ペーター・アルノルトのホルン協奏曲(ハイドン)

10月最初の記事は協奏曲。

PeterArnoldHorn.jpg
amazon

ペーター・アルノルト(Peter Arnold)のホルン、エルンスト・ウィダム(Ernst Wedam)指揮のボフスラフ・マルティヌー・フィルハーモニー(Bohuslav Martinů Philharmonie, Zlin)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)、伝ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:4)、カール・シュターミツのホルン協奏曲、ミヒャエル・ハイドンのホルン協奏曲の4曲を収めたアルバム。収録は1992年1月19日から24日、チェコのズーリン(Zlin)のDům Umeníというコンサートホールでのセッション録音。レーベルはDEUTSCHE SCHALPLATTEN。

このアルバムもホルン好きな湖国JHさんから貸していただいているもの。アルバムの存在も奏者も未知のものゆえ、CDプレイヤーにかけ、最初の音が響くまでの緊張感がたまりません。

奏者のペーター・アルノルトは1952年、ルクセンブルク国境に近いドイツのトリール(Trier)という街の生まれ。バーデン=バーデン、ハイデルベルクで父、カール・アルノルトに学び、エッセンではホルンの巨匠、ヘルマン・バウマンに師事します。多くのホルンコンクールで優勝し、1974年にエッセンフィル、1976年にはSWF放送響の首席ホルン奏者に抜擢され、以後は室内楽やソリストとして国際的に活躍したとのことです。

ボフスラフ・マルティヌー・フィルハーモニーは1946年設立と歴史あるオケ。ヨーロッパでは知られた存在のようですが、録音が少ないせいか知名度はイマイチ。ただチェコのオケということで、それなりに良い響きが期待できそう。指揮のエルンスト・ウィダムについてはあまり情報がありませんし、録音もこのアルバム以外に目立つ録音もなさそうな人。

マイナー盤の香りが立ち昇って、目にしみる感じですが、このようなアルバムに良い演奏が多いという経験的な推論がジャストミート。このアルバム、なかなかの出来です。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
年代なりの燻らせたような響きは感じるものの、冒頭の序奏から実にしっとりとオケが入ります。オケはかなりレガートを効かせて流れの良い演奏。音楽が躍動する見事な入り。アルノルトのホルンは最初は少し奥に定位して、控えめですが、ホルンの音色は実にしなやか。磨き抜かれて角がとれたまろやかな音色。録音は実に自然でオープンリールのマスターテープのような安定感。力みもなく、自然なテクスチャーで演奏が続きます。1楽章は力の抜け具合が尋常ではありません。どうしたらこれほど素朴に音楽が奏でられるのでしょうか。カデンツァではアルプスに響きわたるようなゆったり壮大なホルンのソロ。ホルンという楽器に宿る魂が自ら歌っているような超自然なホルン。ソロも指揮も、オケも私欲ゼロの素朴な音楽にゆったり浸かります。
聴きどころの2楽章。ゆったりしたテンポというか気配というか、癒しに満ちた時間が流れます。これほどしみるアダージョは久しぶり。オケの序奏だけで昇天しそうな安らぎ。ゆったりとホルンが入るとさらに癒しが深くなります。すぐに音程が下がりますが、これほどしっとりと鳴らすホルンは初めて。もはや協奏曲というソロとオケの緊張感は消え去り、ひたすら安らぎだけを紡いでいこうとしているよう。溶けてバターになっちゃいそうなほどのとろけ具合。ホルンの抑えた低音が心に滲みまくります。オケの伴奏がかなりの起伏で大波を送り、それにホルンが揺られるような心地良さ。この楽章のカデンツァはもはやホルンの魂そのもののような凝縮感。
ゆったりした気配を引き継いでフィナーレに入りますが、オケのしなやかさは変わらす、ホルンを綿で包むような優しいサポート。それにそっと寄り添うアルノルトのホルン。とんがったところは皆無。そしてオケに合わせて朗々と歌うホルンの魅力を垣間見せながら、ゆったりと音楽をつくっていく才能を持っています。最後のカデンツァで朗々と響きわたるホルンの音色を聴かせて終了。いやいや、これは絶品ですね。

Hob.VIId:4 Concerto per il corno [D] (1781) by Michael Haydn?
現在ではハイドンの作品ではないであろうと思われている曲ですが、録音は少なくありません。表情を抑えながらもホルンの魅力ある音色で吹き続けるアルノルトの妙技に惚れ惚れとします。オケも前曲と変わらず好サポート。どちらかと言うと雄弁なオケに、ゆったりとしたホルンが寄り添っている感じ。難しそうな音程のジャンプをそれなりに難しそうに演奏するあたりが、アルノルトの巧さと見ました。自然なカデンツァがここでも好印象。ホルンの語り口の巧さが光ります。
短調のリリカルなメロディーが印象的な2楽章、入りからオケが鳴きまくりです。ホルンは逆にかなり表現を抑えて淡々、朗々、ゆったりと音楽を紡いでいきます。抑えた表現から情感が滲み出る名演。ソロもオケもしっとりと濡れたようなしなやかさがあり、それが音楽を静かに生き生きと進めさせます。
フィナーレも抜群の安定感。ここまで、テンポは揺らさず、しっとりと控えめな表情は変えず、一貫した演奏。それなのに楽章間の対比が単調だと感じさせることは皆無、音楽は弾みながら静かに躍動します。これはなかなかできることではありません。ホルンもオケも見事すぎる素晴らしさ。最後のカデンツァも自然さを保ちながらのホルンの妙技に痺れました。完璧。

