コルネリウス・マイスター/読響の「朝」「悲劇的」(サントリーホール)

一昨日7月14日は、チケットを取ってあったコンサートに行ってきました。

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読売日本交響楽団:第560回定期演奏会

指揮者のコルネリウス・マイスターは今まで知らなかった人ですが、今回はプログラムにハイドンの交響曲6番「朝」が含まれていたということでチケットを取ったもの。もちろん「朝」は前座で、メインディッシュはマーラーの交響曲6番「悲劇的」。ハイドンにマーラーを組み合わせるというプログラムの妙に加え、ハイドンもマーラーもいくらでも交響曲がある中、6番と6番をもってくる語呂合わせとも思える企画ながら、ハイドンの交響曲の中でも一際爽やかな「朝」と、マーラーの中でもこれまた重苦しい「悲劇的」を組み合わせてくるあたり、一夜のコンサートで音楽の表現出来るコントラストを極めようという粋な企画と見抜きました。チラシの情報ではコルネリウス・マイスターはヨーロッパで最近頭角を現している若手ということでチケットを取った次第。

コルネリウス・マイスターの略歴をあたっておくと、1980年、ドイツのハノーヴァー生まれの指揮者ということでまだ36歳。父はピアニストでハノーヴァー音楽大学の教授、母もピアニストという音楽一家の出身です。ハノーヴァー音楽演劇大学でピアノと指揮を学び、師事した中には大植英次さんも含まれます。またザルツブルクのモーツァルテウムではデニス・ラッセル・デイヴィスに師事しています。2001年からのエアフルト(Erfurt)歌劇場のアシスタント、ハノーヴァー州立歌劇場の首席指揮者を経て2005年にはハイデルベルク州立劇場の音楽監督、2010年からはウィーン放送交響楽団の首席指揮者兼音楽監督に就任するなど飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しています。コンサートのチラシによると読響を振るのは今回が2度目とのことです。



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このところ仕事がバタバタで連日遅い帰りでしたが、強引にひと段落させて仕事を切り上げ(笑)、サントリーホールに向かいます。東京はなんとなくはっきりしない天気でしたが、幸い雨に当たらずにホールに到着。向かいのオーバカナルで嫁さんと待ち合わせをしていましたので、ビールとサンドウィッチでお腹を落ち着かせて開場を待ちます。

席はいつものステージ右横のRA席。見下ろすとステージ上にはマーラーのために楽器と椅子が所狭しと並べられていますが、そこにハイドンの演奏用にチェンバロが並んでいるのが微笑ましいところ。ステージ上で楽器の調整をする音をBGMに、いつものようにもらったチラシから興味のあるものだけ抜き出したりしてのんびり過ごします。開演時刻になると、客席の明かりがスッとおちて団員がステージ上に登壇。配置された大オーケストラ用の椅子の前の方に弦楽器奏者を中心に少人数のオケが着席してチューニング。この日のコンサートマスターは小森谷さん。ほどなく指揮者のコルネリウス・マイスターが颯爽と登場します。ポスターのイメージとは少々異なり、ミッチー(及川光博)風の明るくコミカルなキャラ。服装もハイドンを意識してか、なんか侯爵風です(笑)。

さっと指揮棒を振り上げ、期待の「朝」が始まります。コルネリウス・マイスターの振る「朝」、絶品でした。もちろんゆったりとした序奏から入りますが、すぐにハイドンらしい快活なメロディーが乱舞。大きめのアクションで各楽器に次々と指示を出して響きを完璧にコントロール。すべてのパートに躍動感を感じさせる大胆なデフォルメを仕込み、インテンポで畳みかけるように疾走するハイドン。特に速い音階のキレに徹底的にこだわり、朝にふさわしい爽快感に満ちた響きを創り出していきます。読響もマイスターの指示に完璧に応じて見事な演奏。特にフルートの音階のキレ、艶やかなファゴットの響き、ホルンのリズムの正確さ、小気味良い小森谷さんのヴァイオリンソロともに絶品でした。音楽は完全にコルネリウス・マイスターのもので、かなり大胆なコントラストをつけての演奏ながら、自然なハイドンの音楽の美しさを乱さぬもので、これほど快活かつ爽快な朝はこれまで聴いたことが無いほど。コンサート会場に駆けつけた観客のほとんどはマーラー目当でしょうが、ハイドン目当ての私には、この「朝」でコルネリウス・マイスターの非凡さを見抜きました。この音楽の構成力とオケの掌握力は只者ではありませんね。もちろん前座のハイドンで会場にただならぬ興奮をもたらしたコルネリウス・マイスターに拍手の嵐が降り注ぎました。いやいや本当に素晴らしかった。

