アントニーニ/ムローヴァ/読響によるハイドン・ベートーヴェン(サントリーホール)

昨日10月16日は楽しみにしていたコンサートへ。

Antonini20181016.jpg
読売日本交響楽団:第616回名曲シリーズ

ハイドンが好きな方ならよくご存知の鬼才、現在ハイドンの交響曲全集の録音に取り組んでいるジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)が読響に客演するということでチケットを取ったんですが、プログラムがまた絶妙。

ハイドン:歌劇「無人島」序曲
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン:交響曲2番

ハイドンは序曲1曲だけですが、中でも劇的な展開で知られる「無人島」序曲。それにヴィクトリア・ムローヴァを迎えてのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に、おそらく火の玉のように燃え上がるであろうことが容易に想像できる交響曲2番。プログラムを見ただけでも過呼吸でした(笑)

アントニーニが取り組むハイドンの交響曲全集については、これまで逐一取り上げています。

2018/07/07 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第6巻(ハイドン)
2017/11/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)
2017/04/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)
2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

リリース当初はちょっと力みも感じる演奏だったんですが、巻を重ねるごとに演奏の完成度も高まり、ここ数巻は非の打ち所のない仕上がりになっています。少し前に全集を目指して進行中だったトーマス・ファイも素晴らしかったんですが、即興性を重んじることで曲ごとにけっこうムラがあったのに対し、アントニーニは自分の理想の響きにきちんと磨き込んでくる完成度の高さがあります。今回は主兵ではない読響の客演で、どこまでアントニーニ流の響きの完成度に近づくことができるかが聴きどころと睨んでおりましたが、結論から言うと、読響がまるでバーゼル室内管になったような完成度に仕上がっていました!

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さて、いつものように嫁さんと待ち合わせて、開場時間にサントリーホールへ入ります。直前まで仕事に追われてドタバタでしたので、まずはいつものように適量のワインとビールで大脳皮質と聴覚神経を覚醒させます(笑)

この日の席はRAの前から2列目。もちろん指揮者の指示をくまなく把握しようと言うことで取った席です。アントニーニが読響初登場ということで、読響の方にもかなりの緊張感があったものと想像されます。お客さんもほぼ満席ということで注目度も十分。集客にはアントニーニもさることながらムローヴァ目当てのお客さんも少なくなかったことでしょう。この日は客演で日下紗矢子がコンサートミストレスでした。

チューニングを終え、アントニーニが登場。写真ではちょいワルおやじ風というかやさぐれおやじ風な風貌ですが、銀縁の眼鏡をかけて颯爽と登場する姿はむしろ知的な感じ。第一印象は事前の想像とはちょっと違いました。ホールが静まると、ぐっと腰を落としてかなり低い姿勢からタクトなして両手を対称に静かに振り上げ、最初の短調の「無人島」序曲の序奏に入ります。いきなりかなり引き締まった響きにただならぬ緊張感が宿り、弱音が続くなか、期待通りアントニーニのコントロールが隅々にまで行き渡ったタイトな響きに包まれます。主題に入ると予想通り爆発! かなり頻繁に腰を落として低い姿勢から伸び上がるようにオケに強奏を要求するアントニーニのアグレッシブな指揮にオケも完璧に追随してまさに鬼気迫る演奏。オケに粗はなく、読響の緊張感もひしひしと伝わります。鋭角的なアクセントや鋭い音量変化、フレーズごとに完璧に表情を変えながら劇的に展開する絶妙なコントロール。会場のお客さんもアントニーニの挨拶がわりの完璧なハイドンに仰け反らんばかり。いやいや素晴らしい。想像以上のオケの統率力を見せつけられ、こちらも仰け反りました。出会い頭にアントニオ猪木のビンタを食らったような衝撃。この曲は既発売の全集の3巻に収録されていますので帰ってから聴き直してみましたが、ライブの迫力が加わり完全に実演に軍配です。もちろん会場からは痛快すぎる見事なハイドンの序曲に拍手喝采。アントニーニも読響が意図通りに響き満足そう。何度かのカーテンコールで一旦静まり、続いてはベートーヴェン。

