レヴィン、ベス、ビルスマによるピアノ三重奏曲集

今日はピアノトリオの名演盤。

LevinBethisBylsma.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

ロバート・レヴィン(Robert Levin)のフォルテピアノ、ヴェラ・ベス(Vera Beths)のヴィアオリン、アンナー・ビルスマ(Anner Bylsma)のチェロと古楽器の名手3人によるハイドンのピアノ三重奏曲の最後期の4曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29、XV:30)を収めたアルバム。収録は1992年9月2日、3日、5日にオランダ、ハールレムのルター教会でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

フォルテピアノのロバート・レヴィンは1947年アメリカ生まれのピアニスト、作曲家。幼少期にはパリで教育者として有名なナディア・ブーランジェに学び、ハーバード大学では「モーツァルトの未完の作品」という論文を書いたとのこと。教育者としてのキャリアが中心で、フライブルク音楽大学やハーバード大学でピアノの教授であったようです。

ヴァイオリンのヴェラ・ベスは1946年オランダ、ハールレム生まれのヴァイオリニスト。父からヴァイオリンの手ほどきを受け、アムステルダム音楽院で学んだあと、オランダのハーグ王立音楽院やアメリカマールボロで教職にあるそう。ラルキブデッリのヴァイオリニストとしてアンナー・ビルスマとともに多くの演奏に参加しているそう。

アンナー・ビルスマは今更紹介の必要はないでしょうが、調べたところ当ブログでちゃんと取りあげた事はありません。1934年オランダ、ハーグ生まれのチェリスト。古楽器のチェロの第一人者と言ってもいいでしょう。ヴァイオリンのヴェラ・ベスは夫人だということです。私は知りませんでしたが、ロジャー・ノリントンのロンドン・クラシカル・プレイヤーズ、フランス・ブリュッヘンの18世紀オーケストラのそれぞれ創立メンバーとのこと。ラルキブデッリの設立者としても有名ですね。

今日取り上げるピアノ三重奏曲はすべてハイドンが2回目のロンドン旅行から帰国した翌年1796年の作曲。最初の3曲は、ロンドンの有名なピアニスト、テレーゼ・ジャンセン=バルトロッツィ(Therese Jansen-Bartolozzi)夫人に献呈されたもの。バルトロッツィ夫人はピアノの名手だったようで、この3曲はこれまでのピアノ三重奏曲とは曲の構成が変わり、ピアノのダイナミックな響きを生かした曲として書いたものとのこと(中野博詞さん「ハイドン復活」より)。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
聴き慣れた曲ですが、なるほど名ピアニストのために書かれた曲と知ると、このエネルギーに満ちた曲想とした背景がわかった気がします。はち切れるエネルギー、鮮烈なメロディーはハイドンのピアノ三重奏随一のものでしょう。レヴィンのフォルテピアノはまことにキレよく、抑揚も十分。ベスのヴァイオリンも存在感十分で、意外とビルスマのチェロは軽いタッチで二人を微笑ましくサポートするよう。貫禄が違います。1楽章はもちろん火花散るようなスリリングさに溢れていますが、やはり貫禄か、どこか余裕があり、純粋にハイドン渾身のアンサンブルを楽しんでいるよう。楽しげな雰囲気がたまりません。
2楽章のアンダンテは穏やかに入りますが途中、何度も起伏に富んだ音楽に変わり、アンサンブルの妙を味わえます。特にレヴィンのフォルテピアノの切れ味は鋭く、刺激に富んだ音楽になっています。
フィナーレは期待通り。現代楽器だとはち切れんばかりのエネルギーを城出するところですが、古楽器の響きの軽さと繊細さが、爽やかさな方向を強調し、素晴らしいキレを聴かせます。音楽性もテクニックも申し分なし。星の雨が降り注ぐようなすばらしいフォルテピアノのきらめき感。3人の息もピタリと合って圧倒的なフィニッシュ。

Hob.XV:28 / Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
冒頭から美しいヴァイオリンの響きに耳を奪われます。ワンポイント的ではありませんが、各楽器が鮮明に定位して、残響もほどほどな好録音。1992年にしてはかなりいい録音でしょう。1楽章は弦のピチカートと抑えたフォルテピアノの表現が要所で効果的な響きを聴かせ、ヴァイオリンは美音を轟かせます。
特徴的なのは2楽章のアレグレット。短調のフォルテピアノの憂いに満ちた音階が切々と心に迫ります。ヴァイオリンとチェロが音を重ねてフォルテピアノの旋律を引き立て、音楽の深い淵を覗かせます。
フィナーレは2楽章の影をあえて断ち切るようなあっけらかんとした入り。この曲でも奏者全員に余裕があり、音楽を楽しむがごとき雰囲気に溢れているのは前曲と同様。名人トリオの至芸といった趣。

Hob.XV:29 / Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
いつもながら前の曲とはまったく異なる曲想を次々と生み出すハイドンの才能に驚かざるを得ません。3曲セットでの曲ながら、この曲想の変化は見事。ここでは各楽器は音数を減らして旋律の絡み合いの面白さを存分に表現、徐々に変化を付けていきます。途中からヴァイオリンの美しい中音域のメロディーラインが印象的。チェロはここでも脇役に徹して音量もかなり抑えながら、絶妙の起伏を聴かせます。
2楽章はフォルテピアノによる伴奏に乗ったヴァイオリンの絶妙な美しさの旋律。チェロが存在感を少し増して支えます。
この曲の聴き所はフィナーレ。素晴らしい感興。フォルテピアノが華やかなメロディーを主導して、全楽器が音を重ねて楽天的なメロディーを変化させていき、大きな盛り上がりの中に変化をつけたメロディーが絡み合ってえも言われぬ音楽。途中何度か印象的な休符をはさむことで音楽に緊張感を維持します。やはり素晴らしいキレのフィニッシュ。

