ジェルノ・ジュスムース/シンフォニア・クラシカの哲学者、受難など(ハイドン)

今日は交響曲ですが、アルバムにはディヴェルティメントと弦楽四重奏曲の管弦楽版が含まれた変わった趣向のもの。

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ジェルノ・ジュスムース(Gerno Süssmuth)指揮のシンフォニア・クラシカ(Sinfonia Classica)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.X:3)、交響曲22番「哲学者」、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1の管弦楽版、交響曲49番「受難」の4曲を収めたアルバム。収録は2007年、イングランド南西部のタウストック(Tawstock)にある教区教会でのセッション録音。レーベルは英LandorRecords。

このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいているもの。だだの交響曲のアルバムと思いきや、そうではありませんでした。指揮者のジェルノ・ジェスムースは、以前取り上げたペターセン四重奏団の第2ヴァイオリン奏者。ペターセン四重奏団といえば、ハイドンの最初の弦楽四重奏曲Op.1のあまりに見事な演奏が記憶に新しいところです。

2014/08/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)

その緻密な構成をオケで再現したらと思うと、ちょっとゾクゾクします。しかも収録曲には管弦楽の演奏にもかかわらず、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1まで含まれており、否が応でも期待が高まります。はやる期待を抑えて奏者の情報をライナーノーツなどからさらっておきましょう。

シンフォニア・クラシカは、2003年イングランド南西部のヨーヴィル(Yeovil)とバーンスタプル(Barnstaple)のホールでEU室内管弦楽団のメンバーとはじめてコンサートを行った新進オケ。以来この2都市で毎年のように演奏しています。今日取り上げるアルバムがデビュー盤のようです。
指揮者のジェルノ・ジュスムースは9歳でハイドンのヴァイオリン協奏曲を演奏会で演奏したという経歴があり、また若い演奏者のための様々なコンクールの入賞歴があります。1980年にベルリンのハンス・アイスラー音楽院に入学し、旧東独にあった音楽院のオケのリーダーを務めました。その後ベルリン放送交響楽団のコンサートマスターとして働き始め、2003年にはザルツブルクとイギリスで新ベルリン室内管弦楽団を率いてコンサートを開いています。先に触れたペターセン四重奏団には1991年から1999年まで所属し、その間多くの賞を受賞しており、フィレンツェで行われたヴィットリオ・グイ室内楽コンクールで1等を獲っているとのこと。以後バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場で首席奏者、ワイマール国立歌劇場でコンサートマスターなどを務めました。近年ではハンス・アイスラー音楽院で教職についています。

