シューリヒト/フランス国立管のベートーヴェン1番、英雄(DISQUES MONTAIGNEシャンゼリゼ劇場ライヴ)

仕事が忙しくてちょっと更新できませんでした。前記事のモニク・ド・ラ・ブルショリュリのシャンゼリゼ劇場ライヴの独特の乾いた響きを聴いて、このアルバムを思い出しました。今日はハイドンではなくベートーヴェン。

SchurichtEroica1.jpg

本当は金と紺の粋な配色なんですが金が反射して真っ黒に写っちゃいましたということでライナーノーツ裏面写真も追加。

SchurichtEroica2.jpg

HMV ONLINEicon(Altus盤)

カール・シューリヒト(Carl Schuricht)指揮のフランス国立管弦楽団(Orchestre National de France)の演奏でベートーヴェンの交響曲1番と交響曲3番「英雄」の2曲を収めたアルバム。収録は1番が1965年6月15日、英雄が1963年5月14日、いずれもパリのシャンゼリゼ劇場でのライヴ。レーベル今は幻の仏DISQUES MONTAIGNE。所謂お宝盤です。なお、フランス国立管弦楽団はこのオケの現在の呼称で、当時はフランス放送管弦楽団(Orchestre national de la radiodiffusion Française)と呼ばれていたそうです。

上のHMV ONLINEのリンク先はこのDISQUES MONTAIGNE盤の英雄の演奏の日のコンサートの模様を収めたアルバムで、もちろん入手可能です。

モニク・ド・ラ・ブルショリュリのアルバムの響きはまさに、このアルバムから聴こえる響きと同質なもの。おそらくコンクリート建築の父と呼ばれたオーギュスト・ペレによるこの劇場特有の響きの個性なのではと思います。シャンゼリゼ劇場は過去2度ほどパリを訪問した際にもコンサートを聴く機会に恵まれず、実際にこの劇場の音は聴いていません。なお、シャンゼリゼ劇場は今年創立100周年とのことです。

指揮者のカール・シューリヒトはおなじみでしょう。1880年ドイツ北部のダンツィヒに生まれた指揮者。紹介は下のDISQUES REFRAIN盤の記事をご覧ください。シューリヒトは1967年はじめに86歳で亡くなっていますので、この演奏は英雄が81歳、1番が83歳頃の演奏ということで最晩年の演奏になります。シューリヒトは晩年リウマチを患っていたということで、体調も万全でなかったことが、手元にあるミシェル・シェヴィ著の「大指揮者カール・シューリヒト 生涯と芸術」(アルファベータ)にも触れられています。

2011/02/25 : ハイドン以外のレビュー : シューリヒト/ウィーンフィル1956年のモーツァルトライヴ
2011/02/23 : ハイドン–交響曲 : シューリヒトの「ロンドン」(MEMORIES REVERENCE)
2011/02/22 : ハイドン–交響曲 : シューリヒトの「ロンドン」(DISQUES REFRAIN)
2010/04/21 : ハイドン–交響曲 : 枯淡、シューリヒトのハイドン

シューリヒトは好きな指揮者ゆえ、これまで何度もとりあげています。直裁、明解なのに味わい深く、音楽に魂が宿っているような生命感すら感じさせる演奏が特徴です。ハイドンでは86番とロンドンの素晴らしい演奏があり、以前触れたようにわがコレクションでも至宝クラスのアルバムです。

シューリヒトといえばブルックナー、モーツァルト、ベートーヴェンなんでしょうから、ハイドン以上にすばらし演奏が多い訳ですが、そのシューリヒト最晩年、しかもシャンゼリゼ劇場でのライヴということで注目度の高いもの。もちろん実に素晴らしい演奏で、長年愛聴しております。

ベートーヴェンの1番と3番は何れもハイドン存命中に完成した作品。ハイドンは創作活動をほぼ終えていた時期ですが、ハイドンの築いた交響曲という形式の次の時代を切り開くベートーヴェンの衝撃的な曲を聴いたのでしょうか。

