ゲオルク・ティントナーの太鼓連打、ロンドンライヴ

手元にあるにもかかわらず、あんまり印象が残っていなかったこのアルバム。ちょっと取り出して、、、

Tintner103.jpg
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ゲオルク・ティントナー(Georg Tintner)指揮のシンフォニー・ノヴァ・スコシア(Symphony Nova Scotia)の演奏でハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。収録は太鼓連打が1988年4月10日、カナダの東端、ノヴァ・スコシア半島の中心都市、ハリファックスにあるダルハウジー・アーツ・センターのサー・ジェームス・ダン劇場でのライヴ、ロンドンが1988年4月20日、同じくダルハウジー・アーツ・センターのレベッカ・コーン・ホールでのライヴです。レーベルは廉価盤中興の祖、NAXOS。

ゲオルク・ティントナーはNAXOSレーベルのブルックナーの交響曲全集を担当していて、それまであまり知られていなかったのに突然凄いブルックナーだと話題になった人です。手元にもNAXOSのブルックナー全集があり、構えの大きな音楽の人との印象があります。

今日取り上げるハイドンの交響曲のアルバムはティントナー・メモリアル・エディションと名付けられたシリーズの第4巻にあたるもの。オケがノヴァ・スコシアとかなりの僻地のオケであるのが珍しくて手に入れ、入手時の印象は、オーソドックスで、小細工なく、大きな音楽のつくりのものとの印象があるだけでした。今日はラックを眺めつつ、何を取りあげようかと逡巡したあげく、たまたま手に取ったという流れ。それではということで、いつものように略歴などを調べていたら、ティントナーという人、数奇な運命の人だとわかりました。

ゲオルク・ティントナーの情報は日本語版のWikipediaにかなり詳しく書いてありました。

Wikipedia:ゲオルク・ティントナー

ティントナーは1917年、ウィーンに生まれた指揮者。6歳からピアノを習い、10歳でウィーン少年合唱団に入りますが、このときオーディションの審査にあたったのがブルックナーの弟子であった指揮者のフランツ・シャルク。シャルクの指揮でブルックナーのミサ曲を歌ったこともあるそう。1931年からはウィーン音楽アカデミーでピアノと作曲を学ぶが、1938年ヒトラーがオーストリアに進駐した事からユダヤ人であるティントナーは、当時務めていたフォルクス・オーバーの仕事を追われ、以後長年に渡る海外生活がはじまる事になります。それ以降、指揮者としてニュージーランドのオークランド、オーストラリア、南アフリカのケープタウン、イギリス、オーストラリアのパース、シドニーと渡り歩き、1986年にこのアルバムのオケの本拠地、カナダのハリファックスに移り、シンフォニー・ノヴァ・スコシアの指揮者となりました。
ティントナーが世界的に有名になるきっかけとなったのは1994年に香港でNAXOSの社長であるクラウス・ハイマンに出会ったためで、NAXOSの「無名でも実力のある演奏家を録音に起用する」というポリシーにティントナーが合うということで、当時探していたブルックナーの交響曲全集の指揮をまかされることになりました。ただ、ティントナーはその前年の1993年から皮膚がんを患っていたため躊躇もあったとのことですが、ティントナーの素晴らしい演奏を聴いて決断に至ったとの事。
ブルックナーの交響曲全集は1998年に録音が完了し、1999年には英グラモフォン誌の表紙を飾り、2000年の来日も決まっていたにもかかわらず、1999年、病状を苦にしてハリファックスの自宅マンションから飛び降り自殺して亡くなったとのことです。

今日取り上げるアルバムのティントナー・メモリアル・エディションとは、NAXOSがティントナーが生前に残した様々なコンサートの放送音源やスタジオ録音を買い取り、全12枚のシリーズとして発売したもの。オーケストラはシンフォニー・ノヴァ・スコシアとカナダのナショナル・ユース・オーケストラが担当し、ティントナーのブルックナー以外のレパートリーに触れることが出来るもの。そのなかの貴重な1枚が今日取り上げるアルバムというわけです。

ティントナーと言う人、まさに流浪の人です。クラシック音楽の世界から見ればかなり辺境となる国々のオケを鍛えて実力をつけ、NAXOSという音楽の流通の流れを大きく変えたレーベルに出会い、ようやく世界中に彼の音楽が知られるようになったわけですが、きらめきは一瞬の間だけでした。NAXOSにとっても大きな支柱を失ったことになります。ティントナーの晩年の録音をシリーズとしてリリースすることとしたNAXOSの決断は讃えるべきですね。このアルバムの貴重さがわかった上で、レビューに移りましょう。

このアルバム、冒頭の1トラック目にティントナー自身によるハイドンの曲のイントロダクションが4分ほど収録されています。ティントナーはブルックナーの交響曲の解説も自身で執筆するほどでしたので、曲と歴史を紐解いて観客に伝えるのを常としていたのでしょうか。

