オッコ・カム/神奈川フィルのシベリウス(みなとみらいホール)

なんだかハイドンのレビューをする間もないくらいのタイミングでコンサートに行ってます。後先考えずにチケットを取るとこうなっちゃうんですね。まあ、いいでしょう。

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神奈川フィル:定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第323回

奏者とプログラムは下記の通り。

オッコ・カム(Okko Kamu)指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団
シベリウス:交響詩「フィンランディア」Op.26
シベリウス:交響曲第7番ハ長調Op.105
(休憩)
シベリウス:交響曲第1番ホ短調Op.39

シベリウスはフィンランドを代表する作曲家であることは皆さんご存知でしょう。何を隠そう、私は大学院生の頃は建築史・建築芸術論を専攻し、アルヴァー・アアルトとフィンランド建築に関して研究していました。当時心酔していたフィンランドを代表する建築家であるアルヴァー・アアルトと、その背景となるフィンランドの建築史について研究室や大学図書館の蔵書の洋書を読んだり、色々調べていました。フィンランドはヨーロッパの辺境にあり、1809年まで隣国スウェーデンの支配下、その後1917年まではロシアの支配下にあり、独立したのは1917年。アールトはまさにこの頃から活躍し始め、世界にフィンランドを知らしめました。音楽ではシベリウスがフィンランドの独立の頃、フィンランド人の愛国心を高揚させる曲を次々と書き、こちらも世界にフィンランドを強烈に印象づけたのでしょう。当時色々とフィンランドのことを調べていたため、音楽では当時通っていた代々木のジュピターレコードでシベリウスのLPも何枚か手に入れ、まだ見ぬフィンランドのことを想像しながら聴いていました。その最初に買ったLPがDGからリリースされていたオッコ・カム指揮のヘルシンキ放送交響楽団のカレリア組曲とレミンカイネン組曲のアルバム。その後カラヤンの交響曲、バーンスタイン/ニューヨークフィルの交響曲などを聞きましたが、フィンランドの空気のようなものを一番感じたのはやはり、オッコ・カムの演奏でした。卒業旅行で念願のフィンランドを旅した時にはアアルトの建物を色々見て、お土産に当時リリースされたばかりのオッコ・カムのFINLANDIAレーベルのCDをヘルシンキで買って帰ったくらい。そう、オッコ・カムは私にとって最もフィンランドを感じる指揮者なんですね。その後、ベルグルンドやヴァンスカなど色々聴きましたが、オッコ・カムの強烈な印象に勝るものはなく、以来シベリウスといえば、真っ先にオッコ・カムと刷り込まれています。

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というわけで、前記事の武満以上にこのコンサートは楽しみにしていたもの。シベリウスは1865年生まれで、昨年2015年は生誕150年に当たるアニヴァーサリー。フィンランドからもいくつかのオケが来日してコンサートを開いたんですが、オッコ・カムも現在芸術監督を務めるラハティ交響楽団を伴って来日し、交響曲の全曲演奏を行ったそうですが、それを聴きもらしていましたので、今回の公演は情報を見た途端にチケットを取りました。

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みなとみらいホールは、以前デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の惑星を聴いて以来の訪問。サントリーホールに似たシューボックス型の綺麗なホールで、残響はサントリーホールほど混濁感がなくスッキリ響きますので、割と好きなホールです。

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この日は土曜なので開演のしばらく前について、ホワイエでのんびり。ホワイエではプレトークイベントが行われて結構な混み具合ですが、それとは別にコーヒーとスパークリングワインを頼んで窓の外の快晴の景色を楽しんで開演を待ちました。

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神奈川フィルのコンサートは初めて。開演時間となり、ステージ上にオーケストラのメンバーが入り始めるだけで拍手が始まります。バラバラと入場するのではなく整然と入場し、全員揃ったところで客席に向かって深くお辞儀。これがこのオケの流儀なのでしょう、なかなかいい感じです。そしてチューニングの後、待望のオッコ・カム登場。照れ屋なのかそそくさと指揮棒を振り上げ、すぐに1曲目に入ります。

交響詩「フィンランディア」
オッコ・カムにとって、フィンランディアは名刺がわりなのでしょう、いきなり古い記憶が呼び覚まされ、フィンランディアの荘重な入りのブラスが脳に直撃。神奈川フィルは弦の音色の艶やかさに限界はあるものの、金管も木管も想像以上に上手い。昔よく聴いていたFINLANDIAレーベルのオッコ・カムの響きと違わぬ響きにうっとりします。カラヤンのように響きで圧倒したりせず、自然な呼吸の進行。楽器の響かせ方は流石本場の演奏と思われるもの。溜めは最小限で響きが刻々と変化しながら、よく知った曲が脳内で完全に再構成されます。シベリウスの音楽は感情直撃、普段聴いているハイドンの理性的で構成感と機知に訴える音楽とは聴き方が全く違います。私ははるか昔の学生時代のことが思い出されて実に感慨深かったですね。頭の中で森と湖の澄んだ空気を想像していた頃の記憶が蘇りました。終盤のフィンランディア賛歌では管楽器のメロディーに続き、森の響きのような弦楽器での演奏に入るとあまりにの懐かしさに感無量。カムによる本場のフィンランディアにちょっとうるっときちゃいました。最初から見事な演奏に会場は拍手喝采でしたが、オッコ・カムは一礼するだけでサッと下がり、再度拍手に呼び戻されてもう一礼して終わり。なんとなくあっさりとしたステージマナー。フィンランド人の奥ゆかしいマナーと言うことでしょうか。

交響曲第7番
4番とともに溺愛する7番。シベリウスの交響曲の中でも最も書法が洗練された曲。手元にカムの7番のアルバムはありませんが、フィンランディアの演奏から想像される通りの素朴な響きの魅力に溢れた7番。カムは記憶の中にあるこの曲のメロディーをかなりオーバーラップさせるように煽り気味に指揮しながら、徐々に表情を変えながら進むこの曲をまるで森の響きのこだまのように追い込んでいきます。我々が楽譜を見て得るインスピレーションとは別次元のものに従ってタクトを振っているよう。そして繰り出される音楽はやはりフィンランドらしさを感じさせる素朴なもの。終盤の穏やかに盛り上がるクライマックスでは神奈川フィルもかなりの頑張りでカムの棒についていく力演。オケもオッコ・カムのコントロールで日本のオケではないような響きに包まれます。これも見事な演奏に拍手喝采ですが、カムはさらりとかわして引っ込んでしまいます。
帰ってからベルグルンドの旧盤を聴いてみますが、印象がまるで違い、旧盤ですら洗練されすぎて、朴訥な力強さはやはりカムの方が好みと再認識した次第。これはカムの新しい交響曲全集を手に入れるしかありませんね。

交響曲第1番
休憩を挟んで、後半は交響曲1番。実は1番はかなり苦手。シベリウスの音楽が洗練される前のロマン的な曲であり、曲の完成度もイマイチに感じてしまう部分が多々あります。アルバムで聴くことは滅多にありません。それゆえ久しぶりに聴くと新鮮に感じるのも事実ですね。
ティンパニのトレモロに乗って演奏されるクラリネットの物憂げなメロディーが見事でいきなり引き込まれます。また印象的な旋律を挟んでくるフルートも見事。続いてさざめく弦と激しい慟哭に弾むリズム。カムの棒に完璧に追従しながらオケが爆発。先にも書きましたが神奈川フィル、なかなか上手いです。次々に現れるシベリウスらしいメロディーを経て、1楽章の壮大なクライマックスが訪れ、その熱を冷ますようにフルートやハープがそよ風のように通り抜けます。最後は再びブラスの号砲で幕を閉じます。
2楽章のアンダンテはハイドンのアンダンテとは全く異なり、郷愁に満ちた優しいメロディーから入ります。主題が展開した後も時折り断片的に冒頭のメロディーが顔をだしながら進みます。ひとしきり展開したあと静かに冒頭のメロディーに戻るあたりの有機的な展開はハイドンの時代の書法を踏まえたもの。
スケルツォも展開は古典期の書法を感じさせるものですが、北欧らしい響きと中間部の大胆な崩し方はシベリウスならでは。日頃ハイドンを聴く耳からすると、交響曲の発展の歴史のパースペクティブを感じます。意外にハイドンの時代との共通する構成を再発見。
そしてフィナーレは劇的な弦のメロディーから入ります。オッコ・カムはフィンランドらしいさざめきや凍てついた大地の香りを感じさせる響きを神奈川フィルから引き出し、オケは何度も小爆発。そしてこの曲の聴きどころである哀愁に満ちた大河のようなメロディーに呑まれていきます。中間部はこれまでの楽章の余韻を感じさせるコラージュのような断片の再構成。そして再び源流から大河に育っていくように展開する美しいメロディー。不思議とフィンランドの自然を想起させるのはメロディーの力でしょうか。こうして聴くとシベリウスも交響曲の構成としては、交響曲の父、ハイドンの影響下にあることがわかります。壮大なクライマックスを経て最後の一音の響きがホールに消え去ると万雷の拍手。オッコ・カムはこれまで通り、さっと下がってしまいますが、もちろん何度も呼び戻され、オケの熱演を称えます。何度目かの登壇時にタクトを振り上げ、アンコールの演奏に入ります。