15分の休憩を挟んで、今度はマーラー。しかも最も暗澹たる6番です。

私も若い頃は(笑)マーラーは好きでしたが、最近家でマーラーを聴くことは滅多にありません。マーラーやブルックナーはコンサートで爆音を浴びる快感に浸るための音楽という感じ。特にこの6番は1979年のカラヤン、ベルリンフィルのコンサートを聴きにいったのが懐かしく思い出されます。方南町の巨大な普門館でのコンサートでしたが、ベルリンフィルをもってしても、このホールの巨大な空間は広すぎる感じで、予習のために買ったLPで刷り込んだ機械仕掛けのような精密な演奏を頭のなかで響かせながら生のコンサートを聴くような不思議な体験でした。当時はアンダンテ・モデラートが3楽章に配置され、カラヤンの繰り出すビロードのような弦の響きが印象に残っています。以降、6番はよく知る曲ですが、あんまり集中して聴いた覚えの無い曲です。

前半のハイドンで圧倒的な存在感をみせたコルネリウス・マイスターですが、後半のマーラーも制御力は圧巻でした。冒頭から大きめのアクションでオケを制御するのはハイドンと同様でしたが、楽器の数と楽譜の複雑さは桁違い。音楽の方向性は全く異なりますが、制御能力はマゼールを思わせる緻密なもの。1楽章はやはりフレーズごとにところどころに大胆なデォルメを効かせて、精緻さと、ほのかなグロテスクさと、深い彫りを感じさせる演奏。基本的にきっちりとした制御が行き届いているので、バーンスタインのようなおどろおどろしい感じはせず、ディティールはダイナミッックですが全体的にスタティックな感じを受ける演奏。この辺はマーラー好きな方から好き嫌いが分かれるところかもしれませんね。ただ、このマーラーでも読響の演奏精度は素晴らしかった。ミスらしいミスは全くなく、完全にコルネリウス・マイスターの棒に応えていました。前半のハイドンで脳内に満ちていた幸福物質が、マーラーの分裂的音楽の大音響によってかき消され、両曲が作曲された間の140年間に音楽というものがたどった変化の大きさを改めて感じた次第。マーラーが音符と楽器と規模を変えて繰り出す音楽は、我々の脳の「音を楽しむ」中枢ではないところに大きく働きかけ、全く異なる衝撃をもたらします。ステージ奥でカウベルが鳴り、ハープやチェレスタがメロディーではなく響きを置いていくように配されることもハイドンの時代とは全く異なるもの。コルネリウス・マイスターの指揮は、マーラーの音楽の深層心理的側面ではなく、複雑に折り重なる響きのコントロールの快感に訴えるものと言っていいでしょう。それを象徴するのが時折はっとさせる大胆なデフォルメ。特にヴィオラには印象的なボウイングを度々指示して、マーラーの音楽の複雑な響きに特徴的な個性を与えるのに貢献していました。

そして、この日の音楽の深さを印象づけたのが楽章間の長い間。1楽章最後の音の余韻が消えさると、客席の緊張も解け、咳ばらいが聞こえますが、その咳払いが静まってもコルネリウス・マイスターはしばらく微動だにしません。観客の視点がマイスターの動きに集中して完全な無音が訪れ、しばらくその無音に吸い込まれるような時間を皆が共有したところで、すっとタクトが上がり、マーラーの天上の音楽に入ります。ヴァイオリンの奏でる微音が静寂にすっと浮かび上がる絶妙な入り。ホールの観客ごと制御するマイスターの手腕に驚きます。

