フーゴ・ヴォルフ四重奏団によるOp.33、Op.20ライヴ(ハイドン)

コンサートや旅行の記事が続いたので、レビューから少しご無沙汰しておりました。そうこうしているうちにいつも当方の所有盤リストにないアルバムを貸していただく湖国JHさんから、新たに何枚かのアルバムが届きました。そのうちの1枚。

HugoWolfQ.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

フーゴ・ヴォルフ四重奏団(Hugo Wolf Quartett)の演奏による、ハイドンのロシア四重奏曲Op.33のNo.5、太陽四重奏曲Op.20のNo.3、No.4の3曲を収めたアルバム。収録は2009年7月13日、18日、オーストリアのアイゼンシュタットの少し南にあるロッケンハウス(Lockenhaus)の聖ニコライ教会でのライヴ。レーベルはVMS Music Tresure。

このアルバム、実は私も海外に注文を入れていて、それが届く前にこちらが先に届いたので早速レビューです。

アルバムタイトルは”Live in Lockenhaus”というもの。なぜかカナで打つと私のMacは六軒ハウスと妙にリアルな変換(笑)。このライヴはギドン・クレーメルが1981年に創設したロッケンハウス室内楽音楽祭の2009年のライヴということで、この年に没後200年を迎えたハイドンの曲が演奏されたということでしょう。

奏者のフーゴ・ヴォルフ四重奏団は1993年にウィーン音楽大学で設立されたクァルテット。アルバン・ベルク、スメタナ、アマデウス、ラサールらクァルテットの大御所に師事(なんと豪華な!)し、すぐにウィーンフィル特別賞、室内楽ヨーロッパ賞などに輝きました。その後は国際的に演奏活動を繰り広げ、日本のサントリーホールでもコンサートを開いたとのこと。レパートリーは古典から現代音楽まで幅広く、彼らに献呈された現代曲もいろいろあるようです。ウェブサイトがありましたので、リンクしておきましょう。

Welcome | Hugo Wolf Quartet

このアルバムに参加している奏者は次のとおり。

第1ヴァイオリン:セバスチャン・ギュルトラー(Sebastian Gürtler)
第2ヴァイオリン:レジ・ブリンゴルフ(Régis Bringolf)
ヴィオラ:ゲルトルート・ヴァインマイスター(Gertrud Weinmeister)
チェロ:フローリアン・ベルナー(Florian Berner)

Hob.III:41 String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
教会でのライヴらしい、豊かな残響に包まれた一体感ある音響。ただ鮮明さもほどほどあり、コンサートを楽しんでいるのに近い録音。ライヴですが会場ノイズはほとんと聞こえず、ライヴとしては理想的な録音です。フーゴ・ヴォルフ四重奏団の演奏は鮮度抜群、推進力抜群、4人のまとまりもかなりのレベルということで、冒頭から最上のライヴを客席で楽しむような素晴らしいもの。まるで生きた魚が跳ねるようなバネの強い躍動感と緊張感。ロッケンハウスということでクレーメルの眼鏡にかなう出演者が選ばれているのでしょうか。クレーメルの殺気のようなもととは少し異なりますが、キレ味の鋭さはかなりもの。この音楽祭のレベルの高さが伺えるというものです。1楽章は手に汗握る展開。ハイドンなのにメチャメチャスリリング。音量を上げて聴くとまさにコンサート会場にいるようなリアリティ。
このクァルテットの凄さはつづくラルゴで確信しました。この切々たる音楽の彫りの深い描き方。アーティスティックさを保ちながら、グイグイ迫る迫力、ちょっと遅れて入るチェロのセンスの良さ、抑えた部分の精妙なバランス、どれもこれ以上の演奏はあり得ないほどに完成度が高い。超低音の会場ノイズが入り、ライヴだと気付かされます。
メヌエットは緩急自在。4人の息がピタリと合って見事なテンポのコントロール。クァルテットの表現力の幅の広さを思い知らされます。次々と繰り出されるメロディーの面白さに釘付け。
そしてフィナーレは実に落ち着いた入り。楽譜を読みきっている自信がみなぎる落ち着き。変奏ごとに絶妙な表現のコントロールが加わり、進むごとに至福度が徐々にアップしていく快感。徐々にメロディーが変化する意味がよくわかります。最後はメロディーがカオスのようにからまり終了。1曲目から度肝を抜く素晴らしさ。

Hob.III:33 String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
太陽四重奏曲の中でも地味な曲を選んできました、なぜこの曲を選んだか演奏を聴くと理由がわかるような気がします。この曲のメロディーに潜むものをすべてが彼らの音楽で置き換えられていると言っていいほどの説得力に冒頭から打たれっぱなし。これほどの確信をもって演奏されたこの曲の演奏を知りません。教会堂に響き渡るハイドンの機知。すべての音符が書かれた理由を知り尽くしているがごとき踏み込み。これ以上つっこむとくどくなるという寸前。というかくどさという印象は一切感じませんがものすごい踏み込みに圧倒される感じ。演奏している教会堂ごとフーゴ・ヴォルフ四重奏団に完全に支配されているよう。
2楽章はメヌエット。この曲自体の演奏の神が乗り移ったかのような推進力はこの楽章でも変わらず。数あるクァルテットのなかでもこの集中は稀に見るほどの見事さ。短調から長調へのさりげない変化も流石。
つづく3楽章のポコ・アダージョは今度は精妙なアンサンブルの魅力を遺憾なく発揮。弱音のバランスもさることながら、ここにきてチェロの雄弁な演奏が光ります。ライヴでの究極の洗練が聴かれます。しなやかにうねる曲想。天上に抜けるような上昇感と静寂に吸い込まれる響き。フィナーレは疾走する感じを実に上手くまとめ、アンサンブルの一体感を見せつけて終了。

Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
このクァルテットの素晴しさを十分に理解しての最後の1曲は、もはや圧倒的と言っていい出来。冒頭のざわめきのような響きからメロディーが浮かび上がり、何度か楔が打たれながら音楽が形作られていく様子はまさにそこで熱い鉄が打たれているようなリアリティ。すべての音符が有機的に絡み、このクァルテットにより再構成されて、イキイキとした音楽として迫ってきます。けっして不自然にはならず、音楽の赴くままを演奏しているように聴こえるのが流石なところ。
1楽章もさることながら、長い2楽章の構成感も見事。音楽が変奏ごとにしっとりと表情を変えながら進み、徐々に装飾を加え、ハイドンの音楽本来の表情が浮かび上がってきます。ここでもチェロが音楽の表情を豊かにしていきます。変奏ごとの音楽の描き分けの見事さはこのクァルテットのすぐれた特徴の一つでしょう。そして短いメヌエットを経てフィナーレへ。フィナーレは鮮明なアンサンブルと推進力のショーケースのような楽章。ただテクニックを誇示する演奏とは異なり、フレーズごとに実にしっかりとした表情がつき、この速い楽章が実にくっきりと表情が浮かび上がるのが流石。最後の曲には湧き上がるような会場のからの拍手が降り注ぐ様子が録られてています。

いやいや、このフーゴ・ヴォルフ四重奏団によるハイドン、超名演です。2日のコンサートの記録を合わせたアルバムですが、真っ赤に燃えたぎる火の玉のようにエネルギッシュな演奏にも拘わらす、ハイドンの曲を演奏するののに不釣り合いなところがある印象はありません。このライヴに立ち会った人はものすごいネネルギーを得て帰ったことでしょう。流石にロッケンハウスのプログラムに組み入れられるだけのことはありますね。このアルバムの演奏、全曲『+++++]としたいと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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