最後に収められた曲は1797年にウィーンのアルタリア社から単独の曲として出版されたハイドン最後のピアノ三重奏曲。

Hob.XV:30 / Piano Trio (Nr.42/op.79-1) [E flat] (1796)
この曲を聴くとハイドンからベートーヴェンへの歴史の流れを強く感じます。曲の構成はより緊密になり、3台の楽器がそれぞれ役割を持ちながら、絡み合い、音楽はより深いものとなっていきます。1楽章は13分近い大曲なのに緊密な構成の曲。脳内からアドレナリン噴出。チェロの柔らかな起伏が音楽を非常に豊かなものにしています。
2楽章はすでに澄み切った心境を感じさせる、枯れたような音楽。そして3楽章のプレストもシンプルそのもの。ハイドンは翌年から天地創造の作曲に着手する64歳という年齢。ハイドンがたどり着いたピアノ三重奏というスタイルの総決算の曲ゆえ、最後は澄み切った透明感あふれる曲となり、レヴィン、ベス、ビルスマともに表現が純化して表情も抑え気味に終わります。

おそらくハイドンのピアノ三重奏曲の名盤として評価の確立したアルバムだと思いますが、あらためて久しぶりに取り出して聴いた印象は、並の古楽器の演奏とは格のちがう円熟した至芸が味わえる演奏。やはりビルスマの美学が行き渡っており、情緒に流される事はなく、キレのいい音楽と縁淑のテクニックをどだいにした音楽。評価は文句なしに全曲[+++++]です。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ三重奏曲 古楽器

コメントの投稿

非公開コメント

これはさすがに私も持っています。

手の届くところに置いてある大事な一枚ですが、ここ五年は見て見ぬふりでした。今回の記事がきっかけで、久しぶりに聴き直したところ、昔とはハイドンを聴く耳がまったく変わってしまった自分を発見し、これはあきらかに、このブログの影響ですね。

Re: これはさすがに私も持っています。

maro_chroniconさん、おはようございます。
ピアノ三重奏曲はいいですね。特にこのアルバムに収められた曲はハイドンば晩年に到達した孤高の高みを感じられる曲ですね。最高の曲の最高の演奏。私もこのアルバムを聴くのは久しぶりでした。お店でアルバムをみつけるのも、自宅のラックで取りあげるのもある意味運命と言うか、出会いですね。ブログの記事を書くのも、アルバムを選ぶのが一番時間がかかります。気に入らない演奏の記事を書くのは何となく筆が進みません。逆にいい演奏の記事を書くのはあまり苦労しません。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

モーツァルトチェロ協奏曲1番東京オペラシティ交響曲86番十字架上のキリストの最後の七つの言葉交響曲10番交響曲9番交響曲11番交響曲12番ヒストリカル太鼓連打ロンドン交響曲2番古楽器交響曲15番交響曲4番交響曲37番交響曲18番交響曲1番ひばり弦楽四重奏曲Op.54SACDピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:2LPライヴ録音ピアノソナタXVI:48ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:3天地創造ディヴェルティメントリヒャルト・シュトラウス東京芸術劇場交響曲102番軍隊交響曲99番時計奇跡交響曲95番交響曲98番交響曲97番交響曲93番驚愕ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:49ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35フルート三重奏曲ロッシーニオーボエ協奏曲ドニぜッティライヒャピアノソナタXVI:34弦楽三重奏曲皇帝ピアノ協奏曲XVIII:3ミューザ川崎ストラヴィンスキーシェーンベルクマーラーチェロ協奏曲東京文化会館フルート協奏曲ホルン協奏曲弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.2弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ピアノソナタXVI:318人のへぼ仕立屋に違いないファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:26パレストリーナモンテヴェルディアレグリバードタリスすみだトリフォニーホールピアノ協奏曲XVIII:11アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:6告別美人奏者ピアノソナタXVI:39四季交響曲70番迂闊者アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:4ピアノ協奏曲XVIII:7バリトン三重奏曲スコットランド歌曲ヴェルナーガスマンベートーヴェンシューベルトピアノソナタXVI:38交響曲80番ラメンタチオーネ交響曲67番哲学者ピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲46番交響曲35番ヴァイオリン協奏曲協奏交響曲DVDピアノソナタXVI:52交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:23アリエッタと12の変奏XVII:3ピアノソナタXVI:40サントリーホールラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナード弦楽四重奏曲Op.76ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:51五度ラルゴピアノ三重奏曲日の出弦楽四重奏曲Op.64ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.74騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス武満徹時の移ろい交響曲42番無人島ベルリンフィルホルン信号交響曲19番弦楽四重奏曲Op.55王妃交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:29リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏交響曲39番冗談英語カンツォネッタ集ナクソスのアリアンナアレルヤピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲78番交響曲79番交響曲81番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードモテットオフェトリウムドイツ国歌カノンスタバト・マーテル弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールクラヴィコードパッヘルベルアダージョXVII:9受難パリセット交響曲84番ブーレーズベルク交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41ショスタコーヴィチ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲悲しみリーム交響曲89番交響曲50番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲34番交響曲77番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生ピアノ小品音楽時計曲ピアノソナタXVI:11ピアノソナタXVI:47bisカートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場裏切られた誠実マリア・テレジアバリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ小オルガンミサ新橋演舞場交響曲5番サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CDドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲108番変わらぬまこと交響曲62番交響曲107番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲3番スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
158位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
9位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