エノッホ・ツー・グッテンベルク/バッハ・コレギウム・ミュンヘンの「四季」(ハイドン)

すみません、年明けから怒涛の新年会ラッシュでだいぶ間が空いてしまいました。久しぶりに大曲四季を取り上げます。

IMG_7589_20170113215049575.jpg

エノッホ・ツー・グッテンベルク(Enoch zu Guttenberg)指揮のノイボイエルン合唱団(Chorgemeinschaft Neubeuern)、バッハ・コレギウム・ミュンヘン(Bach Colleggium München)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「四季」を収めたLP。収録は1988年4月24日、ミュンヘンのガスタイク・フィルハーモニーでのライヴ。レーベルは独obligat。

このアルバム、最近ディスクユニオンで仕入れたもの。売り場でこのアルバムを見たときはエノッホ・ツー・グッテンベルクの振る四季はCDが手元にあったはずだと思って所有盤リストを確認してみると、CDとしてリリースされている録音とは別物ということが判明したため、いそいそとレジに進みました(笑) CDの方は2004年のセッション録音で、オケはクラング・フェアヴァルトゥング管。それに対してこちらは1988年と16年遡った日のライヴでオケはバッハ・コレギウム・ミュンヘンです。指揮者のエノッホ・ツー・グッテンベルクはあまり知られた人ではありませんが、CDの方の演奏は引き締まった秀演だったため、ちょっと記憶に残っていました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクは、1946年、ドイツのバイロイト近郊のグッテンベルク(Guttenberg)に生まれた指揮者。グッテンベルク家はバイロイト一帯を含むフランケン地方の貴族であり、父カール・テオドールは1967年から69年までクルト・ゲオルク・キージンガー内閣の首相府政務次官を務めた政治家、息子カール=テオドールはメルケル内閣で経済・科学技術相、国防相を務めた政治家。息子の方はメルケルの有力な後継者とみなされるほど人気があったそうですが2011年、バイロイト大学に提出した論文に盗用疑惑が持ち上がり辞任したとのこと。
本人もドイツの大規模なワイナリーの所有者だったりと貴族の流れを汲む資産家のようですね。もともと、このアルバムで合唱を担当するノイボイエルン合唱団を1967年に創設し、すぐにドイツ国内のコンクールなどで優勝し、1980年からはフランクフルト・チェチーリア協会の合唱指揮者にも就任し、以後2つの合唱団や各地のオケなどを指揮して様々な音楽祭に招かれ、特に現代楽器でのバッハの演奏で知られるようになります。レパートリーはオラトリオを中心に現代音楽までとのこと。

歌手は下記の通り。

ハンネ:平松 英子(Eiko Hiramatsu)
ルーカス:ウェルナー・ホルウェグ(Werner Hollweg)
シモン: アントン・シャリンジャー(Anton Scharinger)

Hob.XXI:3 "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
後のCDの引き締まった演奏とは異なり、かなり自然でおおらかな入り。LPですがデジタル録音の時代に入っていますので、録音は自然かつ精緻で聴きやすいもの。LPもいいコンデションのためノイズもほとんどなくスピーカーの周りにホールの空間が広がります。シモンのアントン・シャリンジャー、ルーカスのウェルナー、ハンネの平松英子ともに、ホールによく響く通りの良い声。特にコーラスは大河の流れのように分厚いハーモニー。流石に合唱指揮出身のグッテンベルクのコントロールというところでしょう。ジャケットの中開きには演奏風景の写真がありますが、コーラスは100人規模の大編成。第4曲のシモンのアリア「農夫は今、喜び勇んで」に入ると美しいアリアのメロディーに乗ってオケがだんだん引き締まってきて、ライヴらしい陶酔感が漂います。そして第6曲のソロに合唱が加わるところが圧巻。まさにコーラスの海に包まれるような幸福感。ハイドンが農夫の喜びを描いた心情がまさに音楽の悦びとして歌われる至福の瞬間。ライヴそのままの盛り上がりを味わえます。グッテンベルクはオケをことさら煽らず、曲に素直に大局を見据えて自然なコントロールに徹しており、歌手もオーソドックスながら皆素晴らしい歌唱で支えます。そして、第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」の冒頭、オケがホールいっぱいに響き渡る素晴らしい迫力。録音の素晴らしさも手伝って類い稀な高揚感。まさにコンサート会場にいるような盛り上がりに圧倒されます。

