プラハ四重奏団の「皇帝」、「セレナード」(ハイドン)

プラハ四重奏団(Prager Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドン作の「セレナード」の2曲を収めたLP。収録は1972年5月、プラハでとのみ記載されています。レーベルは日本のキングレコードによるeurodiscの国内盤。
プラハ四重奏団は1956年、プラハ交響楽団の首席奏者であったブレティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成されたクァルテット。結成当初はプラハシティ四重奏団と呼ばれており、プラハ四重奏団と名乗るようになったのは1965年からとのこと。結成直後の1958年にはベルギーのリエージュで開催された国際コンクールで優勝し、国際的に注目されるようになり、活躍の場は世界に広がりました。メンバーは、結成後1957年、1968年にノヴォトニー以外のメンバーが入れ替わって、このアルバム演奏時の下記のメンバーとなりました。
第1ヴァイオリン:ブレティスラフ・ノヴォトニー(Bretislav Novotny)
第2ヴァイオリン:カレル・ブジビル(Karel Pribyl)
ヴィオラ:リュボミール・マリー(Lubomir Mary)
チェロ:ヤン・シルツ(Jan Sirc)
日本にも1965年をはじめに度々来日しており、日本で録音したアルバムも多数リリースされているということで、年配の方にはおなじみのクァルテットかもしれませんね。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンなどの古典から現代ものまで幅広く、ハイドンについてはこのアルバムの他にもOp.20のNo.5、Op.54のNo.2があるそうです。
ちなみにこのアルバムは最近オークションで手に入れたもの。eurodiscの国内盤ですが、ミントコンディションの盤面に針を落とすと、いきなり鮮烈、華やかな演奏に引き込まれました!
Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
鮮烈に響く4本の弦楽器。緊密かつ華やかにリズムを刻み、音楽がイキイキと弾みます。演奏によってここまで躍動するのかと関心しきり。そして交錯するメロディーの美しさが浮かび上がります。緊密なハイドンも鋭いハイドンもいいものですが、やはり明るく華やかに弾むハイドンの楽しさに勝るものはないとの確信に満ちた演奏。陽光のもとに輝く骨格が圧倒的な美しさで迫ります。1楽章は別格の出来。
そして有名な2楽章はヴィブラートがしっかりかかった弦のハーモニーがしっとりと沁みる演奏。訥々と変奏を重ねて行く毎に枯淡の境地に至り、色数をだんだん減らし淡色の景色に変わります。最後はモノクロームの透徹した美しさに。よく見るとモノクロなのに色が見えるような豊かさも感じさせるアーティスティックな世界。絶品。
メヌエットでは、躍動感はそこそこながらしなやかに流れるメロディーを丁寧になぞりながら曲そのものの美しさをしっかりと印象付け、フィナーレでは精緻すぎることなく手作り感を程よく残しての迫力でまとめます。適度な音程のふらつきも手作り感に繋がっているんですね。クァルテットの勘所を押さえた実に見事な演奏でした。
String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
1楽章の弾むような華やかさは皇帝と同じですが、こちらの方は曲の作りも手伝って、より気楽さを感じさせる演奏。演奏する方も楽しんで演奏しており、奏者もリラックスしているように聴こえます。ハイドンの作ではないことがわかっていますが、長年ハイドンの曲として演奏されてきた伝統もあり、実にこなれた演奏。この力の抜け具合がこのクァルテットの実力を物語っています。
ピチカートに乗ったセレナードも同様、リラックスして実に楽しげ。このさりげない美しさこそハイドンの本質でもあります。簡単そうに見えて、この境地に至るには並みの力では及びません。やはりこの曲は名曲ですね。
メヌエットも見事に力が抜けて軽やか。そして終楽章のスケルツァンドも同様。曲自体に込められたウィットを見抜いて全編を貫く軽やかさで包んできました。この辺りも手慣れた感じながら、曲の本質を突く見事なアプローチです。
プラハ四重奏団による皇帝とセレナード。名演奏揃いのこの曲の中でも指折りの名演奏と言っていいでしょう。やはりハイドンの演奏にはこの明るさ、軽やかさが似合います。鬼気迫る精緻なハイドンもいいものですが、このような演奏を聴くと、ハイドンはこう演奏するのが粋なのだとでも言いたげな余裕を感じます。おそらくCD化はされていないものと思いますので、このLPが彼らのハイドンの貴重な証ということでしょう。評価はもちろん両曲とも[+++++]とします。
最近手元には幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」というシリーズものの書籍があり、それを参照するとクァルテットの情報はかなりわかりますので調べるのに苦労することは少なくなりました。こちらは第3巻の東欧諸国編です。


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tag : 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.76 LP
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No title
私の所有は、キングレコードの国内プレス(確かK17C-xxxx)盤です。
メリットはと云えば、表ジャケットがメンバーの集合写真だった気がしますが、これも同じシリーズでキングから発売のアルバン・ベルクSQ「皇帝・騎士」と混同してるかもしれません。
ちょっと家探しして(実家に送りつけて無ければ)、聴取も含めた結果について別途ご報告いたします。
op.77とop.18のとても残念な関係?