腕利きのヴァイオリン奏者であるジュスムースが率いる新進のシンフォニア・クラシカがペターセン四重奏団ばりの緊密な音楽を生み出すのでしょうか。興味津々。

Hob.X:3 / Divertimento : Baryton Octet Nr.3 [a/A] (1775)
実はジャケットには曲名がHob.X:10と記載されているのですが、聴いてみると明らかに違う曲。X系列の曲を他のアルバムで確認するとこれはHob.X:3であることがわかりました。もともとバリトン八重奏曲として書かれた曲ですが、弦楽合奏にオーボエとホルンのソロが加わったもの。バリトンが加わった演奏は何種か手元にあるのですが、バリトンの不可思議な音色と古楽器の音色のハーモニーを楽しむ曲です。ところがこの演奏ではキレの良いオケによって、バリトンでの演奏で薄れがちなメロディーをしっかり描いた面白さが存分に味わえます。
テンポは中庸、短調のほの暗い響きから入ります。オケはキリリとリズムが引き締まりながらも適度にリラックスして余裕のある演奏。そう、私の好きなタイプの演奏です。アダージョ、アレグロ、アレグレットの3楽章構成で、最後のアレグレットが長い変わったもの。2楽章は晴朗、快活なハイドンらしい曲。こうした曲では演奏のキレの良さが引き立ち、まさに弾むような音楽。ペターセン四重奏団の精妙な演出にはちょっと敵わないとは思いますが、基本的に質の高い演奏。特に第1ヴァイオリンのキレっぷりは見事です。旋律がクッキリと浮かび上がり曲の構造が透けて見えるようです。3楽章はオーボエとホルンのソロが活躍。変奏が次々と進み、バリトン八重奏曲というよりは普通のディヴェルティメントのように聴こえます。こうして聴くと実に穏やかないい曲。音楽の造りはペターセン四重奏団と共通する全体の見通しの良さが感じられます。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章から独特の曲想がユニークな哲学者、聴き進むうちにトランス状態になりそうな実に穏やかな曲です。かなりクッキリとした規則正しい伴奏のリズムに乗って穏やかなメロディがホルンなどの楽器をつなぎながら奏でられていきます。特にヴァイオリンのメロディーのキレの良さが印象的なのは前曲同様。ハイドンの曲のツボを完全に掌握しています。各パートの丁寧な描写から穏やかな曲に潜む音楽の面白さがにじみ出るような秀演。やはり音楽の構成は精妙。
つづくプレストは竹を割ったような直裁な響きのオケが見事な一体感で攻めてきます。デュナーミクの精緻なコントロールが鮮やか。鮮明、クッキリなオケがグイグイ音楽をまとめていきます。一呼吸おいてさっとメヌエットに移ります。リズムの変化の繊細さも見事。途中から入るホルンも見事なアンサンブル。癖のない精緻なアンサンブルの魅力をストレートに聴かせてきます。フィナーレも慌てず、堅実なアンサンブルが続きます。最後に及んで、湧き上がる喜びのようなものを実にうまく表現していきます。メロディーのエッジをキリリと立てて隈取りクッキリ。素晴らしい推進力。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
弦楽四重奏の演奏とは次元の異なる分厚い響きに最初から圧倒されます。同じく弦楽合奏ではエミール・クライン盤も素晴らしい演奏でしたが、クライン盤が優雅かつ典雅な方向の演奏だったのに対し、こちらはタイトでダイナミックに切り込む感じ。穏やかなばかりの演奏ではありません。楽章ごとに音の厚みというか奏者の人数を変え、楽章間のコントラストはかなりきっちりつけて曲の構造をクッキリと印象づけます。1楽章は分厚くタイトに切れ込み弦楽四重奏では出しにくい力感を見事に描きます。2楽章は少し力を緩めてメヌエットを描きますが、素晴らしいのは中間部のピチカートの部分。ゾクゾクするような立体感。そしてアダージョは弦楽四重奏そのままのように楽器を絞って精妙なハーモニーを聴かせます。4楽章のメヌエットは静けさを切り裂くような弦の強音から入り、強弱の対比をつけながら曲を展開。印象に残る響きを創るのが非常に上手いですね。フィナーレはさっとキレ良く終了。この曲の新たな魅力をまた知った感じです。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最後にシュトルム・ウント・ドラング期の名曲を持ってきました。基本的に鮮明でキレの良いオケですが、音楽に一貫した姿勢があり表現過多には聴こえず、むしろ曲ごとに緻密な設計があって、それを忠実に表現しているよう。この曲では出だしの印象的なアダージョはキレの良さよりも、しっとりとしたほの暗さをうまく演出して、徐々に明るい光が射していく場面への変化も見事です。一貫した味わいのある現代楷書のよう。表現手法はオーソドックスなのに、表現にキレがあり全体のバランスも実にいい感じ。オケの経験と力量からすると、ジェスムースが緻密にコントロールしているということでしょう。
2楽章のアレグロ・アッサイに入ると力感が増しますが、冷静に細部をコントロールしているようでもあり、没入してしまうことはありません。適度な高揚感のもと響きを磨き込むことを意識して、クリアにまとめます。メヌエットはほの暗さを保ったまま、比較的穏やかにまとめ、フィナーレに備えます。期待通りフィナーレに入るとオケのテンションが上がりパート間でせめぎ合います。ただし、曲が進むにつれてテンションがさらに上がるかと思いきや、だんだん抑えてきて最後にあっさりと終わるさらりと粋なところを見せます。

ペターセン四重奏団のメンバーだったジェルノ・ジェスムースの振るシンフォニア・クラシカのデビューアルバム。オケとしての演奏の精度は見事なものがあり、他の有名指揮者による演奏と比べてもクッキリとした表情の描き方は素晴らしいものがあります。最初のディヴェルティメントと哲学者ではその辺の長所が活きて、曲ともマッチしていたのですが、3曲目の弦楽四重奏曲では、その演出がちょっと強くなった分、曲の新たな魅力を引き出す一方、曲自体の面白さを生かした他の演奏との印象の違いも少々気になる部分を残してしまいました。最後の受難では指揮者のもう一段の踏み込みがあってもいいかもしれないという印象でした。ということで評価は前半2曲は[+++++]、後半2曲は[++++]とします。受難はきっちりとまとまり良い表現に一段良い評価をする人もあるかと思いますが、ちょっと響きに関心が集中しすぎてるのではとの思いです。

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tag : ディヴェルティメント 哲学者 弦楽四重奏曲Op.1 受難

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