アーノンクールの十字架上のキリストの最後の七つの言葉オラトリオ版

所有盤リストの記載チェクで十字架上のキリストの最後の七つの言葉のオラトリオ版のところを確認していたら、このアルバムを取りあげていない事に気づきました。

Harnoncourt7.jpg
HMV ONLINEicon(別装丁盤6枚組)/ amazon

こちらはミサ曲集。こちらにも含まれているので今から手に入れるのはこちらの方がいいかもしれません。

HarnoncourtMasses.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt)指揮のウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(Concentus Musicus Wien)、アーノルド・シェーンベルク合唱団(Arnold Schoenberg Chor)の演奏で、ハイドンのオラトリオ版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は1990年10月、ウィーンのカジノ・ツェーゲルニッツ(Casino Zögernitz)でのセッション録音。レーベルはTELDECのDAS ALTE WERK。

このカジノ・ツェーゲルニッツは録音によく使われるようで、アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの他にもマンフレート・フスとハイドン・シンフォニエッタ・ウィーンやモザイク四重奏団のアルバムの収録に使われています。豊かな乾いた残響が特徴で、独特の響きをもった会場。ネットで画像等を調べると古いホテルのダンスホールのような部屋のようです。ここで録られたアルバムには名演奏、名録音が多いように感じます。

アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスは皆さんご存知のことでしょう。当ブログでもアーノンクールのアルバムを何度か取りあげていますし、2010年の来日時にはサントリーホールで天地創造も聴いています。

2010/10/31 : ハイドン–オラトリオ : アーノンクールの天地創造旧盤
2010/10/31 : コンサートレポート : アーノンクールの天地創造(サントリーホール10/30)
2010/10/07 : ハイドン–声楽曲 : アーノンクールのハルモニーミサ
2010/06/13 : ハイドン–オラトリオ : 灰汁のぬけたアーノンクールの天地創造新盤
2010/04/07 : ハイドン–交響曲 : アーノンクールの初期交響曲集
2010/02/28 : ハイドン–交響曲 : 新着! ウィーンフィルの交響曲集

以前の記事を見てみると2010年に集中的に取りあげていますが、それ以降は触れていません。実に久々にアーノンクールの演奏を取りあげることになります。

以前にも書きましたが、アーノンクールはハイドンを振る時はどちらかと言うと好きな指揮者です。特にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを振ったアルバムはいいものが多い印象です。もちろん学究的なのでしょうが、それを感じさせない灰汁の強いインパクトのある演奏は痛快ですらあり、ハイドンの祝祭感ある曲を振らせたら、これ以上インパクトのある演奏は難しいのではと感じさせるものがあります。耳をつんざくようなアクセントや金管の号砲を随所に織り交ぜながらグイグイ行くのがアーノンクール流。最近は弟子のトーマス・ファイが志しを受け継ぎ、ハイドンの交響曲全集の録音に挑んでいるのも皆様ご存知のことでしょう。
逆にモーツァルトではアーノンクールのスタイルが時に過度な演出に聴こえることがままあり、ちょっとやり過ぎの演奏に聴こえるものも少なくありません。ハイドンとモーツァルトの小さくない違いがよくわかります。

このアルバムにはまさにアーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのハイドンの最高の演奏が収められています。

ソロは次のとおり。

ソプラノ:インガ・ニールセン(Inga Nielsen)
アルト:マルガレータ・ヒンターマイヤー(Margareta Hintemeier)
テノール:アンソニー・ロルフ=ジョンソン(Anthony Rolfe- Johnson)
バス:ロバート・ホル(Robert Holl)

Hob.XX:2 / "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1796)
序章
カジノ・ツェーゲルニッツに響き渡る悲壮感すら漂うような峻厳な弦の響き。いきなりアーノンクール流のインパクトある響きが耳に刺さります。良く響く狭いホールという感じで残響は多めの録音。非常に鮮明。この曲独特の劇的な序奏がアーノンクールによって悪魔的なまでの迫力を帯びた響きの塊となって襲いかかってくるよう。暗闇に青白く光る刀のような鋭さもあります。

第1ソナタ
よくそろってデュナーミクのコントロールが行き届いたアーノルド・シェーンベルク合唱団のコーラスから入ります。コーラスは恍惚感すら漂う完成度。テンポは非常にゆったりとしたものですが、アーノンクールのコントロールによる陰影の深いデフォルメすら感じさせる一貫した彫刻的フォルムによって、素晴らしい緊張感が続きます。コーラスはアーノンクールの指示に見事にしたがって、コーラスとしては異例のメリハリ。オケは弱音部分をかなり落とす事で曲中に静けささえ感じさせます。ソロの4人も完璧。特にソプラノのニールセンの磨き込まれた美音が印象に残ります。

