【追悼】ニコラウス・アーノンクール

古楽器による演奏を世界に広めた立役者の一人、ニコラウス・アーノンクールが3月5日に亡くなりました。報道によれば6日に家族が公表したとのことです。1929年生まれということで享年86歳でした。このところブリュッヘンにホグウッドと古楽器演奏のパイオニア世代の音楽家が次々と亡くなり、そしてこの度のアーノンクールということで、一つの時代が終わりつつあるような複雑な心境です。

当ブログの読者の方ならご存知のとおり、アーノンクールはハイドンの作品も、交響曲ばかりではなく、オラトリオ、ミサ曲などかなりの数のアルバムを残しており、ハイドンの演奏者としても代表格の一人です。もちろん当ブログでも何度も取り上げています。また、最後の来日となった2010年、サントリーホールで天地創造の実演にも接しています。どんぐり眼でオケに鋭い指示を出す姿が脳裏に鮮明に焼き付いています。そのあたりのところは過去の記事を御覧ください。

2013/09/01 : ハイドン–交響曲 : アーノンクール/ベルリンフィルの熊ライヴ
2013/01/02 : ハイドン–オラトリオ : アーノンクールの十字架上のキリストの最後の七つの言葉オラトリオ版
2010/10/31 : ハイドン–オラトリオ : アーノンクールの天地創造旧盤
2010/10/31 : コンサートレポート : アーノンクールの天地創造(サントリーホール10/30)
2010/10/07 : ハイドン–声楽曲 : アーノンクールのハルモニーミサ
2010/06/13 : ハイドン–オラトリオ : 灰汁のぬけたアーノンクールの天地創造新盤
2010/06/11 : 徒然 : アーノンクールの天地創造へ
2010/04/07 : ハイドン–交響曲 : アーノンクールの初期交響曲集

アーノンクールは、古楽器演奏を広めたといってもそれだけではなく、当時としては驚くほど前衛的なスタイルで過去の演奏の垢をそぎ落として、独自というか超個性的な演奏によって音楽界に大きなインパクトを与えた人というのが適切な評価でしょう。他の誰にも似ていない強い個性の持ち主でした。

ただし、もともとレオンハルトとバッハのカンタータ全曲録音など、地味というか時代考証を経た堅実な取り組みで知られるようになり、徐々にその個性が開花、ウィーン交響楽団、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団や手兵のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスなどと多くの個性的な録音を残しましたし、昨今はウィーンフィル、ベルリンフィルなどとロマン派の曲まで演奏するまでになり、その突き抜けた個性によって、バロックや古典のみならず、現代の代表的な指揮者の一人と見做される存在といってもいいでしょう。2010年の来日時には体力の問題から最後の来日と公言していましたし、近年は演奏活動からも引退すると発表したばかりと聞いています。



追悼にあたって、私がアーノンクールの演奏に開眼した思い出のアルバムを何枚か紹介しておきましょう。私がアーノンクールの演奏に衝撃を受けたのは、バッハでもハイドンでもベートーヴェンでもなく、モーツァルトでした。

ブログの最初期に私がハイドンにのめり込んだ経緯を書いていますが、ハイドンに興味を持ったのは1991年のモーツァルトの没後200年のアニバーサリーで、あまりにもモーツァルトを聴いて、ちょっと飽きてしまった反動からでした。天真爛漫なモーツァルトの音楽のなかでも、当時アーノンクールがリリースしたモーツァルトの交響曲25番の演奏が話題になり、レギュラー盤ではなくコンセルトヘボウ100周年記念アルバムにその25番が含まれていたのを最初に入手したのがアーノンクールとの出会いでした。

HarnoncourtCorea.jpg

このアルバム、現在は検索してもでてきませんね。収録曲は下記のとおり。

モーツァルト:
交響曲25番(Kv 183(173 d B))
「ルーチョ・シッラ」序曲(Kv135)
2台のピアノための協奏曲(フリードリヒ・グルダ、チック・コリア!)(Kv 365(316a))
「劇場支配人」序曲(Kv 486)
交響曲32番(Kv 318)
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

このアルバムの衝撃は忘れませんね。ワルターやベームでモーツァルトに親しんだ耳と脳をかち割るような先鋭的な響きに腰を抜かしたものでした。そしてグルダにチック・コリアというクラシックでは前例のないソロによるモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲。こちらもハスキルとアンダ盤が刷り込みだったので、アーノンクールの操るキレキレのオケに乗って、グルダのガラス細工のような透明な音階とチック・コリアとの火花散る共演にゾクゾクしたものです。豪華絢爛、外連味あふれる歌舞伎の舞台のような華やかさ。そもそもモーツァルトの音楽にはちょっと俗っぽい演出が似合うものという真髄をついた演奏と納得したものでした。アーノンクールは激しいアクセントを連発しながらも華やかさとアーティスティックさを振りまきますが、今思うとこれがデフォルメの効いた見栄を切る歌舞伎の演出とかぶりますね。不思議な高揚感に浮かされた名演奏でした。この記事を書くために実に久しぶりにこのアルバムを取り出して聞いてみると、このアルバムを手に入れた頃の新鮮な驚きが蘇ってきました。また最後の32番がこれもいい。


HarnoncourtGulda.jpg
TOWEER RECORDS / amazon

上のアルバムがあまりに面白かったので手に入れたアルバム。今度はグルダと組んでのピアノ協奏曲23番と26番「戴冠式」。グルダはアバドとウィーンフィルとの演奏が有名で、私も好きな演奏ですが、このアーノンクール盤ではアーノンクールのキレの良いアクセントに刺激されて、グルダもキレキレ。アバド盤の透き通るようなピアノの輝きとは異なり、オケに呼応して色めき立つのを抑えながら演奏するようすが実に面白い演奏です。このころのアーノンクールには後年のちょっとアーティスティックにシフトした演奏とは異なる楽しさがあるような気がします。協奏曲とは対決であると知った演奏です。


HarnoncourtKremer.jpg
TOWER RECORDS / amazon

そして、次に手に入れたのはこちら。グルダの次はクレーメルです。このアルバム、ウィーンフィルを振ったモーツァルトのヴァイオリン協奏曲5曲を収めたアルバム。全曲素晴らしいのですが、ことに冒頭に置かれたクレーメルとキム・カシュカシュアンをソロに迎えた協奏交響曲が実に面白い。やはり名門ウィーンフィルからウィーンフィルらしからぬ前衛的な響きを引き出し、クレーメル、カシュカシアンともバチバチ火花を飛ばしながらの対決が続きます。非常に聴きごたえのある演奏です。



いずれも懐かしい3組のアルバムを取り出して聴き直してみると、まるでタイムスリップしたような心境になります。このころのアーノンクールには覇気と前衛がみなぎっていました。そしてそのエネルギーをぶつけた先がモーツァルトだったということで、ハイドンを演奏するアーノンクールとは顔つきが違う感じで、奏者自身が楽しんで演奏しているような自然さが、灰汁の強さを中和して音楽に本質的な生命感をもたらしているのだと思います。

古楽器演奏のパイオニア、そして外連派筆頭のアーノンクールの死は、まさに時代の転換点のような気がします。ご冥福をお祈りします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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