東京クヮルテットのOp.76

今まで取りあげていなかった大御所のアルバム。

TokyoQ76.jpg
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東京クヮルテット(Tokyo String Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76の全6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は1978年6月7日から8日、1979年1月15日から19日、ニューヨークのCBS30番街スタジオでのセッション録音。SONY CLASSICALのアルバムです。

東京クヮルテットは言わずと知れた日本を代表する四重奏団ですが、これまであまりちゃんと聴いていません。もちろん生も一度も聴いていません。このアルバムを紹介するためにあらためて調べてみたところ、来年2013年6月末をもって解散するとのことです。

Tokyo String Quartet

メンバーは変わりながらこれまで活動を続けてきましたが、このアルバム録音当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:原田 幸一郎(創設メンバー)
第2ヴァイオリン:池田菊衛
ヴィオラ:磯村和英(創設メンバー)
チェロ:原田禎夫(創設メンバー)

このうち、今もメンバーで残っているのは第2ヴァイオリンの池田さんとヴィオラの磯村さん。この2人の引退にともない結局、メンバーの入れ替えをすることなく、44年にわたる歴史に幕を閉じるとの事。

創設は1969年。桐朋学園の小沢征爾の師である斎藤秀雄門下のメンバーがジュリアード音楽院で結成した弦楽四重奏団。ミュンヘン国際音楽コンクールなどで優勝し、世界的に活躍するようになりました。メジャーレーベルとの録音は40点にのぼり、モントルーディスク大賞などを受賞する等、文字通りトップランクの四重奏団として活躍してきました。

私があまりなじみがないだけで、ファンの人も多いのではないかと想像しています。なじみがない故、新鮮な気持ちでレビューできるというところです。

今日は2枚組のこのアルバムの1枚目からOp.76のNo.1、No.2「五度」、No.3「皇帝」を取りあげます。

Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
日本人らしいという言葉がぴったりの演奏。フレーズがクッキリと浮かび上がりますが、折目正しく、また背筋がピンと張ったような緊張感を帯びた演奏。西欧文化の歴史のパースペクティブ上の演奏ではなく、さらさらと流れる岩清水のような清らかさを感じる演奏。一流の建具職人が作った繊細な欄間の格子細工のように筋がすっと通る快感のようなものがあります。これは弦楽器のヴィブラートのかけ方や整然としたリズム、透明感のある響きが相俟って醸し出すものでしょう。濃い味か薄味かというと薄味の旨さ。
アダージョに入ると、当然ゆったりとして表情も濃くはなりますが、やはりそよ風のような爽やかさが漂い、またクッキリとしたフレーズの美しさも健在。音楽の芯にやはり日本的なものを感じます。
そして、メヌエットの鋭さは日本刀ような切れ味鋭い感触。これは原田幸一郎さんのヴァイオリンのクッキリした音色とピタリとそろったアンサンブルがそう感じさせるのでしょう。その鋭さを保ったままフィナーレに入りますが、各楽器がそれぞれ孤高の存在感で響き合う感じ。居合いの緊張感そのまま。