第2ソナタ
まるで夕焼けに赤く染まる冬のアルプス山脈を遠くから眺めるような静かで穏やかなはじまり。峻厳かつ流麗な響きにただただ耳を傾けるのみ。滔々と流れる大河のごとき揺るぎない音楽が流れます。ソロ陣は自己主張は一切なく、アーノンクールのコントロールに従ってオケとコーラスに溶け込むような完璧な歌唱。

第3ソナタ
遠くに定位するソロ陣の美しいアンサンブル。相変わらずニールセンの美声がゆったりと響き渡ります。アーノンクールは牙を潜め、ハイドンの書いた美しさの限りをつくしたメロディーを彫刻的に彫り込んで表現することに集中しています。ときおり迫ってくるコーラスの大波とソロのアンサンブルの対比が素晴らしい。

第4ソナタ
第3ソナタからつづく美しいメロディーを今度はすこし諦観を交えて儚さを強調した演奏。呼吸は一層深くなり、奏者全員がハイドンの書いた曲に没入していくよう。クレンペラーの指揮する大地の歌の第6楽章「告別」のような時間が流れます。アーノンクールがここまで深く攻めてくるとは思いませんでした。

序章
さらに儚さを感じさせるオーケストラ。各奏者が全霊をこめて音をおいていっているようすが伝わります。こんどはリヒターのマタイの一場面のよう。アーノンクールがこの曲の真髄を読み切っているからこそ流れる音楽でしょう。短いつなぎの楽章が心に刺さります。

第5ソナタ
有名なピチカートの伴奏による楽章ですが、ピチカートがあまりに抑えて弾かれているので聴こえないほど。凪の日の波音に耳を傾けるよう。美しいソロが浮き立つようにオケも全奏からソロの部分ではかなり音量を落とします。かわるがわるメロディーを担当するソロや楽器がスポットライトに浮かび上がるよう。オケも峻厳なんですが、曲がすすむにつれて力が抜けて枯れてきて枯淡の境地。終盤のソロとコーラスは恍惚に溢れるよう。

第6ソナタ
曲も終盤に入りゆったりと流れる美しい音楽。フレーズひとつひとつを慈しむようにオケとコーラスが描いて行きます。終始揺るぎない音楽。アーノンクールのコントロールが奏者に乗り移っているよう。最初と最後に現れるソプラノのニールセンのソロ、絶唱です。

第7ソナタ
最後のソナタは、これまで同様美しいメロディーの曲ですが、澄みきった空のような明るさと曲を終わる寂しさの同居した不思議な心境の曲。最後はオケもコーラスもソロも消え入るように終わります。

地震
最後にオケとコーラスの大波が襲いかかります。カジノ・ツェーゲルニッツに響き渡る大音響。ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの金管陣もここぞとばかりに爆発。

もちろんアーノンクールらしい演奏ではありますが、普段のアクセントの強い祝祭感溢れる演奏とは異なり、アーノンクールらしい響きの中に静かに燃える青い炎のような冷静な劇性と非常に深い音楽的な表現が溢れた名演でした。アーノンクールの演奏するハイドンの中では間違いなく最上の演奏でしょう。普段過剰コントロールも多い人ですが、この曲の真髄を読み切ったアーノンクールのコントロールは見事。評価はもちろん[+++++]とします。この「十字架上のキリストの七つの言葉」のオラトリオ版のファーストチョイスはこのアルバムです。



ちなみに少しづつ所有盤リストのメンテナンスをつづけています。ハイドンの素晴らしい演奏をする奏者の名前がこれまで名字だけの表記でしたが、徐々にフルネームにしています。本日はオラトリオのトビアの帰還とこの曲のアルバムを再び取り出し、奏者名を書き加えていたというわけです。次は天地創造。68種もの演奏があり大仕事ですね。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 古楽器 ハイドン入門者向け

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No title

Daisyさん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
元旦から食中毒かウィルス性胃腸炎のため、昨日は点滴をうっていました。
ハイドンの十字架上は、オラトリオ版にまず関心が行きますが未だにCD・LPを買ったことが
ありません。このCDはパッケージからして目をひきます。一点目はこれにしたい気がします。

Re: No title

ライムンドさん、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
ウィルス性腸炎、流行っているようですね。私も年末に風邪をひいて内科にいってインフルエンザの検査結果を待つ間に診察を受けていた人が何人かウィルス性腸炎と言われていました。こうゆう時はいい音楽をきいて養生するのが一番ですね。このアルバムはアーノンクールらしい前衛性もありながら、それを上回る静かな劇性もあり宗教音楽好きのライムンドさんのお眼鏡にかなうものかと思います。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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