【新着】ジョージ・セルのハイドン交響曲ボックス
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ジョージ・セル(George Szell)指揮の手兵クリーヴランド管弦楽団の演奏によるハイドンの交響曲11曲を集めた4枚組。収録曲目は以下のとおり。
CD-1
交響曲第93番(Hob.I:93)1968年4月18日収録
交響曲第94番「驚愕」(Hob.I:94)1967年5月5日収録
交響曲第95番(Hob.I:95)1969年1月17日、18日収録
CD-2
交響曲第96番「奇跡」(Hob.I:96)1968年10月11日収録
交響曲第97番(Hob.I:97)1969年10月3日、6日、10日収録
交響曲第98番(Hob.I:98)1969年10月10日収録
CD-3
交響曲第92番「オックスフォード」(Hob.I:92)1961年10月20日収録
交響曲第99番(Hob.I:99)1957年10月25日、26日収録
CD-4
交響曲第88番(Hob.I:88)1954年4月9日収録(MONO)
交響曲第104番「ロンドン」(Hob.I:104)1954年4月9日収録(MONO)
交響曲第97番(Hob.I:97)1957年10月25日、26日収録
ザロモンセットがそろっている訳ではなく、100番「軍隊」、101番「時計」、102番、103番「太鼓連打」が抜けており、その代わりに88番、92番「オックスフォード」が含まれ、97番については2種の演奏が含まれているということです。録音はすべてクリーヴランドのセヴァランス・ホールでのセッション録音。1954年収録の88番と104番「ロンドン」のみモノラルで他はステレオ。
セルのハイドンについてはライヴを中心にこれまで何度か取り上げていますので、過去のレビューをご覧ください。
2011/01/03 : ハイドン–交響曲 : セル/クリーヴランド管の99番(1966年2月ライヴ)
2010/08/26 : ハイドン–交響曲 : セル/クリーヴランド管の93番、驚愕
2010/08/25 : ハイドン–交響曲 : セル1954年の93番ライヴ録音2種
2010/08/17 : ハイドン–交響曲 : セル/クリーヴランド管のロンドン他
2010/08/16 : ハイドン–交響曲 : セルの1959年ザルツブルク音楽祭ライヴ
これまで聴いたセルの印象は録音年代が古いほど覇気があり、新しいものは均整のとれた高潔なセルの魅力は素晴らしいものの、古い時代の素晴らしい迫力とキレは少々後退してしまった印象があります。またライヴはムラはありますが、ライヴならではの迫力を感じられる演奏もあります。
このアルバムによって、セル/クリーヴランド管の未入手の演奏も一気に手に入りました。これまで未入手だったのは、92番「オックスフォード」の1961年の演奏、95番、96番「奇跡」97番の1969年の演奏ということになります。オックスフォードと97番についてはクリーヴランド管とのセッション録音が複数あったんですね。ということで、今日は未入手の演奏から95番と96番「奇跡」を取り上げようと思います。
交響曲95番(1791年作曲)
セルの最晩年の録音のひとつ。1969年1月17日、18日の録音。他の曲よりもオーケストラの響きがちょっとざらついて聴こえます。コントロールが甘いという感じというよりは録音の影響のようにも感じます。冒頭の短調の序奏から力強い響き。良い意味でザクザクした感じと勢いが感じられ、1楽章はなかなかの迫力。
2楽章に入ると艶やかな弦の響き。ただし枯れた表情が強くなります。往年のセルとは明らかに異なる表情。コントロールが行き届いているというよりはオケに任せている感じも強いですね。
3楽章のメヌエットは再びセルの覇気を感じさせるキレが見られます。オケにも火がついたのか2楽章とは明らかに異なるエネルギー感。ふたたびザクザクと刻まれる音。
そして、95番の聴き所、沸き上がるエネルギーが炸裂するフィナーレ。オケもアンサンブルは粗いものの素晴らしい吹き上がり。セルのやや冷たさを感じさせなくもない高潔な表情とは異なる、晩年のエネルギー感が素晴らしい演奏です。95番のフィナーレはこうでなくては。
交響曲96番「奇跡」(1791年作曲)
奇跡は95番の前年1968年10月11日の録音。おそらくセルの良さが最も合うと思われる曲。こちらは95番よりもまとまりのある音質で、オケも精度が少し上がります。1楽章はセルの真骨頂であるカッチリとクリアな音が印象的。序奏は意外と有機的な響き。オケの各楽器のバランスが絶妙。主題に入るとコミカルなこの曲独特なメロディーをカッチリと折り目正しく描いていきます。曲の創意と指揮者の覚醒したようなコントロールの絶妙なバランス。オケ全体に行き渡る軍隊の規律のような張りつめた緊張感。終盤のオケの力感は見事。
2楽章は艶やかなメロディーとフレージング。艶やかながら基本的には規律に従ったキリッとした面もあります。ゆったりしたメロディーがきっちり進みます。
3楽章のメヌエットは落ち着いた入り。若干溜を効かせてメリハリを強調します。一貫したリズムでメロディーを刻み、若干形式的な印象を与えてしまいます。
前曲同様盛り上がりを期待するフィナーレ。最初は力を抜いて入りますが、たびたび襲ってくる低音弦の波に刺激されるように、オケに力が漲ります。ただ、前楽章から感じられる型にハマった感はちょっとぬぐい去れず、爆発というところまでには至りません。安定感は見事故、この奇跡はセルのキリッとした折り目正しい演奏を楽しむ演奏と位置づけられると思います。
さて、まずは未聴の95番と96番「奇跡」を聴きましたが、良かったのは95番。荒々しい音色と終楽章の炸裂感が見事。それでもセルの全盛期の恐ろしいばかりの覇気とはちょっとレベルに差があります。評価は[++++]とします。奇跡の方はバランスの良い演奏ながら、生気と言うかエネルギーの面での期待とはちょっとギャップがあるところです。この辺は最初期の88番とか104番との差は大きいと思います。評価はこちらも[++++]とします。
さて、いわば晩年の演奏として、ある意味予想通りの演奏だったんですが、最初期の演奏のこれまでリリースされてきたアルバムとの差なども気になるところ。つづいて、その辺に切り込みます。
が、その前に食事です。
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