ピリフ/ヴロツラフ・フィルの「太鼓連打」「ロンドン」
今日は先週タワーレコード渋谷店で入手したアルバムの残り。あまり期待せず聴いてみたら、これも意外な名演奏だったので紹介しちゃいましょう。
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ズビグニェフ・ピリフ(Zbigniew Pilch)指揮のヴロツラフ・フィルハーモニー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」と104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。収録は2008年10月8日~10日、オケのホームタウンであるポーランド西部、チェコ国境に近い街、ヴロツラフ(Wrocraw)のヴロツラフ放送、ヤン・カチュマレクコンサートホールでのセッション録音。レーベルはポーランドのワルシャワにあるDUX Recording Producersというレーベルです。ヤン・カチュマルクという人はポーランド出身の有名な作曲家のようですね。
最近、特にブログをはじめて演奏をじっくり聴くようになってから、マイナーな演奏家やレーベルにも良い演奏が非常に多いことにあらためて気づきました。アルバムを買うときには、知らない演奏家のものも積極的に買うようにしています。全く未知の奏者の演奏を聴くという、このワクワク感がたまりませんね。今回手に入れたDUX Recording Producersというレーベルは、ポーランドの奏者を中心としたレーベル。同様マイナー系のハンガリーのレーベルHUNGAROTONはちょっと田舎っぽい造りが微笑ましいんですが、DUX Recording Producersの方はジャケットの造りも垢抜けていてなかなかのものです。レーベルのウェブサイトへのリンクを張っておきましょう。
DUX Recording Producersレーベルウェブサイト(英文)
さて演奏のレビューに入りましょう。現代楽器によるオーソドックスな表現のハイドンですが、鋼のようなオケの硬質な音(良い意味で)と吹き上がりの見事さが特徴の良い演奏。
交響曲103番「太鼓連打」(1795年作曲)
1楽章冒頭の太鼓はオーソドックスな遠雷パターン。主題以降は現代楽器によるオーソドックスな演奏なんですが、張りと推進力が抜群の良い演奏。響きの透明感を出そうとヴィブラートは弱めのようですね。テンポは中庸、表現もほんとうに正統的なんですが自信にあふれたような堂々とした演奏ゆえ、聴いていて非常に楽しめます。純粋にハイドンの筆致を楽しむための理想的な演奏と言っていいでしょう。
2楽章も同様の流れ。すこしあっさり気味の表現が現代風なんでしょうか。続く3楽章のメヌエットも少し速めのテンポですっきりと進めます。中間部の木管のユーモラスなメロディーのソロがちょっと個性的な吹き方でアクセントになります。
フィナーレは落ち着いて入りますが、途中から力感を増し、オケの素晴らしい吹き上がりを堪能できる演奏。比較的高音の残響が多め故金管の号砲が印象的。表現が乱れることはなく、巧くコントロールしてハイドンの交響曲のフィナーレの複雑な構成を進め、最後はなかなかの盛り上がりをみせ終了します。なにもしていないんですが、実にしっくりとくる演奏。ハイドンの交響曲の素朴な良さを楽しむには、質の高い素朴な演奏であればよいという見本の様な演奏と言えば良いでしょうか。
交響曲104番「ロンドン」(1795年作曲)
つづいてロンドン。太鼓連打よりもオケ、指揮者双方力が入っているのか聴き取れます。非常に堂々とした序奏。テンポをゆったりめにとり、しっかりした足取りで序奏を進めます。上昇する音形の爽快感は素晴らしいものがあります。巨匠風に練らないのが最近の演奏ならではということでしょう。ロンドンの1楽章を堪能。
前曲同様、2楽章、3楽章はすっきり、あっさりを基調としながらも落ち着いたもの。速めのテンポのメヌエットも清々しく良いですね。
ロンドンの終楽章はこのアルバムの白眉。ハイドンが書いた素晴らしい盛り上がりをそのまま音にしたような、純粋無垢なロンドン。オケもアクセントをクッキリつける部分が多くなり最後の盛り上がりに備えます。オケのトゥッティの音色はブリュッヘンの18世紀オーケストラに若干似てなくもなく、不気味な迫力を帯びることがあります。最後は諦観のような心境も感じさせつつ曲を閉じます。
評価は「太鼓連打」が[++++]、「ロンドン」が[+++++]としました。双方とも良い演奏なんですが、ロンドンの迫力あるオケの響きは他のメジャーな奏者の演奏と比べて劣るどころか、立派に太刀打ちできる素晴らしいものです。堂々としながら、爽やかさも保った品位の高い演奏と言えるでしょう。
この組み合わせももちろんはじめて聴く人でしたが、素晴らしい才能だと見ました。要チェックですね。
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