【番外】シューリヒト/ウィーンフィル1956年モーツァルト週間ライヴ

今日はハイドンではなくモーツァルト。ラック掃除をしていて久々に取り出したアルバム。

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カール・シューリヒト(Carl Schuricht)指揮のウィーンフィルの演奏による、モーツァルトの交響曲23番(KV 181)、ピアノ協奏曲22番(KV 482)、交響曲35番「ハフナー」(KV 385)の3曲を収めたアルバム。収録は1956年1月26日、ザルツブルクのモーツァルテウムの大ホールでのライヴ。レーベルは国際モーツァルテウム財団のMorzart Woche 1956(1956年モーツァルト週間シリーズ)。

1956年といえばもちろん、モーツァルトの生誕200年を記念する年。モーツァルトは1756年1月27日生まれですので、生誕200年の前夜に行われたコンサートの模様を収めた録音です。

モーツァルト週間はこの演奏の年、1956年に創設され、以後モーツアルトの誕生日の1月末に毎年開催されている音楽祭で、ザルツブルク観光局のウェブサイトによれば「冬のザルツブルク音楽祭」と呼ばれているとのこと。ザルツブルク観光局のサイトは日本語のページもあって情報も充実しています。

Salzburg.info モーツァルト週間

このアルバムは茶色の地にアーティストの写真をあしらった品のいい物。この1956年のモーツァルト週間のライヴのシリーズには当時のモーツァルト演奏の最高峰と思われる素晴らしいコンサート・プログラムが並んでおり、今日取り上げるアルバムを含めて4枚がリリースされています。

・ベーム/ウィーンフィルとウィルヘルム・バックハウスによるピアノソナタとピアノ協奏曲27番
・ベルンハルト・パウムガルトナー/カメラータ・アカデミカ、リタ・シュトライヒ、イーゴリ・オイストラフによるアリア、ヴァイオリン協奏曲5番、交響曲29番
・カラヤン/フィルハーモニア管弦楽団とクララ・ハスキルによるピアノ協奏曲20番と交響曲39番

これらのアルバムも手元にありますので、そのうち番外で取りあげたいと思います。

シューリヒトはハイドンの演奏も素晴らしいのですが、もちろんモーツァルトも絶品。はじめに置かれた23番は短い曲ですが、響きの間のゾクゾクするような不思議な気配というか霊感のようなものが特徴の曲。続く22番も3楽章に同様な響きが聴かれます。

交響曲23番(KV 181)
この曲はモーツァルトが1773年、3回目のイタリア旅行からザルツブルクに帰ったあとに作曲したもの。1773年と言えばハイドンがシュトルム・ウント・ドラング期の頂点を迎えた直後。この23番はモーツァルトの交響曲でも華麗な曲想で独特の美しさをもつ3楽章構成の小曲。ハイドンがシュトルム・ウント・ドラング期に極めたメロディーと構成と詩情の結晶とは異なる次元の、天真爛漫な音楽が陰りをともなって滔々とわき出す曲。特にこのシューリヒトのモーツァルト生誕200年を記念するコンサートのライヴは、シューリヒト燻し銀のコントロールで、モーツァルトの書いた華麗な曲から白檀の芳香が立ちのぼるような実に慈しみ深い演奏。録音は流石に古いですか、その古い録音から流れ出すような珠玉の音符たち。音楽の流れは淀みなく、シューリヒト独特の拍子を早く刻みながらさっぱりと淡白なフレージングによって、流麗なのに慈しみ深い、詩情溢れる展開。遥か高い天空に限りなく上昇していく音楽。
楽章間は切れ目なくつながり、ゆたりとギアをチェンジしてテンポを落とします。2楽章はオーボエの絶妙に美しいメロディーが印象的。古いモノクロ映画の音楽のような響きが曲想を引き立てます。演奏はかなり力を抜いて各パートそれぞれがつながりながらも、独立しているように、メロディーを慈しむよう。
フィナーレは直裁なヴァイオリンの切り込みの力強さが印象的ですが、そこにもシューリヒト独特の詩情が漂うところが流石です。疾風のように過ぎ去って、モーツァルテウムの会場の暖かい拍手に迎えられます。

ピアノ協奏曲22番(KV 482)
ピアノにタチアナ・ニコラーエワ(Tatjana Nikolajewa)を迎えてピアノ協奏曲22番。こちらは1785年と前曲より少し後の作品。このころモーツァルトはハイドンにハイドン四重奏曲を献呈しています。前年にモーツァルトの父宛の手紙にハイドンの名がはじめて登場したとのことで、モーツァルトがハイドンの素晴らしさを知った頃でしょう。この曲の陰りのある明るさと愉悦感溢れる曲想がシューリヒト好みということで選ばれたものでしょうか。演奏はシューリヒトの伴奏は完璧。我々がシューリヒトの演奏に期待するすべての要素がつまってます。特に短調の2楽章のあっさりと淡白な演奏なのに実に深い詩情を発散するところはシューリヒトならでは。ニコラーエワのピアノはシューリヒトの伴奏にピタリとあったもの。もうすこし癖のある演奏をする人との記憶でしたが、今聴くと非常に慎ましい美しい響きに満ちあふれたシューリヒトと同様自然さから詩情が滲み出すピアノ。特に速いパッセージのコロコロ転がるような滑らかな指さばきと右手のきらめき感はモーツァルトにぴったり。このライヴは22番の名演の一つとして数えられるべき演奏でしょう。

交響曲35番(KV 385)
最後は「ハフナー」。1782年作曲。コンサートの最後に相応しい素晴らしいエネルギー感。モーツァルト渾身の曲が彫刻的なフォルムを現し始めます。録音は意外と良く、この演奏の立体感と力感を見事に表現できています。特に分厚い低音弦セクションの響きが全曲とは異なる迫力。オケの規模も大きくなっているのでしょう。ハフナーもモーツァルトの後期交響曲のなかでは地味な存在ですが、シューリヒトの手にかかると実に慈しみ深い音楽に変貌します。シューリヒトの音楽は骨格設計がしっかりしていて、そのうえ深い詩情を帯びた上品なコントロールということで、このハフナーも3Dのような素晴らしい立体感と響きの余韻がもたらす典雅な雰囲気が相俟って最高の出来。やはり割れんばかりの拍手に迎えられます。

モーツァルト生誕200年のアニヴァーサリーとして企画されたザルツブルクのモーツァルト週間の最初の年のライヴ。ここにモーツァルトの真髄がありました。当時の最高の演奏者を集めたのでしょう、他の日のコンサートのメンバーを見てもわかるとおり、めくるめくような布陣。その中でもこの日の演奏は歴史に残るものでしょう。録音から伝わる静かな熱気と、シューリヒトの気品にあふれた表現を通してモーツァルトの音楽の魅力がわき出すよう。我が家のコレクションでも家宝級のものです。モーツァルト好きの方は、みかけたら是非手に入れてください。

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tag : モーツァルト ライヴ録音 ヒストリカル

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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