【新着】佐渡裕/トーンキュンストラー管の朝、昼、晩(ハイドン)

最近LPや古い録音ばかり取り上げていますが、新譜にも気になるアルバムがないわけではありません。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

佐渡裕(Yutaka Sado)指揮のトーンキュンストラー管弦楽団(Tonkünstler-Orchester)の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」の3曲を収めたアルバム。収録は2015年10月から2016年5月にかけて、ウィーンのムジークフェラインでのライヴ。レーベルはトーンキュンストラー管の自主制作レーベル。

佐渡裕のハイドンはもちろん初めて聴きます。いつものようにWikipedeiaなどから略歴をさらっておきます。1961年京都生まれと、私と同世代。京都市立芸術大学フルート科を卒業。ブラスバンドや関西二期会の副指揮者をへて小澤征爾、レナード・バーンスタインに師事します。その後ヨーロッパに渡りバーンスタインに師事しながら1989年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し指揮者としてデビューしました。その後多くのオケに客演して経験を積み、2002年に日本のシエナ・ウィンド・オーケストラの音楽監督、西宮の兵庫県芸術文化センターの建設にともない兵庫県芸術文化協会芸術監督に就任、そして2015年10月から今日取り上げるアルバムのオケであるトーンキュンストラー管弦楽団の首席指揮者に就任しています。特に日本では日曜朝に放送している題名のない音楽会の司会者として同じみですね。また2011年にはベルリンフィルの定期に登場した際の模様も放送されました。

皆さんもそうでしょうが、佐渡裕がハイドンを振るイメージはないのですが、トーンキュスンストラー管の自主制作アルバムの第2弾にハイドン、しかも「朝」「昼」「晩」と質実なところを持ってきたのはちょっと驚きでした。ベルリンフィルの定期でも、汗だくになりながらオケから強烈な響きを絞り出すように鳴らす姿が印象に残っていますので、ハイドンの小規模な交響曲を振るイメージは全くありません。そこにこのアルバムということで、逆に興味深いアルバムと言うのが正直なところ。ということで早速聴いてみましたが、これはこれまでの佐渡裕のイメージを払拭する整然とした名演でした。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
ムジークフェラインだからか、オケの響きの厚みと溶け合い方が見事。ライブですが会場のノイズはまったく聴こえず、ノイズ除去に伴う定位感の乱れもありません。実に見事な録音。オーソドックスなテンポに乗って品のいいアクセントを伴いリズムが躍動。デュナーミクの変化もしっかりつけてメリハリも充分。何より一貫して爽やかさを保って1楽章から見事。
続くアダージョはソロが活躍する楽章ですが、オケの美音に包まれながらヴァイオリンソロの自在なフレージングはまるで草原を飛び回る蝶のごとく自在。相変わらずリズムが清々しく、このリズムが基調にあることで非常に爽やかな印象。オケも非常にリラックスして、ノンヴィブラート気味の透明感溢れる響きと相まって実に穏やかな音楽が流れます。弱音の扱いも見事。
そして、さらに見事なのがメヌエット。実に自然で堂々とした入りにづづいてフルートの美音に耳を奪われます。自身がフルート奏者出身だからか、フルートと木管楽器のコントロールは特に見事。中間部で一旦曲調が変わる所の一瞬の変化の鮮やかさは音楽の気配までコントロールしているよう。しなやかなコントラバスのソロも効果的。各パートがイキイキとメロディーを重ねていくことでハイドンの音楽の見事な綾が輝きます。再び現れるメヌエットのメロディーは力が抜けて余裕たっぷり。
フィナーレも力むことなくよく抑制を効かせながらリズミカルにハイドンの音楽をトレースしていきます。ヴァイオリンのメロディーに耳を奪われがちですが、副旋律を担当するフルートや他の楽器の抑揚のついた演奏も素晴らしく結果的に豊かな音楽を作っていきます。いやいや、ここまでハイドンの音楽に集中してくるとは思いませんでした。会場からは暖かい拍手が降り注ぎます。これは見事!

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
テミルカーノフの秀演で俄然注目するようになった「昼」。前曲の出来から悪かろうはずもなく、安心して耳を傾けます。相変わらずのムジークフェラインでの素晴らしい響き。録音上はウィーンフィルよりも美しく聴こえます。豊かな響き、規律正しく躍動するリズム、フレーズ毎にしなやかに迫りくる迫力、穏やかな表情付けと非の打ち所がありません。極上の心地よい音楽に身を任せます。ヴァイオリンも木管群も最高。佐渡裕もリラックスして指揮を楽しんでいるよう。この曲ではホルンの柔らかい音色がさらに印象的に加わります。
ハイドン渾身の音楽と気づいた昼の2楽章。もちろんここでも手を抜くはずもなく、劇的な展開を古典の規律の範囲で豊かにまとめてきます。素晴らしい緊張感を保ちながら美しすぎる音楽を織り上げていきます。ヴァイオリンもチェロもフルートも最高。終盤のソロの掛け合いも遊び心を高度に昇華させたやりとりが素晴らしいですね。
メヌエットでは低音弦がリズムの軽やかさを保ったまま迫力たっぷりの響きを聴かせます。中間部のコントラバスの活躍する場面はぐっとテンポを落として絶妙な語り口。さらりと寄り添うホルンも絶妙なテクニック。
フィナーレはこれまでの見事な演奏の総決算。佐渡裕もスロットルを巧みにコントロールして、オケを束ね、ハイドンのアイデアの結集した音楽をまとめます。昼のコミカルな側面にスポットライトを当てた名演出でした。