LPをひっくり返して夏。前曲最後の盛り上がりから一転して、暗く静かな音楽に変わりますが、音楽の自然でしなやかな流れは変わらず。最初のシモンのアリア「眠りを覚ました羊飼いは今」はしっとりと美しく響きます。そして「朝焼けが訪れて」の輝かしいクライマックスでは再び大河のようなコーラスに包まれます。オケとコーラスのスロットルコントロールが自然ながらかなりの幅で、フルスロットルのエネルギーはかなりのもの。この自然なダイナミクスのコントロールがグッテンベルクの魅力でしょう。この後、レチタティーヴォなどで代わる代わるしっとりとソロを聴かせたあと、終盤のコーラスによる「ああ、嵐が近づいた」で再びオケとコーラスが爆発。そして最後の「黒い雲は切れ」でもコーラスが加わると一段とハーモニーが厚みを帯びて音楽に生気が宿りが宿ります。まさにコーラスが曲の中心にあるよう。

レコードを替えて後半へ。秋は収穫の喜びが満ち溢れた曲が続きます。三重唱とコーラスによる「こんなに自然は、勤労に報いてくれた」で最初のクライマックスに至り、ハンネとルーカスによる美しいデュエット「町から来た美しい人、こちらへおいで!」、そしてシモンのアリア「広い草原を見渡してごらん!」では実にデリケートなオケの伴奏によって絶妙なニュアンスが引き出されます。そしてホルンのファンファーレが轟く「聞け、この大きなざわめき」では、ホルンが朗々と響き渡りますが、弱音のコントロール、遠方で鳴る響きのパースペクティブの演出まで含めて見事。オケのテクニックは素晴らしいものがあります。秋の終曲はコーラスによる「万歳、万歳、ぶどう酒だ」。舞曲が流れる中、コーラスが最高に盛り上がって終わります。

そして最後の冬。しっとりと沈んだ描写の美しさもこの演奏の特徴。音量を落としてもデリケートなニュアンスと陰影がしっかり描かれているので音楽が雄大に展開していきます。前半は歌手が絶妙なレチタティーヴォで引き締め、中盤の聴きどころの糸車の歌では、コーラスが土着的なメロディーを素朴に歌い上げます。その後もアリアとレチタティーヴォの美しいメロディーの連続にとろけそう。オケは要所でキリリと引き締まり、終曲で明るい和音が轟く瞬間の自然な輝かしさはなんとも言えない朗らかさ。節度を伴ってじんわり盛り上がる終曲のコントロールまで緊張感が保たれました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクによるハイドン最後のオラトリオ「四季」の1988年のライヴでしたが、流石に合唱指揮者出身だけあって分厚く響くコーラスの魅力に溢れた名演でした。この大曲を実に自然な流れの中でまとめ上げる手腕は見事。オケのコントロールも素晴らしく、ハイドンの農民讃歌たるこの曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。演奏のキレを聴かせるという意図は皆無で全編自然な音楽に溢れた演奏でした。残念ながらCD化はされていないようで、入手は容易ではないかとは思いますが、この素晴らしさは多くの人に聴いていただくべき価値があると思います。後年録音されたCDも引き締まったいい演奏ですが、私はこの自然な大河の流れのようなライヴの方が好みです。評価は[+++++]です!