カレリア組曲から「行進曲風に」(アンコール)
そう、あのカレリア組曲の最後の行進曲です。いきなりリズミカルな行進曲が流れます。まるでウィーンフィルのニューイヤーコンサートの締めにラデツキー行進曲が演奏されるような祝祭感。私が最初に手に入れたオッコ・カムのLPの最初に収められた曲がカレリア組曲でしたが、まさにその響きそのままの音楽が流れ出してくるではありませんか。帰って、おそらく30年ぶりくらいにそのLPを引っ張り出して聴いてみると、寸分違わぬ響きが流れ出します。テンポも高揚感もフレージングも全く変わらず、30年の時をタイムマシンで行き来しているように錯覚します。カムにとってこの曲はアンコールに何度も取り上げているのでしょう。なんだかわかりませんが、冒頭のフィンランディアを聴いた時の胸の高まりと同じく、ものすごく懐かしい感情に襲われます。短い曲で、深みのある音楽ではありませんが、この日の観客も何か特別なものを感じたのでしょう。再び万雷の暖かい拍手に包まれました。この曲を初めて聴いた時の新鮮な驚きというか、まだ見ぬフィンランドに想いを馳せていた頃の気持ちに30年の時をへて戻ってきたような気持ちになりました。

コンサート後は、神奈川フィルの演奏者がホワイエに出て観客を見送るという熱心さ。なんとなくまた神奈川フィルのコンサートに来てみようと思わせる暖かさに包まれました。晴れ渡る横浜の空を眺めながら帰途につき、天気同様、なんとなく晴れやかな気持ちになった、心に染みるコンサートでした。

久しぶりにシベリウスを聴いて普段のハイドンのレビューは、これに比べると随分分析的に聴いているのだと再認識。音楽とは理屈なしに感情に訴えるものと、身を以て再認識した次第。たまには、ハイドンを離れてみる必要もあるんですね。個人的にはとても楽しい1日でした。

(参考アルバム)
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amazon(別装丁CD)

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ジャンル : 音楽

tag : シベリウス

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アイノラ荘の夢

Daisyさんと私は嗜好が非常に似ていますね。私も現代音楽は結構好きで、シベリウスはそれ以上に好きです。

思い返せば大学時代、NHK「現代の音楽」をオープンテープでエアチェックして聴きまくりました。ウェーベルンの番組テーマ曲が流れてくるとワクワクして別世界に体ごと持って行かれるな気がしたものです。湯浅譲二、三善晃、近藤譲など、日本にも素晴らしい作曲家はたくさんおられますが、でも何と言っても武満徹さんがダントツだと思います。

武満さんの曲を聴いていると、明晰で不思議な夢の中で意識がどんどん研ぎ澄まされていくような感じがします。昨日は、武満さんの曲をBGMに仕事をしました(おいおい…笑)

そしてシベリウス、これは人っ子ひとりいない世界ですね。鬱蒼とした無垢の原始森にひっそりと隠れた蒼古の湖。空を渡る鳥たち。雪嵐。アイノラ荘の夢…。私は4番と6番が好きです。