Hob.I:8 Symphony No.8 "Le soir" 「晩」 [G] (1761?)
「朝」も「昼」も絶妙の演奏が続いたので、安心して「晩」に入れます。もちろんこれまでの見事な演奏と同様の素晴らしさ。コミカルなメロディーが転調して展開していく推移の面白さは尋常ではありません。吹け上がりの良いオケが軽々と響く痛快さ。短い1楽章も聴きどころ十分。
晩の聴きどころといえば続くアンダンテでしょう。美しいメロディーと静けさが同居する至福の時間。2本のヴァイオリンの磨かれたメロディーに深みのあるチェロとファゴットが応じ、十分に間をとって音楽がしっとりと進みます。
アンダンテの安らぎを断ち切るように柔らかくも直裁な響きで入るメヌエット。楽章間の転換の見事さもこの演奏の特徴でしょう。ちょっとしたセンスが重要なんですね。トリオは再びコントラバスの聴かせどころ。今度は敢えて鈍い感じを意図したのでしょう、曲に応じて見事な語り口の使い分け。再びメヌエットに戻ると、今度は適度に躍動させます。
そして締めくくりのフィナーレ。どうしてこのようなメロディーが浮かんでくるのかわからないほど入り組んだ構成とメロディーに釘付け。佐渡裕の鮮やかな手腕でハイドンの創意が見事に音になっていきます。最後はキレよく終了。もちろんこの大人のハイドンに聴衆から暖かい拍手が降り注ぎました。

いい意味で予想を完全に覆す超名演盤でした。佐渡裕が新たに首席指揮者に就任後、オケの自主制作レーベルの第二弾としてリリースされたこのアルバム。そこにハイドン、しかも初期の「朝」「昼」「晩」という質素な名曲を選んだ理由がわかりました。佐渡裕さん、ハイドンの交響曲の演奏のツボを完全に掌握していました。一流の料理人が作った親子丼のように、きっちり親子丼ですが、味の深さ、素材の活かし方、バランス、食後の余韻まで並みの親子丼とは次元の異なる味わい深さ。なのに親子丼としての素朴さを失っていない名人芸。ホールを鳴らしきるような迫力の演奏もできる腕力を封印し、ハイドンのこの粋な交響曲のまさに「粋」たる部分をしっかり表現した名演奏と言っていいでしょう。録音は万人が想像するムジークフェラインの黄金のとろけるような響きを捉えて完璧。現代楽器による「朝」「昼」「晩」の入門盤でかつ決定盤と断じます。もちろん評価は全曲「+++++]。全ての人に聴いていただきたい素晴らしいアルバムです。

これは是非、さらなるハイドンの録音を期待したいところですね!(佐渡さん本人は見ていないでしょうね〜)

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ライヴ録音

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No title

こんばんわ。
今日は、ハイドンを始め、さまざまな優秀な演奏でお世話になった(?)ネヴィル・マリナーさんがお亡くなりになったというニュースにて、マリナーさんのハイドンの演奏をずっと聴いています。

佐渡さんのハイドンは、39番の交響曲を聴いた事があるのですが、堅実な演奏でした。
佐渡さんは、個人的には、86番の交響曲が好きだと言っていたこともありますので、これを手始めに、今後、佐渡さんのハイドンがいろいろと聴けるかもしれませんね。

Re: No title

Haydn2009さん、こんばんは。

コメントでマリナーが亡くなったことを知りました。今でこそマリナーのハイドンは色々聴いていますが、私にとってマリナーとの出会いは、大学在学中に聴いたブレンデルがピアノを弾くモーツァルトのコンチェルトのK.466とK.491のLPでした。デモーニッシュな短調のモーツァルトの鮮烈な印象が今でも残っています。ハイドンでは交響曲よりもドレスデン・シュターツカペレとのミサ曲集の印象が強いですね。追悼に何か聴いてみようかと思います。

佐渡さんはハイドンを振る人との印象がなかったのは私だけかもしれません(笑) このアルバムで完全に見直しました! トーンキュンストラー管でパリセットなど是非聴いてみたいものですね。

No title

佐渡裕さんとハイドンの組み合わせは一見意外ですが、師匠バーンスタインと同様結構深いお付き合いのようです。
もう四半世紀以上前頃、今はなきお茶の水「カザルスホール」でハイドン交響曲全曲演奏の壮大なツィクルスが始まりましたが、その最初期に佐渡さんが登場されていました。残念ながら私は未聴ですが、ひょっとしたら「朝・昼・晩」だったかもしれません!
これから、せめて「ネーム・シンフォニーズ」だけでも(それでもかなり多数!二十以上?)シリーズ化してもらいたいですね。
「ネーム・シンフォニーズ」の元祖、サー・ネヴィル・マリナーに謹んでお悔やみ申し上げます。

Re: No title

だまてらさん、コメントありがとうございます。

派手な曲を振る印象が強い佐渡さんですが、かなり前からハイドンを振っていたんですね。おっしゃる通り師であるバーンスタインもハイドンは結構取り上げていますしね。
調べてみたところ昨年トーンキュンストラー管と来日した際は、朝もプログラムに入っていたんですね。カザルスホールの件といい情報不足でした。
と言うことで、今後の録音に期待ですね。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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