アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

久々のピアノトリオですね。

ClassicEra.jpg
TOWER RECORDS / amazon(mp3) / ローチケHMVicon

アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラ(Ensemble of the Classic Era)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:14、XV:12)、交響曲92番「オックスフォード」(ヤン・ラディスラフ・ドゥシークによるフォルテピアノとヴァイオリンのための編曲版)、交響曲96番「奇跡」と94番「驚愕」(ヨハン・ペーターザロモンによるピアノ三重奏のための編曲版)、ピアノ三重奏曲(XV:18)の6曲を収めたアルバム。収録はオックスフォードまでの3曲が1998年9月21日から25日、残り3曲が1995年10月31日から11月4日、いずれもオーストラリアのメルボルンにあるオーストラリア放送サウスバンクセンターのイワキ・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルはオーストラリア放送のABC Classics。

これまでも何度か取り上げたことのある、珍しいオーストラリアの奏者のハイドン。今日取り上げるアルバムはもちろん、珍しいからばかりではなく、なかなかいい演奏ということで取り上げました。オーストラリアの奏者によるオーストラリアでの録音は下の2つくらいでしょうか。

2014/02/24 : ハイドン–協奏曲 : オーストラリア・ソロイスツのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)
2011/06/24 : ハイドン–声楽曲 : ジェーン・エドワーズの歌曲集

その他、オーストラリア出身の音楽家の演奏でこれまで取り上げたことがあるのはホルンのバリー・タックウェル、ソプラノのジョーン・サザーランド、指揮者のデニス・ヴォーン、ヴァイオリンのエリザベス・ウォルフィッシュといったところ。ヨーロッパから見るとアジア以上に辺境感のあるオーストラリアでもハイドンの音楽の素晴らしさは変わらないということでしょう。

さて、このアルバムの演奏を担当するアンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラのメンバーは下記の3人。

ヴァイオリン:ポール・ライト(Paul Wright)
チェロ:スーザン・ブレイク(Susan Blake)
フォルテピアノ:ジェフリー・ランカスター(Geoffrey Lancaster)

フォルテピアノのジェフリー・ランカスターは上にリンクを掲載したジェーン・エドワーズの歌曲集の伴奏をしている他、フォルテピアノによるハイドンのソナタ全集を3巻までリリースしており、ハイドンには格別のこだわりがありそうな人。

いつものように略歴を調べてみると、ジェフリー・ランカスターは1954年シドニー生まれの鍵盤奏者、指揮者。キャンベラ音楽学校、シドニー音楽院、タスマニア大学などで音楽を学び、1984年に渡欧してアムステルダム音楽院、王立ハーグ音楽院でフォルテピアノを学び、1996年からはロンドンの王立音楽大学で教職に着きました。奏者としてはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどをレパートリーとしてオーストラリアや欧米のオケとソリスト、指揮者として共演を重ねているそう。
ヴァイオリンのポール・ライトはアデレード生まれ、チェロのスーザン・ブレイクもシドニー音楽院出身といずれもオーストラリアの人ですね。

ということで、オーストラリア人トリオによる演奏を聴いてみましょう。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
実に優雅な入り。基本に忠実にゆったりと楽器を鳴らした丁寧な演奏。やはりジェフリー・ランカスターのフォルテピアノがリードしてヴァイオリンとチェロが寄り添う形。奏者の純粋な心境を表すような無垢な優しさを感じる演奏。訥々と語りかけるようなタッチで音楽が進みます。録音は鮮度十分で、しかも響きは柔らかくふくよか。古楽器の美しい響きが見事に録られていますね。ヴァイオリンのポール・ライトは何気に美音を轟かせます。そして何より弱音の扱いがデリケートで上手いのが聴きごたえに繋がっています。
続く2楽章ではさらにリラックスして至福の境地。テクニックを極めた円熟の演奏という感じではなく、大自然の素朴さを音楽にしたような朗らかさを感じるのが不思議なところ。中間部のフォルテピアノの音色を変えて弦楽器のピチカートが華を添えるところの美しさは絶品。
そしてフィナーレはそれまでがしっとりとした音楽だったからこそ、しなやかな躍動感が映えて聴こえます。室内楽の聴かせどころ踏まえた構成に唸ります。一貫して柔らかな古楽器の音色による素朴な演奏。最後は転調の面白さ、リズムの変化の面白さ、弱音の美しさを存分に聴かせて曲を結びます。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
短調の名曲。聴きなれた入りも、ダイナミックすぎず、力まず、さらりと入るあたりにこのトリオの巧さを感じます。込み入ったアンサンブルに聴こえますがいい意味で軽くこなしていくようなスタイルが深刻さを感じさせず、音楽の美しさを浮き彫りにしているようです。やはりジェフリー・ランカスターの軽やかなタッチがそう聴かせているよう。
続くアンダンテでも、そのタッチが音楽の軽やかさを創っていきます。ヴァイオリンはピチカートでフォルテピアノを引き立てたかと思うと、すぐに寄り添って響きに厚みをもたらします。かと思うと今度はフォルテピアノが静かにヴァイオリンとチェロを支える役に転じるという構成の面白さ。
終楽章は爽やかな入りから流れるようにしなやかに盛り上がり、畳み掛けるような迫力を何度か聴かせて、最後はテンポを落としたり楽器の表現力の限りを尽くした見事な終結。これも見事です。