この後のシュターミツ、ミヒャエル・ハイドンの協奏曲も見事。特にシュターミツのホルン協奏曲がこれほど面白い曲だと初めて知りました。

未知のホルン奏者、ペーター・アルノルト。ホルンはテクニックではなく、音色をコントロールしながら、どう響かせ、どう歌わせるかだとでも言いたげな素晴らしい演奏。デニス・ブレインの図太い直裁なホルン、師であるヘルマン・バウマンのきっちりとコントロールされたホルンとも異なるしなやかな演奏ですが、説得力はブレイン、バウマン以上に感じます。伴奏のエルンスト・ウィダムとボフスラフ・マルティヌー・フィルハーモニーも、無名ながら、実に味わい深い演奏でソロを支えています。このアルバム、これまでに聴いたホルン協奏曲のベスト盤だと思います。チェロ協奏曲における、エアリング・ブロンダル・ベンクトソン盤のような存在。しなやかな癒しに満ちた名盤です。評価は両曲とも[+++++]とします。湖国JHさん、これは見事ですね!

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ホルン協奏曲

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
スクロールできます。

弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103古楽器ピアノソナタXVI:378人のへぼ仕立屋に違いないファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:31ピアノソナタXVI:26ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:46アレグリモンテヴェルディ東京オペラシティパレストリーナバードタリスすみだトリフォニーホール天地創造ライヴ録音ピアノ協奏曲XVIII:11マーラーストラヴィンスキー弦楽四重奏曲Op.9アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:6ピアノソナタXVI:48告別ヒストリカル交響曲1番交響曲97番ピアノソナタXVI:39美人奏者四季交響曲12番迂闊者交響曲70番東京芸術劇場太鼓連打ピアノ協奏曲XVIII:7ピアノ協奏曲XVIII:4アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:3バリトン三重奏曲SACDスコットランド歌曲ディヴェルティメントヴェルナーガスマンモーツァルトシューベルトベートーヴェンLPピアノソナタXVI:38哲学者ラメンタチオーネ交響曲80番交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲46番交響曲35番交響曲51番ヴァイオリン協奏曲協奏交響曲DVDピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:52交響曲47番十字架上のキリストの最後の七つの言葉テレジアミサピアノソナタXVI:34ピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:20アリエッタと12の変奏XVII:3サントリーホール帝国ラ・ロクスラーヌ皇帝弦楽四重奏曲Op.76ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51ピアノソナタXVI:50五度ラルゴピアノ三重奏曲日の出ひばり弦楽四重奏曲Op.64チェロ協奏曲ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33リヒャルト・シュトラウス軍隊騎士弦楽四重奏曲Op.74弦楽四重奏曲Op.20交響曲17番ピアノソナタXVI:27ピアノソナタXVI:1シベリウス武満徹交響曲4番無人島交響曲42番時の移ろいベルリンフィルホルン信号交響曲19番弦楽四重奏曲Op.55弦楽四重奏曲Op.54王妃交響曲87番交響曲86番フルート三重奏曲トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:25驚愕時計ロンドンリュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏交響曲39番冗談ナクソスのアリアンナ英語カンツォネッタ集アレルヤピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ホルン協奏曲ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲81番交響曲78番交響曲79番交響曲99番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードドイツ国歌モテットオフェトリウムカノンスタバト・マーテルピアノソナタXVI:42弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールクラヴィコードパッヘルベル弦楽四重奏曲Op.17交響曲102番アダージョXVII:9受難ピアノソナタXVI:35パリセット交響曲84番ブーレーズベルク交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41ショスタコーヴィチ交響曲68番交響曲57番オーボエ協奏曲リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10奇跡交響曲34番交響曲18番交響曲77番温泉フルートソナタ交響曲98番ドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生交響曲93番音楽時計曲ピアノ小品ピアノソナタXVI:47bisピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストシェーンベルクピアノソナタXVI:14オーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノピアノソナタXVI:2ヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場マリア・テレジア裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場弦楽四重奏曲Op.2皇帝讃歌交響曲24番小オルガンミサ大オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番交響曲10番テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CD剃刀ドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲95番交響曲62番変わらぬまこと交響曲108番交響曲107番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲9番交響曲3番交響曲2番スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤン弦楽三重奏曲スウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
112位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
7位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