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 四季 ライヴ録音 LP

コメントの投稿

非公開コメント

グッテンベルク、四季はどちらの録音も入手出来ていないのですが、明日からの鈴木秀美/新日本フィルの定期の予習に、グッテンベルクの天地創造を聴いてみました。

天地創造、今まではあまり録音では聴く気がしなかったのが、グッテンベルク盤は出だしからすっかり引き込まれてしまいまして....四季の新旧盤を血眼で探さないといけなくなりそうです(笑)


Re: タイトルなし

小鳥遊さん、いつもコメントありがとうございます。

天地創造や四季は合唱指揮者の自然な演奏はいいですね。グッテンベルクの天地創造もワクワクするような推進力が素晴らしいですね。ちょっと聞き直して見たんですが、ガブリエルとエヴァのマリン・ハルテリウスが絶品ですね。隠れて評価上げちゃいました!
ちなみに私は土曜の方に行く予定です。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:48ピアノソナタXVI:39サントリーホールブルックナーマーラーヒストリカル十字架上のキリストの最後の七つの言葉LP交響曲97番告別交響曲90番交響曲18番アレルヤ奇跡交響曲99番弦楽四重奏曲Op.64ひばりフルート三重奏曲悲しみ交響曲102番ラメンタチオーネ交響曲86番モーツァルトヴァイオリン協奏曲ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:32ベートーヴェン驚愕哲学者小オルガンミサニコライミサミサブレヴィス交響曲95番交響曲93番弦楽四重奏曲Op.20交響曲78番時計軍隊ピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:40王妃ピアノソナタXVI:52アンダンテと変奏曲XVII:6武満徹SACDライヴ録音チェロ協奏曲古楽器交響曲19番交響曲81番交響曲全集交響曲80番マリア・テレジア交響曲21番クラヴィコードピアノソナタXVI:20豚の去勢にゃ8人がかり騎士オルランド無人島Blu-ray東京オペラシティチェロ協奏曲1番交響曲9番交響曲10番交響曲11番交響曲12番ロンドン太鼓連打交響曲15番交響曲2番交響曲4番交響曲37番交響曲1番弦楽四重奏曲Op.54ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:5天地創造ディヴェルティメント東京芸術劇場リヒャルト・シュトラウス交響曲98番ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:35ロッシーニドニぜッティライヒャオーボエ協奏曲ピアノソナタXVI:34弦楽三重奏曲皇帝ピアノ協奏曲XVIII:3ミューザ川崎ストラヴィンスキーシェーンベルク東京文化会館フルート協奏曲ホルン協奏曲弦楽四重奏曲Op.2弦楽四重奏曲Op.17弦楽四重奏曲Op.9剃刀弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103ピアノソナタXVI:26ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:31タリスバードモンテヴェルディパレストリーナアレグリすみだトリフォニーホールピアノ協奏曲XVIII:11ピアノソナタXVI:6美人奏者四季迂闊者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7ピアノ協奏曲XVIII:4アコーディオンバリトン三重奏曲スコットランド歌曲ヴェルナーガスマンシューベルトピアノソナタXVI:38交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲35番交響曲46番交響曲51番協奏交響曲DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3帝国ラ・ロクスラーヌ弦楽四重奏曲Op.76ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51五度ラルゴピアノ三重奏曲日の出ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1騎士弦楽四重奏曲Op.74交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス交響曲42番時の移ろいベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏交響曲39番冗談ナクソスのアリアンナ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲79番ロンドン・トリオ交響曲88番オックスフォードカノンオフェトリウムモテットドイツ国歌スタバト・マーテル弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルクブーレーズ主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41ショスタコーヴィチ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲リーム交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生音楽時計曲ピアノソナタXVI:11ピアノソナタXVI:47bisピアノ小品カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47第九読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番変わらぬまこと交響曲62番交響曲108番交響曲107番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲3番スカルラッティ声楽曲カンタータ戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
03 | 2018/04 | 05
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
当ブログが発掘した超名演盤
ViventeR.jpg
衝撃の爆演(記事1 記事2

PetersenQ.jpg
Op.1の超名演(記事

Destrube.jpg
美音の饗宴(記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック


クラシックの独自企画・復刻盤は要注目


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実
HMVジャパン
HMV & BOOKS ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV & BOOKS ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

おすすめ(音楽以外)





アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
122位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
11位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