シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。
シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。
第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)
クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。
Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。
Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。
String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。
実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。


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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP