ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」

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ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの管弦楽版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。楽章間に語りが入るパターンで語りはアニヤ・シッフェル(Anja Schiffel)。収録は2008年3月21日、以前取りあげた「四季」のライヴと同様、ドイツ、エッセンにあるエッセン・フィルハーモニーのアルフレート・クルップ・ホールでのライヴ収録。レーベルはArs Produktion。
ブルーノ・ヴァイルは、当ブログの読者なら知らない人はいないでしょう。略歴などの情報は下の交響曲50番、64番、65番の記事をご覧ください。
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ヴァイルのハイドンと言えば、1990年代には手兵ターフェル・ムジークと交響曲やミサ曲のキビキビとした素晴らしい演奏が記憶に残っていますが、2000年代に入るとこのアルバムでも組んでいるドイツのカペラ・コロニエンシスと、ザロモンセットの一部や四季などの録音があります。最近の録音は、90年代の古楽器のキビキビとした、そしてエネルギー感に満ちた演奏とは少し変わって、落ち着いた演奏に変化してきており、ヴァイルのいいところが弱くなったようにも感じる演奏となっています。ただ、2010年と直近の録音である「四季」は逆に透明感の中にも風格が感じられ、新たな熟成を予感させるいい演奏でした。
この「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は「四季」のちょうど2年前の2008年の録音だけに、その演奏がどのようなスタンスなのか気になる存在でした。ちょっと高いアルバムでしたのでHMV ONLINEのセールに合わせて注文しておいたものです。
Hob.XX:1 / "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七語」 [D] (1785)
この曲に期待させるタイトで優美な響きではなく古楽器のさっぱりとしてゴリッとした骨のある響きから入ります。序章はかなり感情を抑えて、逆に純音楽的な起伏に焦点をあてた精妙な演奏。人によってはかなり耽美的になるところをヴァイルは健康的ですらあるようなさっぱりとした表情で入ります。
曲間には女性のドイツ語の朗読が入ります。テキストは1911年生まれのドイツの作家、ルイーゼ・リンザー(Luise Rinser)によるもの。それぞれの曲間に5分前後で、結構長い語りが入ります。残念ながらドイツ語でライナーノーツにテキストも掲載されていないため内容はよくわかりません。
第1ソナタに入っても、さっぱりした展開は変わらず。テンポの良い草書を見るような印象。聴き進めていくうちに、どことなく、非常に緩やかに力感が上がっていいくのを感じます。テンポは速めを維持しながら、徐々に響きが鮮明になっていきます。
このさっぱりとした速めのテンポなのに第2ソナタ特有の憂いはむしろ深く感じるのが素晴らしいところ。明るさのなかに憂いが宿るよう。感情をストレートに表すのではなく、曲の自然な表情から感情がにじみ出ていくという理想的な演奏です。
第3ソナタも流麗、軽快。重苦しさは一切感じさせず。オケは各楽器それぞれがあえてさっぱりとフレーズを刻んでいくのがわかります。ライヴ録音ですが会場ノイズなどはほとんど聴こえず、音響的にはセッション録音と区別がつかないほど。若干違和感があるのは、語り付きのこの曲に多い特徴ではありますが、語りがオンマイクで定位感がなく、演奏との音響的な差があること。語りはもう少しライヴ感ある録音だといいと思うのですが。
第4ソナタに入るとテンポを少し落として、表情の彫りが明らかに深くなります。特にホルンの割れるような音が迫力を加えます。明らかに前半のクライマックスと捉えた設計ですね。これまでの速めのテンポからの変化が効果的に働きます。このソナタ独特の深みを上手く表現していますね。ただフレージングには気を使っていて、ありきたりさを避けるように細かく変化させ、新鮮味を保っているようです。
ピチカートが美しい第5ソナタに入ると再び速めのテンポによる爽快な表情に戻ります。曲想にテンポがマッチして、前ソナタの深みからの変化を際立たせるような軽やかな展開。
第6ソナタは短調の響きから浮かび上がるうっすらと明るさを感じさせる美しいメロディーが印象的な曲。ヴァイルのこの演奏のアプローチに最もマッチした曲。重くない響きからほんのりと感じさせる美しさ。この抑えられた表情から立ちのぼる凛とした美しさは絶品。
つづく第7ソナタも抑制された表情の中の美しさが際立ちます。古楽器の音色の雅さから浮かびかがる美しさとはちょっと違う、ヴァイルの表情付けから生まれる、クッキリとした表現の美しさ。清潔感ある女性から感じられるほのかな色気のよう。
最後の地震の場面は、今まで抑えていたオーケストラの箍を外し、大爆発。リズムの規律まで解き放って、各楽器が表現の限りをつくし、まさに自然の猛威を表すような素晴らしい吹き上がり。この曲の最後に相応しい盛り上がりです。
2008年に収録されたヴァイルとカペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。情感をストレートに表現した演奏も多い中、速めのテンポで淡々と進め、此処ぞというところで表現を深める流石のコントロール。この曲に潜む今までとは異なる魅力を浮かび上がらせた秀演と言えるでしょう。評価はもちろん[+++++]とします。


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