このあと、オックスフォードをヴァイオリンとフォルテピアノの2台で、奇跡と驚愕をフォルテピアノトリオで聴かせますが、他の室内楽版よりも原曲のスケール感を表現しようとする意欲に満ちたなかなかの演奏。これはまた別の機会に取り上げましょう。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
アルバムの最後に置かれた曲。このアルバムに収められたピアノトリオの中では録音が3年ほど古いもの。響きも前2曲とは異なり、シャープで鮮明さが勝った録音。前2曲が自然で柔らかな響きの魅力に溢れていたのに対し、こちらは一般的な古楽器の録音に近くちょっと鋭角的な響き。その分ジェフリー・ランカスターの演奏もゆったりとした余裕のある感じとはちょっと異なって聴こえます。もちろん録音ばかりではなく演奏自体も少し硬く精緻な印象。やはりハイドンの演奏は自然な演奏の方がしっくりきますね。ただ、聴き進んでいくうちにジェフリー・ランカスターの音色の変化や表現力は変わらず魅力的であることに気づきます。録音によって演奏が引き立つかどうかはアルバムでも重要であることがわかります。
2楽章では逆に精緻な印象が凛とした美しさに繋がっており、耳が慣れてきたのか演奏に集中できるようになります。そして3楽章はノリの良いメロディーをヴァイオリンのポール・ライトがくっきりと浮かび上がらせる見事な演奏。ここにきてヴァイオリンが主導権をしっかりと握り、覇気溢れる演奏。素晴らしい迫力ばかりではなく力を抜いたところとの対比で聴かせるところもあり、ここにきてこのトリオのテクニックを印象付けます。いやいや素晴らしい。

アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラというオーストラリアのトリオによるハイドンのピアノ三重奏曲。2曲目までは自然な響きの魅力で聴かせる演奏でしたが、最後の曲でキリリと引き締まった迫力を聴かせて、表現力を印象付けました。やはりジェフリー・ランカスターのフォルテピアノの多彩な表現がこの団体の魅力ですが、ヴァイオリン、チェロもそれにピタリと合わせて一糸乱れぬ快演。かれこれ20年以上前の録音ですが古さは全く感じさせず、また欧米の一級の演奏に劣るようなところも全くありません。評価は3曲とも[+++++]とします。室内楽好きな人には一聴をお勧めいたします。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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No title

いつも楽しく拝見させていただいております。
こちらのアルバム、交響曲などの編曲版大好きなので持っておりましたが96番だけでした。他の曲も是非聴いてみます!

Re: No title

論より感覚さん、いつもコメントありがとうございます!

このアルバム、ピアノトリオのみ記事にしましたが、交響曲の編曲もなかなか素晴らしい演奏です。特にオックスフォードのヴァイオリンとフォルテピアノのための編曲版は非常に珍しい演奏ですね。交響曲の編曲の3曲はいずれもジェフリー・ランカスターの表情豊かなフォルテピアノによって原曲のイメージが非常に良く再現されていますので、こちらも聴きごたえ十分ですね。
室内楽への編曲は作曲当時のハイドンの人気や、これらの曲の人気がいかにすごかったかを物語るものでしょう。そのようなことを思い浮かべながら聴くと一層感動的ですね。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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