウィーンピアノ三重奏団の新盤がようやく届いたとのこと。これだけの名盤で録音も古くないのに手に入りにくいのはいけませんね。このアルバム、記事にも書いたように私も衝撃を受けたアルバムですが、Skunjpさんが書かれた言葉がこのアルバムの真価を表しているでしょう。

>ウィーンピアノ三重奏団の新盤は、既成のハイドン・ピアノ三重奏曲像の修正を迫る圧倒的超名演盤です。

室内楽にピアノの華やかな音色が加わっているばかりではなく、鍵盤楽器独特のリズムというかアタックの表現をピアノ三重奏曲の本質的な面白さと見るかどうかがポイントかもしれませんね。そう言う意味ではユッタ・エルンストも同様のポイントで一歩ならず二歩三歩と踏み込んでいますね。このあたりが古楽器ではなく現代楽器でハイドンのピアノ三重奏曲を演奏する上での面白さであり、ジャズにも通ずる面白さかもしれません。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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