ベートーヴェン 交響曲1番op.21(1800年)
会場のざわつきの中から鮮明に響き渡る音響。冒頭どすんと何かが落ちたような音まで録られた鮮明な録音。もちろんシャンゼリゼ劇場独特の音響。ライヴ好きの私にとっては会場の空気そのままの理想的な録音です。会場での演奏の緊張感あるようすが手に取るようにわかります。録音はステレオなのもプラスですね。演奏の方は冒頭からシューリヒトは80歳を超えているとは信じられない素晴らしい生命感溢れるコントロール。キリッと引き締まって、直裁なフレーズで淡々とすすめているのに、音楽に立ちのぼるえも言われぬ高貴な雰囲気と味わいがあります。シューリヒトにしかできない演奏でしょう。オケも万全。特にシャンゼリゼリゼ劇場の独特の響きに溶け込む木管楽器が素晴らしいですね。まさにシャンゼリゼ劇場の客席で聴いているような気分になります。終盤は畳み掛けるような素晴らしい迫力。とても80歳を超えた人の奏でる音楽とは思えません。
間をおかず2楽章のアンダンテ・カンタービレに。1楽章とかわらぬテンポによるサクサクとした演奏。もちろんシューリヒとならでは達観したフレージングと緊張感溢れるオケのエネルギーが感じられる素晴らしい音楽。
またまた、会場が咳き込む隙を与えないように間を置かずメヌエットに入ります。気品と迫力の両立した響きの塊のようなメヌエット。オケの響きはシャンゼリゼ劇場に響き渡ります。
フィナーレも有名なメロディーが速めのテンポに乗って軽い感じなのに活き活きと奏でられ、オケは抜群の精度で対応します。センス良く乱舞する音階のそこここでオケが爆発。まさに新時代の音楽の登場を鮮明に印象づける音楽でしょう。全く練らないのに音楽には素晴らしいメリハリがついて、音楽の構造がクッキリ浮かび上がります。最後の音を待たずにシャンゼリゼ劇場の観客から嵐のような拍手が降り注ぎます。このコンサートがパリの聴衆にとって、どれほど期待されたものだったのかを物語るよう。拍手は自然と手拍子にかわっていきました。会場の興奮がそのまま伝わってくる素晴らしい演奏でした。

ベートーヴェン 交響曲3番「英雄」op.55(1804年)
続いて英雄。前曲の1番より少し前の1963年5月のライヴ。最初の一撃から、ノックアウト。もの凄い緊張感。録音は前曲同様鮮明ですが、比べると前曲のほうが鮮明度では上で、こちらのほうが少し低域の量感重視でしょうか。いずれにせよシャンゼリゼ劇場の雰囲気がしっかり伝わります。オケの調律が少し緩い感じがしますが、気にしません(笑)。1楽章は最後のクライマックスを目指して徐々に盛り上げていくプロセスがどの演奏も聴き所なんですが、シューリヒトのコントロールは一貫して気品と直裁な表現のバランスのとれたもの。過度なメリハリを抑えながらも実に慈しみ深く、味わい深いもの。燻し銀の演奏という感じでしょう。1番がかなりエネルギー感のある演奏だったのに対し、こちら最初の一撃以降はじっくり攻めていく感じ。特に木管、金管の響きにシャンゼリゼ劇場の響きが乗って、これもまた味わい深さにつながっています。終盤はザクザクとした響きによる迫力のある演奏。
やはり間をとらず2楽章のアダージョに入ります。この楽章間の間をあまり置かず入るのはシューリヒトの特徴なんでしょうか。1楽章がバランス重視だったのに対し、2楽章はかなり起伏の幅をとって大きなうねりを表現していますが、葬送行進曲を過度に暗く表現するのではなく、陰影の深い彫刻に丁寧にライティングしたようなアーティスティックな表現。こうした部分の芸術性はシューリヒトならではの高みに達していて、この演奏の一番聴き所です。最後の消え入るようなところまで含めてまさに孤高の表現。
音楽はつながっていても雰囲気がさっと変化してスケルツォに。オケにエネルギーも漲りますが、シューリヒトが手綱を上手く捌いて、抑える部分をしっかり抑えることで一貫した音楽が流れます。金管を象徴的に目立たせる演奏も多いですが、かなり抑えているのが特徴でしょうか。弦楽器のフレージングはシューリヒトの真骨頂でしょう。
フィナーレは変奏曲。メロディーの受け渡しが重なるようになるのがシューリヒト流。メロディーラインの流れのよさとメロディー間の対比が鮮明になり、音楽が非常に豊かに聴こえます。時折そよ風のような優しい表現を挟みながら、メロディーの織りなすざっくりとした綾を大きなうねりに乗せていきます。終盤のホルンの号砲も穏やかな表現です。このあたりの表現が気品と深みを両立させたシューリヒトの演奏のポイントなのかもしれませんね。最後はテンポをかなり落として、曲を締めくくります。前曲同様嵐のような拍手で終わります。こちらも当日の感動が伝わってくる演奏でした。

カール・シューリヒトの演奏によるシャンゼリゼ劇場のベートーヴェンのライヴ。シャンゼリゼ劇場独特の響きのなかに、シューリヒトならではの味わい深いベートーヴェンが響きわたる素晴らしい演奏でした。このアルバム、英雄の演奏の方が記憶に残っていましたが、あらためて聴き直すと1番もそれ以上に素晴らしい演奏。1965年とシューリヒトがコンサートの指揮台に登れるかどうか危うい時期の貴重なコンサートゆえ観客の興奮も一入でしょう。シューリヒトもそれに応えて、素晴らしい覇気を感じさせます。いまから50年も前のコンサートの感動がよみがえりますね。

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tag : ベートーヴェン ヒストリカル ライヴ録音 シャンゼリゼ劇場

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