ハッとさせられるような美しいヴァイオリンの響きで始まるアンダンテ・モデラートですが、音楽が進むにつれてマイスターによる響きの制御が行きわたり、音楽の一音一音のディティールにフォーカスを合わせた展開。カラヤンの流麗さとは対極にある演奏です。ちょっと思い出したのが、以前聴いたデニス・ラッセル・デイヴィスの振る読響での惑星。

2015/07/27 : コンサートレポート : デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の惑星(みなとみらいホール)

このディティールへの執着は、師事していたデニス・ラッセル・デイヴィスと同じようなものを感じます。デニス・ラッセル・デイヴィスの方がより灰汁の強い感じがしますが、パートごとに巧みに表情を変えていくあたりはディヴィスの手法を受け継いているのでしょう。このアンダンテ・モデラートでは、マーラーの音楽の持つ天上的美しさと分裂的展開の拮抗に対して、マイスターの制御過剰的側面が分裂よりに音楽をシフトしてしまった印象もありました。続くスケルツォへの間も同じく長くとり、最初の1音へ集中。このスケルツォと終楽章は逆にマイスターの制御によってマーラーの複雑な音楽を解き解しながら進める快感を味わえました。カラヤンは曲全体の構造を見据えた大局を踏まえた展開を得意としていますので、大波のような盛り上がりに力点を置いていましたが、マイスターはディテールの彫りの深さに集中しているよう。それだけにオーケストラコントロールは圧倒的な迫力を帯び、大編成の金管楽器群、ハープやチェレスタなどの特殊な音色をもたらす楽器、カウベル、ドラ、ハンマー、2台のティンパニなどの打楽器群が大活躍。読響も完璧な仕事で応えていました。生のコンサートゆえ、終楽章で打楽器奏者がハンマーを振り上げステージを揺るがすような一撃を加えるところは圧巻。バックスイングがステージ裏のお客さんの目の前だったのも迫力十分。フレーズの離合集散を繰り返しながらフィナーレに至る長大な終楽章を見事に制御しきって、最後の一音がサントリーホールの静寂の中に消え、やはり微動だにしないコルネリウス・マイスターがすっと力を抜いた瞬間、拍手が降り注ぎました。この日の観客はマイスターの躾が行き届いていたので、最後の余韻を十分に堪能できました。



コルネリウス・マイスターのオーケストラコントロールは圧巻でしたので、観客も大編成のマーラーを堪能したことでしょう。私はもちろん、前半のハイドンの素晴らしさでコルネリウス・マイスターという人の音楽が心に刻まれました。マーラーについても素晴らしい演奏でしたが、私のハイドンに対する姿勢同様、マーラー好きな人からは意見が分かれる演奏だったかもしれませんね。なにしろマーラー好きの日本人はアバドやバーンスタイン、インバルらの名演奏が刷り込まれ、最近も多くの名演奏が都内のコンサートで聴ける環境にありますので(笑)。

コンサートのパンフレットによると、コルネリウス・マイスターは2018年のシーズンから読響の首席客演指揮者に就任するとのこと。また、カンブルランの後を受けて、同じく2018年のシーズンからシュツットガルト歌劇場の音楽監督になるとのこと。これからが楽しみな人ですね。今後、読響でのコンサートプログラムは注目要です。

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tag : マーラー サントリーホール

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No title

マーラー話になりますが・・・
やはり第六番「悲劇的」は、最近はやりの(マーラー国際)協会版に拠るものですね・・・。
従来版で刷り込まれている身にとっては、第二楽章は”スケルツォ”、第三楽章”アンダンテ”
がしっくり来るかな?
中間楽章の入替は、ブルックナーでも例えば第七番などで論点になっているようで、ついて
行くのも大変です。
指揮者のマイスター氏には私も注目していたので、今回別用で聴き逃したのが残念ですが、
苗字が別読みで「マエストロ」とは、誕まれながらの「指揮者」という気がします。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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