ユーリ・テミルカーノフ/レニングラードフィル室内管弦楽団の「朝」、「昼」(ハイドン)

久々の交響曲です。

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ユーリ・テミルカーノフ(Yuri Temirkanov)指揮のレニングラードフィル室内管弦楽団(Chamber Orchestra of the Leningrad Philharmonic)の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、7番「昼」の2曲を収めたLP。収録は1972年、収録場所などはロシア語表記のみなので読み取れません。レーベルはソ連国営のMelodiya。

このアルバムは最近オークションで手に入れたものですが、ロシア国内向け仕様のため、表記はロシア語のみ。ドイツ語もフランス語でもなんとか当たりをつけて解読することができるのですが、ロシア語は大変です。ネットを駆使してレコード番号からロシア語の表記のサイトを探し出し、そこからグーグル翻訳などで英語に翻訳して読み解きます。演奏者とオケを特定するだけでも一苦労(笑)。なぜそこまでするかといえば、以前に取り上げた若きギドン・クレーメルの演奏するヴァイオリンソナタのMelodiya盤が録音も含めてあまりに素晴らしかったので、Melodiyaは宝探しのターゲットとなったわけです。

このアルバムもジャケットはシミだらけですが、盤の状態はそれほど悪くなく、いつものようにクリーニングすると黒々と光輝く盤面になりました。これは期待できるということで針を落とすと案の定素晴らしい響きが広がります! レビューの前に奏者の情報をさらっておきましょう。

ユーリ・テミルカーノフは1938年、ロシアの黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方の都市、ナリチク(Nalchik)に生まれた指揮者。小さい頃から才能に恵まれ、レニングラードでヴァイオリンとヴィオラを学びます。レニングラード音楽院でヴィオラを学んだ後、指揮を学び1965年に卒業。1966年にはソ連指揮コンクールで優勝し、コンドラシンに招かれ、オイストラフを伴ったモスクアフィルの欧米ツアーに帯同します。1967年にはレニングラードフィルの指揮台にデビューし、直後にムラヴィンスキーからレニングラードフィルのアシスタント指揮者に任命されます。その後1968年にはレニングラード交響楽団の首席指揮者、1976年にはキーロフ歌劇場(現マリンスキー劇場)の音楽監督などを歴任。以後は1988年からレニングラード・フィルハーモニー交響楽団、1998年からボルティモア交響楽団、2009年からパルマ・レージョ劇場のそれぞれ音楽監督を歴任。日本では読響の名誉指揮者であり、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団と何度か来日していますので、おなじみの方も多いことでしょう。

このテミルカーノフ、調べてみると予想どおりハイドンの録音はこれまで手元にありませんので、このLPは貴重な録音です。意外にもロシアの指揮者のハイドンはいい演奏が多く、コンドラシン、フェドセーエフ、スヴェトラーノフ、コンスタンチン・オルベリアンとライヴを中心に名演盤がいろいろありますね。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
かなりゆったりとしたテンポでの序奏の入り。主題に入ると弦をかなり鳴らしてクッキリとメロディーラインが浮かび上がります。弦は直近、フルートやホルンの響きが奥に広がって非常に立体的に空間が広がります。ウキウキするような推進力。テンポが速くないのに推進力は抜群。各奏者のリズム感が冴え渡って1楽章はキリリと引き締まった見事な展開。録音も鮮明で言うことなし。
素晴らしいのが続くアダージョ。ここでもかなりゆったりと入りますが、緊張感が途絶えることがありません。ゆったりしているのに響きは非常に引き締まっていて、コンサートマスターのレフ・シンデルのヴァイオリンソロのがこれまた素晴らしい美音。それを包む大波のようなオーケストラの響き。やはりこの楽章はソロが上手いと違います。たっぷりと休符をとって音楽の構造を明快に弾き分けます。遅いからといって古臭い感じは全くしないのがすごいところ。
続くメヌエットも遅めのテンポは変わらず、遅めにもかかわらずかなりはっきりとメリハリをつけてきます。リズムは相変わらずクッキリ、オケの響きもクッキリ、特に木管楽器の溶け合うような響きが素晴らしいですね。グッとトーンを落とした中間部の濃密な描写で聴かせ、再び最初のメロディーに戻るところの描き分けも鮮やか。
フィナーレもじっくり入ります。しっかり音楽の骨格を描くことで曲の構造がよくわかります。ハイドンの書いた音楽のうち、楽器の音色の面白さに意識が集中するように意図したのでしょうか、じっくり描かれた朝は、聴き応え十分。

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
前曲と同じく、ゆったりとした入り。ゆったりと言うよりもじっくりといった方がイメージが伝わるかもしれません。ハイドンの書いたこの曲の導入部がいかに素晴らしいか、噛み砕いて聴かせてもらっているよう。すぐに素晴らしい推進力と見事なソロのアンサンブルに包まれます。オケのリズムの良さは前曲そのまま。手堅く完璧なテミルカーノフのオーケストラコントロールに完全にのまれた感じ。
劇的に展開する2楽章もじっくりと音楽を丁寧に描いていくので、迫力十分。この2楽章は時代を先取りするような劇性を持った曲ですが、こうしてテミルカーノフの棒でしっかりと描かれるとその素晴らしさが際立ちます。まるでアンセル・アダムスの豊かなトーンのモノクロ写真のように、アーティスティックな風格が漂います。音楽の輪郭の濃淡を完璧にコントロールして、影の部分の豊かなラチュードが見所のように、音楽に潜むデリケートなニュアンスを完璧に再現。ものすごい描写力。そしてソロも当時のロシアのトップオケの奏者の面目躍如。この2楽章は絶品。あまりの素晴らしさに昇天。
そしてメヌエットはその緊張をほぐすように素直にリズムを弾ませ、そのリズムを少しづつ強調させるようにしてアーティスティックさを保ちます。中間部への切り替えの鮮やかさは前曲通り、コントラバスとホルンの響きがLPならではのダイレクト感で伝わってきます。元のテーマに戻る時は実に自然なのが不思議な所。
フィナーレもじっくり。オーソドックスにまとめてきますが、やはりそこここに表現の巧みさが見え隠れします。特にフルートをはじめとする木管楽器のキレの良さ、クッキリと浮かび上がるヴァイオリンなどが印象的。さらりと終わりますが、深い印象が残りました。

ユーリ・テミルカーノフの振るレニングラードフィル室内管の「朝」と「昼」ですが、これは名盤と言っていいでしょう。特に「昼」の2楽章は絶品です。ハイドンがこの時代に書いた曲がいかに先進的だったか改めて気づいた次第。テミルカーノフによって、この曲の持つ複雑なニュアンスと劇性、そしてメロディーの美しさ、完成度など群を抜くものであったとわかりました。評価は両曲とも[+++++]とします。

Apple Musicを検索してみると、他にロンドンと驚愕の音源が登録されていますが、ロンドンの方は録音がかなり悪く、驚愕の方も全曲が登録されていないようです。これはさらにLPを探す必要がありそうですね。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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