良いですねー、弦楽四重奏曲! 私はここ半年、弦楽四重奏曲に身もココロも奪われています。
プラハ弦楽四重奏団ですか。懐かしいです。昔、モーツァルトとドヴォルザークを良く聴きました。
さて正月以来、土日も走りずめでしたが、とうとう風邪でダウン。土日は寝ていました。そしてベッドで聴いたのはファイン・アーツ弦楽四重奏団です。
思いっきりレアーな音楽が聴きたくなりサン・サーンスの弦楽四重奏曲(Naxos)をかけましたが、これがまあ、なかなかの名曲なのですよ。もちろん演奏の秀逸さもありますが…。
特に第1ヴァイオリンのラルフ・エヴァンスの抜けきった美音が素晴らしく、これは起きてハイドンを聴かなければとリスニングルームに移動、手に取ったのはop.77の2です。
LYRINXの録音は通常クセがあるので好きではないですが、ファイン・アーツ弦楽四重奏団のNaxosの録音が爽やかなシャンパンだとしたら、このLYRINXはフルボディの重いボルドーの赤という感じで、まあこれはこれでいいでしょう。
しかしファイン・アーツ弦楽四重奏団のop.77の2は素晴らしいですね。老いてますます盛んなハイドン晩年の名作は、旺盛な気力と老練のわざが充溢し入り交じった、まるで芳醇で深い味わいのワインのようです。演奏のコクと勢いがこの印象を倍加しています。
ことに第3楽章の変奏曲、チェロのテーマをオブリガートの第1ヴァイオリンが飾り、勢い余って歌舞伎のような大上段の大見得を切ります。そして第4楽章では「位置についてヨーイ、ドン」の総奏があり、そして4者が脱兎のごとく走り出します。うーん、素晴らしい!…聴後、心なしか風邪も治ったようが気が(笑)
いやー、op.77のハイドンは枯れているどころかやる気マンマンですよ。なぜ2曲で終わったのか、残念でなりません。もし「四季」がなかったら、私達はあと何曲かの逸品弦楽四重奏曲を手にしたはず。
また誰かが言っている通り、もしベートーヴェンのop.18を聴いてハイドンが続きの弦楽四重奏曲の作曲を断念したのだとしたら、「ベートーヴェンの6曲なんて要らないから、ハイドンをもっと欲しい!」と私は言いたい。
…あッ、ベートーヴェン・ファンの方、石を投げないでください(笑)
Re: No title
このアルバム、旧東欧圏のクァルテットの層の厚さを思い知らされる素晴らしい演奏ですね。そもそもハイドンのクァルテットとはこのように軽々としたキレの良さがふさわしいものと自信ありげに演奏されると、その後と数多の演奏の歴史が徒労に感じられるほどの説得力があります。これぞハイドンとほくそ笑むクァルテットの奏者の顔が浮かびますね。これもLPだからこそのキレの良さがあるんでしょう。CDよりもLP集めが楽しくなるわけです(笑)
Re: op.77とop.18のとても残念な関係?
なぜか私の方も、今週月曜から風邪気味で、パッとしません。先週金曜に時間がなくて仕事の合間に珍しく立ち食い蕎麦屋に行ったんですが、奥でネギを刻んでいたおじさんが物凄い勢いで咳き込んでいて、ちょっとやな感じがしたんですね。そうしたら2日後に見事に同じような咳に見舞われました(苦笑) 幸い、今週は以前から予定していた休暇なので事なきを得ていますが、どうにも調子が上がらず、のんびりさせてもらってます。
さてさて、以前レビューはしているものの、レビューするたびに新たな記憶で古い記憶が押し出されてしまう「ところてんの法則」によりファイ・アーツのOp.77の演奏の手応えが薄れて来ていたので、ラックから引っ張り出して聴いていますが、改めてこれは素晴らしい演奏ですね。これでこちらも風邪をけちらそうと思います(笑)