セバスティアン・クナウアーのピアノ協奏曲集(ハイドン)

意外に手元になかったアルバムを入手。

SebastianKnauer.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

セバスティアン・クナウアー(Sebastian Knauer)のピアノ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲4曲(Hob.XVIII:3、XVIII:11、XVIII:4、XVIII:9)を収めたアルバム。収録は2007年2月15日から18日、ケルンのドイツ放送室内楽ホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

NAXOSのハイドンに関する録音はほとんど手元にある「はず」だったんですが、このアルバムを売り場で見かけて手元の所有盤リストをチェックすると、掲載されていません。コレクションに穴はあるものだということで入手した次第。NAXOSはリリースされ始めた頃は廉価版然とした演奏が多かったんですが、今ではメジャーレーベルもビックリの素晴らしい演奏も少なくないことは皆さんお気づきでしょう。かく言うハイドンの録音に関しても、コダーイ四重奏団の弦楽四重奏曲全集やヤンドーのピアノソナタ全集、交響曲でもニコラス・ウォード指揮のものをはじめとしてレベルの高い演奏が多いですし、最近取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集などは本当にビックリするほどの名演と名盤目白押しです。そのNAXOSのピアノ協奏曲は他に1992年の別の奏者の録音があるのですが、あえてこのアルバムをリリースしてきたということはそれなりの出来で、コレクションをリニューアルする意図があってのことでしょう。

ピアノを弾くセバスティアン・クナウアーははじめて聴く人。調べてみるとBerlin ClassicsやDGなどから何枚かのアルバムをリリースしており、それなりに有名な人のようです。ウェブサイトが見つかりましたのでリンクしておきましょう。

ARTIST - Sebastian Knauer

ちょいワルオヤジのような風貌ですが、私より年下でした(笑) 1971年ハンブルク生まれで、4歳からピアノをはじめ、フィリップ・アントルモン、アンドラーシュ・シフ、クリストフ・エッシェンバッハ、アレクシス・ワイゼンベルクなど名だたるピアニストに師事、13歳でデビューしますが、デビュー曲はこのアルバムにも収録されているハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)。その後はソリストとして世界的に活躍し、直近では2001年に始まったマルセイユ音楽祭の芸術監督を務めているとのことです。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはNAXOSのハイドンの録音では中核を担う人。これまでにいくつかのアルバムを取り上げていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)
2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

特にマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲で見事な伴奏を聴かせたヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管がサポートということで期待の演奏です。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
軽快な序奏から入ります。室内管弦楽団らしい透明感あふれる響きがリズミカルで心地よいですね。ヘルムート・ミュラー=ブリュールの飾らない誠実な伴奏。クナウアーのピアノは実にオーソドックスで誠実なものですが、リズムのキレが良く、適度な抑揚がハイドンの曲にピタリ。力をぬいてのしなやかな音階の部分などをさらりとこなすあたり、軽々と演奏を楽しむ感じで非常にいいですね。このさりげない感じが絶妙です。ソロとオケの息がピタリと合ってこの小協奏曲のファンタジーのような世界を描いていきます。よく聴くとクナウアーのピアノはリズムに微妙な緩急の変化をつけて楽しんでいるよう。カデンツァでもことさらテクニックを誇示することなく、音と戯れるような無邪気さがあります。流石にハイドンの協奏曲でデビューしただけあってハイドンのツボをバッチリ押さえています。
続くラルゴ・カンタービレ。抑えたミュラー=ブリュールの伴奏にさらに抑えたクナウアーのピアノが磨き抜かれた美しいメロディーを置いていきます。デリケートなタッチから生まれる美しさの限りを尽くした素晴らしいメロディーに酔いしれます。なんという幸福感。
そしてそよ風のように爽やかなフィナーレに入ります。ソロもオケも全く力まず、軽やかさを失わずに進みます。次々と変化する曲想を楽しみながら演奏しているよう。抑揚の変化の鮮やかさとソロとオケの絶妙な掛け合いの面白さに痺れます。1曲目から完全にノックアウト。完璧です。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
クナウアーのデビュー曲。ここでもさりげないヘルムート・ミュラー=ブリュールの伴奏は万全。フレーズ毎に表情の変化をつけながら軽快に躍動する伴奏だけでもオケの見事さがわかります。ピアノが入るところふっとテンポ落としますが、クナウアーが軽快なテンポに引きもどし、オケもそれに追随。遊び心満点の入りにニンマリ。クナウアーの速いパッセージのビロードのようにしなやかなタッチが印象的。このタッチがリズムのキレにつながって軽快な印象を保っていることがわかります。アルゲリッチのような火を吹くようなキレ味ではなく穏やかさを伴うキレ味。キレのいいピアノに刺激されてかオケも鮮やかに反応。この曲でもカデンツァはしなやかなタッチと曲想をコラージュしたようなユニークなもの。
前曲で美しさの限りを極めた2楽章ですが、この曲でもクナウアーのピアノの音色の美しさは見事。穏やかな伴奏に乗って、穏やかに描く美しいメロディー。特にカデンツァは息を呑むような孤高の美しさ。このXVIII:11のみパウル・バドゥラ=スコダのカデンツァでそれ以外はクナウアーのオリジナル。
そしてフィナーレは想像どおり軽快。ピアノとオケの掛け合いは軽妙洒脱。この曲をベートーヴェンのように壮大に演奏するものもありますが、本来はこのウィットに富んだ軽さにあるのだとでも言いたそう。聴きなれたこの曲が実に新鮮に響きました。