オケの編成が少し変わって、アントニーニとムローヴァが並んで登場。ムローヴァ、アントニーニよりも背が高く来年60歳とは思えぬすらりとした立ち姿にうっとり。再びアントニーニがぐっと沈んで、ハイドンとは異なる長い序奏にくっきりと陰影をつけながらノンヴィブラートのオケで描いていきます。先ほどのハイドンが集中度100だったとすると、こちらは80くらい。アントニーニの方はハイドンで短距離を全力疾走したので、ここは少し気合いを緩めてソロとの掛け合いを楽しむといった趣向でしょう。というかハイドンでの集中力が尋常ではなかったということでしょう。ムローヴァのヴァイオリンはいくつかの録音でかなりさっぱりしたものだという感触を持っていたので、その先入観のせいか、意外に豊穣に聴こえました。特に伸びやかな高音域が印象的。アントニーニの先鋭的な響きと伸びやかで屈託のないムローヴァの掛け合いはそれなりに面白い組み合わせ。お互いに自己主張をぶつけ合いながらも音楽としてはまとまっていました。2楽章のラルゲットでは弱音部とハーモニーの美しさをさらりと垣間見せ、フィナーレではオケが気持ちよく吹き上がるところを生かした見事なコントロール。ムローヴァの張り詰めた弓さばきもあって、お客さんも拍手喝采。アントニーニもムローヴァもニコやかに拍手に応じていました。アンコールはバッハのパルティータ第2番からサラバンド。さらりとしたサラバンドで虚飾を廃した純粋無垢、無色透明のような演奏。これはムローヴァならではですね。もちろんお客さんは大喜びでした。

休憩後はベートーヴェンの2番。おそらくアントニーニの演奏スタイルに最も合うのが2番でしょう。これがすごかった。才気爆発のキレキレの演奏。1曲目のハイドン以上に表情の変化の幅を大きくとり、時折り楔を打つような鋭角的なアクセントを織り交ぜながらも、曲の流れをバランスよく保ちます。読響も万全の体制でアントニーニの指示に的確に応える熱演。火の玉のように燃えたぎるとはクライバーのような演奏ですがアントニーニの演奏は目にもとまらぬ速さで快刀を振り回しながらデフォルメの効いたアーティスティックな彫像を彫り出していく感じ。しかも前のめりにオケを煽る面白さに満ちていて、目で聴くという意味でも実に面白い。独特の腰をかがめて沈み込むユニークな動きに合わせてオケも沈み込んだかと思うと炸裂し、速いパッセージのキレ味も抜群。1楽章は痛快の極み。お客さんも圧倒されっぱなしな感じ。この曲はハイドンの交響曲と近い構成のため、緩徐楽章にコンパクトなメヌエット、終楽章と続きますが、聴かせどころはハイドンの録音で心得ている感じ。曲の作りがハイドンでは構成の面白さに行き、ベートーヴェンではより力感を重視している感じで、アントニーニもそれを踏まえてしっかりとスロットルをコントロールしてオケを吹きあがらせます。メヌエットの諧謔性と、フィナーレの炸裂感はアントニーニの類い稀な才能があってこそと唸らされました。読響も熱演で、オケの仕上がりは以前ファビオ・ルイージとの共演時以上の素晴らしさ。終演後の満足気なアントニーニの表情を見ると、まんざらでもないとの印象を持ったと思います。

ということで、ハイドンの演奏ではおなじみのジョヴァンニ・アントニーニによる、ハイドンとベートーヴェンは期待を大きく上回る素晴らしい演奏でした。やはりオーケストラコントロール能力は図抜けたものがあります。ハイドンの交響曲全集についてもまだまだ先が長いですが録音が完結することを祈りたいと思います。

週末に同じくアントニーニが読響を振るヴィヴァルディとハイドンのプログラムもチケットを取ってあり、こちらも今から楽しみですね。



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tag : オペラ序曲 ベートーヴェン

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お世話になります。
アントニーニの姿が目に浮かぶようなレビュー、ありがとうございます。
彼とバーゼルのCDでも第2交響曲は胸のすくような快演だったので、彼の指揮ぶりを目にして聴いたら、さぞかし興奮したものになったのではないかと思います。
明日はヴィヴァルディとハイドン、期待しています。

只今、大阪からの新幹線の車中です。
昨夜は飯森範親氏と日本センチュリー響のハイドンマラソンでした。前半は第61番、第39番、後半は首席チェロの無伴奏による黛敏郎の「文楽」、そして第72番「狩り」というプログラミング。1760年代、70年代、80年代と時代の異なる3曲を聴き比べるという趣向でした。
飯森氏の躍動感ある表現と、パウゼをうまく使った表情の変化のつけ方が絶妙で、堪能できました。また、ステージ転換時にはシェフ自らマイクを握り楽曲解説をして見せ、氏の多才ぶりに感心した次第。ますますこのマラソンを共に走り続ける覚悟をしました。

追伸
いずみホールでもらったチラシで、R.ホーネック氏といずみシンフォニエッタのメンバーによるモーツァルトのK.138のディヴェルティメント、協奏交響曲 K.364の弦楽六重奏版、そしてシューベルトの八重奏曲、というプログラムによる公演が2月にあることを知り、即チケットをゲット。協奏交響曲は先日の紀尾井室内管弦楽団とのオリジナル版が素晴らしかったので、こちらも楽しみです。

Re: アントニーニ/ムローヴァ/読響によるハイドン・ベートーヴェン(サントリーホール)

Katsudonさん、コメントありがとうございます。本日は2階席の右側にて鑑賞です。感想はまた記事で!
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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