しかしDaisyさんのフィンランドびいきは筋金入りですね。北欧近代デザインの祖、アルヴァー・アールトを専攻されたとは(奥さんがシベリウスと同じアイノ)。この機会にアールとの建築を少し検索しましたが、建物の内部に直線ではなく曲線が多用されていますね。それが異質ではなくどこかホッとします。これは要するに住空間に「自然」が入り込んでいるのでしょうか。

Re: アイノラ荘の夢

Skunjpさん、いつもいつもコメントありがとうございます。

なんだか仕事が忙しくて相変わらずドタバタとしております。武満のみならず、シベリウスまでお好みとは驚きです。古典期のハイドンと、現代音楽の武満、そしてロマン派というよりお国もののシベリウスを結ぶなんらかの要素があるのでしょうか。実に不思議なものです。

アアルトとハイドンには、私なりに共通するものがあります。考えてみれば興味を持った時期はほぼ同じころ。アアルトは大学時代、ハイドンはブログの最初の方に書いた通り、予備校時代にきっかけはあったものの、大学時代に少し聴きはじめ、1991年のモーツァルトのアニヴァーサリー後にハマり始めました。

建築学科で学んだこともあってアアルトへの興味が少々先ではありますが、建築ではコルビュジエやライト、ミースなどの巨匠の中でも、ちょっと魅力のわかりにくかったアアルトに格別興味を持ちました。なんとなくん懐かしくなって当時書いた論文を引っ張り出してみると、「アアルトの建築は、コルビュジエのそれのように陽光の下に輝く彫刻的なフォルムによって人を圧倒することはなかったし、ミースのそれのように究極的な洗練を見せてもいないし、ライトのそれのように意匠と空間の表現を極限まで究めたものでもない。実際アアルトの建築の真の意義がどこにあるのか、容易に見出だすことはできないのである。」と書いています。アアルトの建築には実に深い、多義的な意味が含まれ、解る人には素晴らしい価値がわかる玄人好みの建築家なんですね。
もちろん、ハイドンを好むようになったのも、モーツァルトやベートーヴェン、バッハなどに比べて、メジャーとは言い難いのに、よく聴くと実に素晴らしい音楽であるということからです。こちらも、当ブログの読者のように、違いのわかる(笑)人こそが好む音楽ということで、アアルトとハイドンが繋がるわけです。

ご指摘のアアルトの建物の内部に曲線が多用されていたり、森を想起させる縦のリブを多く使っていることは、一般的にはフィンランドの自然の影響とされています。ただ、アアルトが抜きん出て素晴らしいのは、抽象芸術を好み、自然のメタファーを抽象化して建物のそこここに組み入れながら、素材そのままの魅力を保って構成する類い稀なセンスや、硬い花崗岩しか産出しないために木材を巧みに使い、過度な加工やモニュメンタリティをあえて抑えるというフィンランドならではの建築文化をさりげなく守り、当時のムーブメントだったインターナショナルスタイルのの最先端を走っていたことにあります。この辺が見えてくるとアアルトの素晴らしさが、骨身に沁みてくるわけです(笑)

私が好きなアアルトの建物はヴィラ・マイレア。Googleで"Villa Mairea"と検索すると、地図や写真が色々出てきます。一見ちょっと古臭い邸宅のように見えますが、アアルトの最高傑作の一つで、「住まう」ということの本質を非常に深く考え、建築設計の粋を尽くしながらも、尖ったところは一つもなく、空間構成の刺激に満ちた素晴らしい住宅です。ハイドンで言えば「ひばり」のような存在です。今でも財団が管理していて見学可能ですが、ヘルシンキからかなり遠いため、見学するのは大変です。死ぬまでに一度は訪れ、若き日に心酔したアアルトの真髄に触れてみたいものです。

考えてみると音楽はライブでしょうが、CDやLPでもある程度は真髄に触れることができますが、建築はその空間に身を置いてみなければ真価は味わえません。手軽に素晴らしい音楽を楽しめるのは幸せなことなんですね。

長文失礼。アアルトとなるとちょっと力が入っちゃいます(笑)
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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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