テルプシコルド四重奏団のOp.33(ハイドン)

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テルプシコルド四重奏団(Quatuor Terpsycordes)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33からNo.5、No.2「冗談」、No.1の3曲を収めたアルバム。収録は2005年11月20日から23日にかけて、スイス、ラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueでのセッション録音。レーベルはスイスのclaves。
最近アバドとモーツァルト管の協奏交響曲や、つい先日取り上げたファブリツィオ・キオヴェッタのピアノソナタ集などいい録音を相次いてリリースしているスイスのclaves。そのclavesからリリースされている弦楽四重奏曲ということで興味を持った次第。しかも曲もロシア四重奏曲という絶好の選曲。
テルプシコルド四重奏団は初めて聴くクァルテット。1997年にジュネーヴで4人の若者によって創設されたクァルテット。イタリア人、ブルガリア人と2人のスイス人の組み合わせ。
第1ヴァイオリン:ジローラモ・ボッティリェーリ(Girolamo Bottiglieri)
第2ヴァイオリン:ラヤ・ライチェヴァ(Raya Raytcheva)
ヴィオラ:カロリーネ・ハース(Caroline Haas)
チェロ:フランソワ・グリン(François Grin)
設立後、ジュネーヴ音楽院でタカーチ四重奏団の創設者、ガボール・タカーチ=ナジに師事し、音楽院での芸術賞で1等となったのを皮切りにシシリアのトラパニ、ドイツのワイマール、オーストリアのグラーツのでのコンクールで優勝しています。レパートリーは古楽器による演奏から現代音楽までと幅広く、デビュー盤はシューマンの弦楽四重奏曲集。
若手のクァルテットの演奏を聴くのは楽しみですね。
Hob.III:41 / String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
このアルバムでは古楽器にガット弦での演奏。古楽器といっても音色は現代楽器に比較的近いふくよかさはあります。録音は最近のものらしく鮮明。そして名録音会場であるラ・ショー=ド=フォンのSalle de Musiqueらしい、自然な残響がわずかに感じられるバランスの良いもの。テンポは速めに入るのですが、適度にリラックスしていて、折り目正しいというよりは、自然な音楽が心地良い感じ。変に精妙さを表現しようとすることはなく、自然な起伏と躍動感を主体とするスタイルのようです。このロシア四重奏曲の演奏ではそういったスタイルの演奏の方が曲に合っている感じですね。音楽を楽天的に楽しむという本来の姿。ハイドンの美しいメロディーがキレ良く踊る素晴らしい1楽章。
2楽章のラルゴ・カンタービレに入ると自然さはそのまま、短調の翳りのような気配を程よく感じさせるデリケートな表情の変化をみせます。そしてスケルツォでは、テンポを自在に揺らして曲想の面白さを際立たせます。楽章間のスタンスの変化が鮮やかで、音楽にくっきりとメリハリがつきます。そしてさらりとフィナーレに入るあたりのセンスも実にいい。曲が進むにつれて表現の幅が広がり、ハイドンが仕込んだ急転部分も鮮やかにキメます。楽譜を深く読みこなして、そこに潜む音楽を再構成する巧みさがこのクァルテットの聴きどころとみました。
Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
有名な冗談。実におおらかな表情での入り。いきなり癒しに包まれます。フレーズ毎に実に豊かに表情をつけ、軽さもおおらかさも躍動感もある演奏。あいかわらず楽天的な気分は一貫しています。この気分こそがハイドンらしさなのかもしれませんね。演奏のスタンスは前曲同様一貫していて、楽章ごとにスタイルを変え、またフレーズ毎に大胆に変化をつけていきます。2楽章のスケルツォは遊び心に満ちた表現に引き込まれます。そして3楽章では弦楽器本来の木質系の渋い響き自体の存在感を際立たせます。これまでの楽天的な気分が吹き飛ぶ深い闇。表現のボキャヴラリーの多彩さに驚きます。フィナーレはご存知の通り、軽いタッチで入り、最後まで軽さの表現が見事。意外に3楽章の深さにしびれました。
Hob.III:37 / String Quartet Op.33 No.1 [b] (1781)
このアルバム最後の曲。短調の入りからタイトさと色彩感と素朴な感じがいいバランス。響きを揃えるという視点はなく、音楽を自在に描いていこうとする姿勢の一貫性が素晴らしい。しかもいい意味で適度な粗さがあって、無理やり緻密に弾こうとしていないのが肩肘張らない感じにつながっているのでしょう。さらりと2楽章のスケルツォに入り、鮮やかにフレーズを切り替えていくところは同じ。3楽章のアンダンテはユーモラスな表情をじっくりと描いていきます。これまで特段ボッティリェーリのヴァイオリンが目だったわけではないのですが、この楽章ではなかなか美しいヴァイオリンを聴かせます。そしてフィナーレでは鮮やかな弓捌きの饗宴。かなり速いパッセージながらテクニックの誇示のように聴こえる部分は皆無。音楽としのまとまりがしっかりとついています。
事前の予想ではもうすこし若さや表現意欲が先に立つ演奏かと思いきや、音楽の表現の幅が広く、表情の豊かさはかなりのもの。若手ではありますが、これは要注目のクァルテットでしょう。ハイドンをこれだけ上手くこなすということでも、このクァルテットの並々ならぬ実力が伺い知ることができますね。私は非常に気に入りました。ということで評価は3曲とも[+++++]とします。ハイドンの録音はもう一枚「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がリリースされていますので、これは早速入手しなければなりませんね。


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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 冗談 古楽器