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
先日取りあげたエルサレム四重奏団とは全く異なる演奏。耳に刺さるような刺激的な音響で、流麗という印象はなく鋼のごとき入り。弦のテンションが普通の演奏とは違うような張りつめた響きでグイグイ行きます。これだけ険しい五度は久しぶりに聴きます。
アンダンテもテンポは落ちますが、張りつめた雰囲気はそのまま引き継ぎます。すこし緩めたほうが楽章間の対比がはっきりして良いのではとは思いますが、逆に東京クヮルテットの個性は、この張りつめきったテンションと理解しました。ハイドンの音楽に内在するほのぼのとしたものとか、機知のようなものの存在を前提としない演奏なのでしょう。非常にストイックな演奏です。
メヌエットは出兵する兵士の行軍のような暗澹たる雰囲気。音楽は重くはありませんが、精神的な重苦しさを感じます。鬼気迫る感じ。
そしてフィナーレでは松ヤニが飛び散る様子が見えるようなダイレクトな響きに圧倒されます。ハイドンの曲というよりはベートーヴェンや現代音楽を演奏するような厳しさ。畳み掛けるようにクライマックスに向けて攻め込み、最後はぐっさり刺さります。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
これまでの流れから想像してはいましたが、名曲皇帝も東京クヮルテットの手にかかると、陰影の深い峻厳な音楽に変貌。もともと音楽を少人数で弾いて楽しむためのものだろうと思いますが、これだけ険しさを強調した演奏はハイドンの生きていた当時にはあり得なかったのではないかと想像しています。ボロディン四重奏団など険しい演奏を特徴とする団体はありますが、鋭利な刃物のように心にぐさっと刺さってくるほどの険しさではなく、メロディーの構成の険しさにとどまってます。東京クヮルテットの演奏はほんとうに触ると切れそうなリアルな険しさ。この険しさが評価の分かれ目になるのかもしれませんね。
ドイツ国歌のメロディーとしても有名な2楽章は、変奏が進むにつれて恍惚感すら覚える磨かれたもの。青白く光る人魂が背後にとびまわっているかと思わせるような妖気をまといます。孤高とはこのような演奏の事を言うのでしょう、図抜けた険しさと存在感。良く聴くとヴィオラもチェロも妖気だらけ。最後はまるでシュニトケの曲のような響き。
そして相変わらず尖って険しいものの、ここにきて素晴らしい起伏によって克明に描かれたメヌエットを経て、フィナーレへ。録音の鮮度がもう一段上がったような超鮮明な音響に、東京クヮルテットの各楽器が浮かび上がります。とくにヴァイオリンの気合いの漲る演奏は素晴らしいものがあります。まるで鉈を打ち込むように険しいアクセントの波が次から次へと襲ってきますが、クリップする事もなく鮮明に録られています。ここまで聴いてきてへとへと。ハイドンの弦楽四重奏曲でここまで消耗するのは珍しいこと。

このアルバムはしばらく前に手に入れた物でしたが、ちゃんと集中して聴くのは初めての事。東京クヮルテットの弾くハイドンは非常に険しい演奏でした。この演奏によってハイドンの弦楽四重奏曲の多様な側面が表現されているかといえば、そうではなく、かなり踏み込んだ特殊なハイドン像と言わなくてはならないでしょう。いわばハイドンの弦楽四重奏曲の極北の姿。泡一つ混入していない氷を鋭利な刀で彫刻した氷細工のような美しさを放つハイドンです。これはこれでハイドンを極めた演奏の一つと言えるでしょう。上級者向けの演奏です。すなわち、初心者は手を出すべからずということですね。評価は3曲とも[++++]としておきます。

※12月8日追記。団体名は東京クァルテットではなく、正式には東京クヮルテットとのことで記事を修正しました。だまてらさんありがとうございました。なお、以前に一度ライヴ盤をとりあげていましたね。

2011/12/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 東京クヮルテットの太陽四重奏曲No.2ライヴ

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ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.76 皇帝 五度

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No title

こんばんは、「東京クヮルテット」(メンバーによれば、小さな「ヮ」が正式記載のようです)と
ハイドンは、DGへのデビュー・アルバムが作品76-1(カップリングはブラームスの2番)
でありかなり相性は良かったと思います。もう20年以上前ですが、来日公演(になります
ね・・・)での作品74-3「騎士」が印象に残っています。(残念ながら正式録音はなし?)

Re: No title

だまてらさん、こんばんは。
この録音、以前取りあげたライヴ盤とはだいぶ印象が異なりました。この険しさはおそらくだまてらさん好みなのかと想像しながら聴いていました。東京クァルテット、Deutsche Grammophoneにも録音があるのですね。レーベルが異なると印象も変わる事がありますので、こちらも聴いてみたいですね。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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