ギレルミナ・スッジア/バルビローリのチェロ協奏曲(ハイドン)

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ギレルミナ・スッジア(Guilhermina Suggia)のチェロで、ハイドン、ブルッフ、ラロ、サンマルティーニのチェロ作品を収めたアルバム。ハイドンはチェロ協奏曲2番でジョン・バルビローリ(John Barbirolli)指揮のオーケストラの演奏。収録はなんと1928年7月12日から13日で、ヒストリカルな演奏を素晴らしい音質で復刻する英DUTTON LABORATORIESのCD。
最近オークションで手に入れたアルバムですが、DUTTONの復刻はなかなかいいものが多いので入札した次第。先に書いたように録音は1928年ということで今から90年近く前。パチパチまみれかと思いきや、抜群に聴きやすい素晴らしい状態に復刻されており、とても90年近く経たものとは思えません。指揮がバルビローリというのも食指が動いた理由ですが、肝心のチェリストのギレルミナ・スッジアは全く未知の人。
ということで、いつものようにさらっておきましょう。
ギレルミナ・スッジアは1885年生まれのポルトガルのチェロ奏者。カザルスとともいパリで学び、その後国際的に活躍するようになりました。主に特に評価の高かったイギリスで活動、生活するようになりました、1939年に引退、戦後の1950年に亡くなっています。ということでこのアルバムの演奏時は43歳くらい、バルビローリは1899年生まれなので29歳と非常に若い時期の録音ということになります。バルビローリがイギリスで指揮者に転向したのが1925年、ニューヨークフィルの首席指揮者となったのが1936年ということで、バルビローリはデビュー後の活気あふれる時期ということになります。
Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
とても1928年の録音というのが信じられないしっかりとした響き。もちろんモノラルですが、音に厚みと鮮度があり、実に聴きやすい。バルビローリの伴奏は実に柔らかい響きですが、徐々に自在に変えながら愉悦感に溢れた踏み込んだ伴奏であることがわかります。肝心のスッジアのチェロはやはりポルタメントを多用した時代がかったものですが、不思議とバルビローリの伴奏で聴くと、アーティスティックな掛け合いに聴こえてきて、悪くありません。現在の古典的なハイドン像とは異なり、むしろ前衛的な演奏という印象を感じます。楽譜からエキセントリックな響きを見抜いて音にしていくよう。スッジアもバルビローリの自在な呼応して、かなり自在な弓さばきで応えます。ときおりぐいぐい巻くように勢いをつけて推進するかと思いきや、すっと力を抜いて、まさに緩急自在。スッジアもバルビローリも老成している頃ではなく、むしろ若い時の演奏ですが、恍惚たるいぶし銀の世界を見事に描いていきます。見事なのはカデンツァでのスッジアの濃厚な表現。チェロの深く沈む音色で深い陰影を感じさせたかと思うと、すぅっと伸びる高音を聴かせる見事な弓さばき。1楽章からいにしえの響きに引き寄せられます。
アダージョは枯淡の表情を聴かせるのかと思いきや、意外と快活でチェロもさらりとした弓さばき。古い演奏らしく音程をかなり動かしながら鳴くチェロですが、不思議とさっぱりとしていて純音楽的に聴こえます。このアルバム、低音の処理がうまく、チェロの低音が実に深く響き、スッジアの分厚いチェロを堪能できます。
そしてフィナーレも、無理に郷愁を強調することなく、こちらも自在に伸びやかに弾いているのに冷静なコントロールが行き渡った演奏。スッジアの自在な弓さばきを今度は几帳面に支えるバルビローリ。現代の演奏とはかなり異なるざっくりとした音楽の中に、これもハイドンの音楽の一時の理想的な姿だと感じさせるものがあります。スッジアとバルビローリの妙技を堪能した満足感が残ります。
時代とともに演奏スタイルは変わりますが、時代ごとにハイドンの真髄にせまろうとする意欲は変わらず、この90年近く前の演奏にもはち切れんばかりのエネルギーが詰まっています。もちろん演奏スタイルには時代を感じさせるものがありますが、素晴らしい復刻により、この時代の演奏なのに十分鑑賞に耐える演奏となっています。この演奏は手元にあるハイドンのニ長調協奏曲では録音年不明のものをのぞき最古の演奏。記録として重要なばかりでなく、現在聴いても刺激的な演奏です。実に豊かな気持ちになる音楽といっていいでしょう。評価は[+++++]をつけます。こちらも手にはいるうちにどうぞ。


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