カザルス四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

ちょっと間をあけてしまいました。珍しく九州出張や飲み会続きで今週は家で夕食食ってません。ようやく週末ということで、CDラックをほじくり返して、レビューすべきアルバムをいろいろつまみ聴きして選んだアルバムがこちら。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

カザルス四重奏団(Cuarteto Casals)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は2012年11月、ベルリンのテルデックススタジオでのセッション録音。レーベルは仏harmonia mundi。

カザルス四重奏団ははじめて取り上げます。スペイン、マドリードのソフィア女王音楽院で1997年に設立されたクァルテット。その後バルセロナなどで学び、ケルンではアルバン・ベルク四重奏団にも師事しています。彼らの名が知られるようになったのは2000年にロンドンで開催された国際弦楽四重奏コンクール、2002年にハンブルクで開催されたブラームスコンクールでそれぞれ1等に輝いてから。2006年には国際的な活躍が認められ、スペイン音楽賞に輝きました。

Cuarteto Casals - official website

彼らのウェブサイトを見るとすでに12枚のアルバムが名門harmonia mundiからリリースされています。ハイドンについてはこのアルバムの他に2008年録音のロシア四重奏曲6曲の録音があり、すでに手元にあります。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アベル・トマス・レアルプ(Abel Tomàs Realp)
第2ヴァイオリン:ヴェラ・マルティナス・メーナー(Vera Martinez Mehner)
ヴィオラ:ジョナサン・ブラウン(Jonathan Brown)
チェロ:アルノー・トーマス・レアルプ(Arnau Tomàs Realp)

ということで、ヨーロッパでも高く評価されているであろう、カザルス四重奏団の十字架、どのように響きますでしょうか。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
スタジオ録音とは思えない豊かな残響。部屋にこだまする響きをともなう録音。現代楽器のようですが、響きは古楽器風の直裁なもの。ヴィブラートは控え気味で、逆に弓の弾き終わりにぐっとアクセントをつけて響きを豊かにしようとしています。序章は鋭く峻厳。4人の一体感は素晴らしく、冷徹なまでにボウイングが揃ってます。互いの音がよく聞こえているのでしょう。音楽はスタイリッシュな鋭い劇性を帯び、現代音楽のように響きます。音量を抑えた部分の表現の繊細さも流石です。

第1ソナタに入ると、テンポはあまり落とさず、意外にサクサクと進めていきます。表情をかなりデフォルメしての演奏ですが、ミケランジェロの彫刻のような筋肉の存在を浮き立たせるようなものではなく、あくまでスタイリッシュでアーティスティック。モノクロームのオリジナルプリントを見るよう。黒の深みのなかに豊かな階調が表現されているような凛とした雰囲気を醸し出します。終盤どことなく不協和音のような響きを織り交ぜ、表情を引き締めます。

第2ソナタは彼らの劇性の表現がわかってきましたので、落ち着いて音楽に身を委ねられます。聴きなれたメロディーですが、メロディーは馴染むものの、響きはかなり鋭敏で峻厳。この曲の祈りのような静謐感を完全にアーティスティックに昇華した感じ。この曲の美しいメロディーは終盤、宝石のように輝くのですが、その光が青白く光るような艶かしさ。

静寂感の美しい第3ソナタ。力がうまく抜けて、メロディーの美しさが際立ちます。よく聴くとかなりのうねりをともなうボウイング。少しもくどい印象は残さず、一貫してアーティスティック。アルノー・トーマス・レアルプのチェロのみが柔らかく木質系の音色なので、鋭いヴァイオリンの音色を逆に引き立てます。

第4ソナタでは強音と弱音のコントラスをしっかりつけた演奏。ヴァイオリンの音に浸透力があり、こちらが圧倒されるほどの迫力。続く第5ソナタはピチカートの伴奏が独特の表情をもたせる好きな曲。こちらはそれほど凝らずに自然な表情の美しさで聴かせます。やはり迫力はかなりのもの。強音とそうでない部分のコントラストも重要なのでしょう、中盤の盛り上がりはムチがしなるような強音をちりばめ、そのくっきりとした影の美しさで聴かせます。ここが表現上、この曲の頂点としているよう。時折奏者の唸り声のようなものまで録られています。

そして大詰め、第6ソナタは険しい入りから陽が射すような暖かな音楽への転換で聴かせます。響きの変化を巧みに操り、影の部分の険しさから、しなやかな暖かいフレーズへの移りかわりを何度か繰り返します。張り詰めた高音と寄り添う伴奏の響きが共鳴し合いながら音楽をつくっていきます。暖かい音楽になるたびに緩む緊張が心地よいですね。

最後のソナタ、第7ソナタはこれまでの緊張を解きほぐすようにゆったりと抑えた音楽。弱音器により響きが抑えられ、鋭い音色が鈍く変わり、響きのエッセンスのみ音楽に。抑えながらも表現意欲がほとばしるような演奏。消え入るように音楽が沈んでいきます。

最後の地震はこのソナタで一番の強音。まさに天地が裂けるような音楽にします。アンサンブルの精度も最高。たった4本の弦楽器とは思えない、オーケストラのような響き。怒涛のフィニッシュ。最後に入魂の演奏が待ってました。

カザルス四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲の第2弾。この前に録音されたロシア四重奏曲ではこのアルバム同様の古楽器然とした演奏による美麗な演奏でしたが、もう一歩の踏み込みが欲しいと思わせるものがありましたが、この十字架の方はその一歩の踏み込みがありました。現代のクァルテットの表現力を誇示しながらも、冷徹、峻厳、そして時に抑えが効いた素晴らしい音楽を奏でています。ハイドンのこの名曲には様々なスタイルの演奏が存在しますが、現代のスタイリッシュなタイプの演奏のオススメ盤として広く聴いていただきたい名演奏です。評価は[+++++]とします。

早いもので、明日は1月に亡くなった叔父の四十九日です。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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