Hob.I:103 / Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
遠雷タイプの太鼓につづいて荘重なオケの入り。オケの腕前、悪くありません。艶やかな弦楽器が非常に安定した演奏。テンポは一貫して遅めですが、フレーズごとに音量の変化をつけて、揺るぎないのに静的になりすぎないよう配慮したような演奏。所謂巨匠風、クレンペラー風の堅固かつ巨大なものを感じさせる演奏に近いのですが、根底にあるのは、強烈な個性という事ではなく、自身の音楽に対する揺るぎない自信のようなものでしょうか。ライヴですが、咳払い等の会場ノイズは最小限で、響きに厚みもあり、聴きやすい録音です。音楽がすすむにつれて、オケの力みがゆるみ、音楽がやわらかくダイナミックに変化していきます。
1楽章がゆったり感じたのに対し、2楽章のアンダンテはキビキビしたように感じる珍しい切り替え。途中、オーボエやフルートがメロディーをかぶせるところで、かなりはっきりと浮かび上がらせるように吹かせるのが新鮮です。2楽章で推進力に魅せられるのは珍しい事ですが、一貫してキビキビとした進行が効果的です。音楽に凛とした輝きが乗って、背筋が伸びます。
メヌエットはオーソドックスな演奏ですが一音一音に漲る力感が見事。そしてフィナーレにきてはじめてテンポを上げますが、主なメロディーをくっきり浮かび上がるように描くために序奏や伴奏を担当する楽器の音量を抑えてコントラストをはっきりさせます。ライブでの終盤にターゲットをおいたコントロールでしょうが、ティントナーは冷静に盛り上がりをつけていってくれるよう。ブルックナーとは異なり古典派の交響曲であることを意識して節度ある盛り上がりを聴かせて終了します。聴衆の人数が多くないのか、拍手は熱心ながら割れるようにとは行きません。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
ロンドンの方は、堂々とした一撃と精妙な序奏から入りますが、主題に入ると徐々に拍子を強調して、またフレージングにすこしごつごつとした骨っぽさが加わり、独特の推進力を感じさせます。やはりここでも一貫したリズムに乗っての演奏で、揺るぎなく堅固な音楽の印象が生まれます。聴き慣れたロンドンの1楽章ですが、強めの拍子と一貫したテンポによって骨格が透けて見えるような骨っぽい音楽に。ティントナーがブルックナーで聴かせた贅肉を削ぎ落した響きのコントロールを彷彿とさせる音楽です。徐々に力感も漲りますが、こけおどし的なところはなく、大きな流れのなかでのアクセント。
つづくアンダンテはやさしく流麗な印象で入りますが、前記事のクライバーとはかなり異なり、フレージングに骨っぽさが残ります。よくも悪くもこれがティントナーの個性でしょう。あまり溜める事なく淡々と音量の変化に注意を払いながら進める事で、孤高な感じも加わります。
太鼓連打と同様、楔を打ち込むがごとく一音一音に力がこもったメヌエット。細かいフレーズのコントロールよりはマスのコントロールに感心があるようで、木炭によるデッサンのよう。
フィナーレもいい意味で粗さを残しながら、大規模なソナタをザクザク刻んで描いていくよう。後半に行くに従ってエネルギーが満ちてゆき、筆の勢いも増して墨を飛び散らせながら筆を荒々しく運んでいきます。最後はこちらも拍手に迎えられます。

ゲオルク・ティントナーの手兵シンフォニー・ノヴァ・スコシアとのハイドンの太鼓連打とロンドン。ティントナーがハリファックスに着任してから2年経過したころのコンサートの貴重な記録。武骨さを感じさせながらも、オケのコントロールは歴戦の勇士だけあって、流石に聴かせどころを抑えた上手い演奏。太鼓連打が素直に受け入れられる素晴らしい演奏だったのに対し、ロンドンの方は、上には上がいると思わせる、もう一歩踏み込んでもいい演奏と聴きました。いずれにせよティントナーという無名だった指揮者が、まだ無名の時代の貴重な記録であり、NAXOSレーベルとしては、ティントナーの弔いにリリースせねばならない貴重な録音という事が出来るでしょう。評価は太鼓連打が[++++]、ロンドンは[+++]とします。

このアルバムのレビューを書くためにティントナーの略歴を調べながら、ティントナーのブルックナーの交響曲全集も取り出して、5番を聴き直しましたが、流石に評判の全集だけあって神々しいまでのコアな響き。本来ブルックナーで有名になった人だけに、こちらも見事なものでした。ついでにリンクを。

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tag : 太鼓連打 ロンドン ライヴ録音

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No title

Daisyさん、こんばんは。ティントナーのブルックナー以外の録音がナクソスから出ていた
とは知りませんでした。ティントナーのブルックナーは、話題になってしばらくしてから購入
して聴きましたが、聴くほどに愛着が湧くものです。ブルックナー以外の古典派の録音も
聴いていみたいと思っていました。故郷を離れた任地でもしっかりハイドンをプログラムに
入れているのも感慨深いものがあります。なお、アーノンクールの十字架上は入手でき
ました。

Re: No title

ライムンドさん、こんばんは。
ティントナーのブルックナー、いいですね。聴くほどに愛着が湧くとはそのとおり。今回レビューを書くのにはじめてティントナーのことを調べましたが、自身もブルックナーになにか運命的なものを感じていたのでしょう。ティントナー・メモリアル・エディション、ハイドンはこの一枚だけのようですが、モーツァルトもあるようなので聴いてみたくなりました。
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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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