残りの2曲は簡単に。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
やはり遊び心に満ちた演奏。クナウアーとミュラー=ブリュールがニンマリと微笑みながら演奏している様子が想像できるようです。余裕たっぷりにさらりと演奏している感じが最高です。ゆったりと沈み込む2楽章に、リズムのキレが際立つフィナーレ。こちらも完璧。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
録音数が極端に少ない曲ですが、ハイドンの真作ではない可能性が高い曲とのこと。曲想、ひらめきなど、他の曲とは異なる感じです。演奏の質は変わらないですが、ツボを押さえた感じまではしないのは曲の問題でしょうか。

セバスティアン・クナウアーとヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管によるハイドンのピアノ協奏曲集ですが、ハイドンの協奏曲でデビューしたクナウアーとハイドンを数多く演奏してきたミュラー=ブリュールの息がピタリとあった名演でした。2人ともハイドンの曲の面白さを知り尽くしているからか、まさに軽妙洒脱な演奏。そればかりではなく2楽章の磨き抜かれた美しい響きも絶品。メジャーレーベルのトップアーティストによる演奏に引けをとるどころか、こちらこそハイドンの曲の真髄に迫る演奏といってもいいほど。テクニックの使いどころが違います。本盤、以前取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集同様、NAXOSレーベルを代表する名盤として多くの方に聴いていただきたい素晴らしい仕上がりです。評価は最後の曲をのぞいて[+++++]です。最後の曲も悪くはありませんがオマケという感じでしょうか。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:4 ピアノ協奏曲XVIII:9

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:14LPライヴ録音ピアノソナタXVI:48ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:3天地創造東京オペラシティヒストリカルディヴェルティメント古楽器東京芸術劇場リヒャルト・シュトラウス弦楽四重奏曲Op.54ロンドン軍隊交響曲102番太鼓連打交響曲99番時計交響曲97番奇跡交響曲93番交響曲95番驚愕交響曲98番ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:7フルート三重奏曲オーボエ協奏曲ライヒャロッシーニドニぜッティピアノソナタXVI:34弦楽三重奏曲皇帝ひばりピアノ協奏曲XVIII:3ストラヴィンスキーシェーンベルクミューザ川崎マーラーチェロ協奏曲東京文化会館フルート協奏曲ホルン協奏曲弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.2弦楽四重奏曲Op.17弦楽四重奏曲Op.9剃刀弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:268人のへぼ仕立屋に違いないピアノソナタXVI:31モンテヴェルディアレグリパレストリーナタリスバードすみだトリフォニーホールピアノ協奏曲XVIII:11アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:6交響曲1番告別ピアノソナタXVI:39美人奏者四季交響曲70番迂闊者交響曲12番ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:4SACDバリトン三重奏曲スコットランド歌曲ガスマンヴェルナーベートーヴェンモーツァルトシューベルトピアノソナタXVI:38哲学者交響曲80番ラメンタチオーネ交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲46番交響曲51番交響曲35番ヴァイオリン協奏曲協奏交響曲DVDピアノソナタXVI:52交響曲47番十字架上のキリストの最後の七つの言葉テレジアミサピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:23アリエッタと12の変奏XVII:3ピアノソナタXVI:40サントリーホール帝国ラ・ロクスラーヌ弦楽四重奏曲Op.76ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:51ラルゴ五度ピアノ三重奏曲弦楽四重奏曲Op.64日の出ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33騎士弦楽四重奏曲Op.74交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス武満徹無人島時の移ろい交響曲42番交響曲4番ベルリンフィルホルン信号交響曲19番弦楽四重奏曲Op.55王妃交響曲86番交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29リュートピアノソナタXVI:10ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6ピアノ五重奏曲チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏交響曲39番冗談英語カンツォネッタ集ナクソスのアリアンナアレルヤピアノ協奏曲XVIII:9ピアノ協奏曲XVIII:5ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲79番交響曲78番交響曲81番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードドイツ国歌モテットカノンオフェトリウムスタバト・マーテル弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールパッヘルベルクラヴィコードアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルクブーレーズ交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノショスタコーヴィチ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲18番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生ピアノソナタXVI:47bis音楽時計曲ピアノ小品ピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲91番交響曲66番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場マリア・テレジア裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ小オルガンミサ新橋演舞場交響曲10番交響曲5番サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番変わらぬまこと交響曲107番交響曲108番交響曲62番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲9番交響曲2番交響曲3番スカルラッティ声楽曲カンタータ戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
105位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
6位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