【新着】クセナキス四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

今日も新着アルバム。たまっていた注文がバラバラと届いたもの。

XenakisQ.jpg
HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

クセナキス四重奏団(Xenakis Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は2010年12月4日から6日にかけて、イタリアのミラノの北西約50キロのところにあるヴァレーゼ市民音楽学校のホールでのセッション録音。レーベルは伊URANIA RECOORDS。

演奏者のクセナキス四重奏団ははじめて聴く団体。このアルバムは輸入盤なんですが、解説に珍しく日本語訳がついています。訳を担当しているのはヴァイオリンを担当する小倉直子さん。メンバーに日本人が入っているんですね。

第1ヴァイオリン:ローランド・バルディーニ(Roland Baldini)
第2ヴァイオリン:小倉直子(Naoko Ogura)
ヴィオラ:クラウディオ・アンドリアーニ(Claudio Andriani)
チェロ:アレッサンドロ・アンドリアーニ(Alessandro Andriani)

クァルテットの名前はもちろん作曲家のクセナキスに由来するとのことで、メンバーはライプツィヒ音楽演劇大学の室内楽の教授とその学生だった3人のという関係とのこと。ライナーノーツの裏面の写真から想像すると、第1ヴァイオリンのローランド・バルデーニが先生ということでしょうか。設立年など記載がありませんが、活動の舞台はヨーロッパで主にイタリアのようです。ネットを調べてみましたが、このクァルテットのウェブサイトは見つかりません。また、アルバムはこのアルバム以外には見つからないところをみると、設立間もないクァルテットということでしょうか。

小倉直子さんは、広島生まれで京都市立芸術大学音楽学部を卒業後ドイツに渡り、ライブツィヒ音楽演劇大学で学んだ人。同大でオーケストラディプロマ取得後、大学院のヴァイオリン科、室内楽科を卒業し、バロックヴァイオリンも修めたそうです。2007年、イタリアのロヴェレートで開催されたボンポルティコンクールのバロックヴァイオリン部門において最高賞(1位なしの2位)を受賞。2001年からスイスのベルン交響楽団にヴァイオリン奏者として入団し、2006年より第2コンサートマスターだったそうです。2011年からは活動拠点をブリュッセルに移して室内楽奏者などで活動しているそうです。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)

序章
ジャケット上部には"HI-END STEREO DIGITAL"との表記があり、録音に拘っていることが窺えます。眼前に定位するクァルテットのかなり鮮明な音像にホールに響き渡る残響が録られ、確かに録音は素晴らしいものです。テンポは少し遅めで、鋭角的な音色で音楽の骨格を浮かび上がらせるようなしっかりした演奏。第1ヴァイオリンのバルディーニは艶やかな音色でじっくり音楽を奏で、それに3人が音を重ねていく感じ。録音はかなりいいですね。

第1ソナタ
最初のソナタは、序章の演奏から想像したテンポよりも少し早めで、若干足早な印象があります。チェロはかなりクッキリした音色で、ヴァイオリンの艶やかさとは少し印象の異なる響き。それぞれの楽器のデュナーミクのコントロールは精妙で見事。門下生同士の息の合ったアンサンブルということでしょう。

第2ソナタ
やはり第1ヴァイオリンの弾く旋律の美しさは別格。磨かれた音色ですが、フレージングには凛々しさがあり、この曲独特の凛とした美しさをしっかり感じさせます。ヴィブラートのかけ方の上手さもあるのでしょう。テンポはオーソドックスで、一貫して音楽をしっかりストイックに慣らそうという真剣味がつたわる演奏です。ふと明るさの垣間見えるところではテンションを落とし、この曲の険しさと癒しのようなものを踏まえた、いいバランスの演奏。

第3ソナタ
チェロの音が少しこなれてきて、アンサンブルも徐々に力が抜け、いい具合に音楽がこなれてきました。穏やかな部分では各楽器の演奏にしなやかさが加わり、デュナーミクのコントロールも角が取れてしっとりした感じとなり、キリッととした部分との対比がついて深みも加わります。

第4ソナタ
ここにきてアンサンブルの精度があがり、このソナタ独特の一体感あるアンサンブルの魅力が際立ちます。4人が一体となって重なるメロディーとそれぞれのフレーズが1人ずつ重なっていく部分の双方で呼吸がピタリと合って、オーソドックスななかでも聴き所になっています。

第5ソナタ
意外や意外にこのソナタは速い。かなり抑え気味のピチカートが美しく響くなか、かなり鋭角的に各楽器がメロディーを乗せていきます。これまでそれほど個性的な表現を見せなかったこのクァルテットですが、ちょっと踏み込んだ表現でしょう。再び現れるピチカートの部分はやはり速く、しかも非常に柔らかいニュアンスを醸し出し、まるでこの部分がリズムを刻むのではなく特殊なメロディーを挟むような扱い。こうした表現はあまり聴いたことがありません。メロディーを敢えてザクザクと浮かび上がらせるところも含めてかなり個性的な演奏。他の演奏できかれるこの楽章の楽興のとはちょっと異なる趣。

第6ソナタ
アルバム全体を通して感じる鋭利な感覚はクセナキスの名を冠するクァルテットの現代的な側面でしょうか。このソナタはこの曲のクライマックするにあたる美しいメロディーが溢れる楽章ですが、やはり鋭い音色と張りつめた緊張感が支配します。しっとりとした情感よりは現代音楽的なクァルテットのキレを楽しめと言われているよう。

第7ソナタ
最後のソナタ。情感に溢れた曲ですが、情感を適度に抑えて、クァルテットのアンサンブルの音色の重なりの妙にに耳を向けさせる演奏。こんどは表現を抑え、音色はくすみ、諦観すら漂わせる厳かな演奏。もうすこし情感をと思わせるところがあります。

地震
最後はかなりエッジをキリッとたてた演奏。音量的な迫力ではなく、音色的な迫力を狙っているよう。リズムを強調してクッキリとメロディーを浮かび上がらせ、曲を閉じます。

はじめて聴くクセナキス四重奏団の演奏ですが、第1ヴァイオリンのローランド・バルディーニの磨き抜かれた美音と、鮮明な録音が印象的な演奏でした。緩徐楽章のみで構成されたハイドンの名曲を現代音楽風とも感じられる視点と息のあったアンサンブルでこなしていきますが、これまでの数多の名演と比べると、この名曲の深遠な深みにはまだ距離があるというのが正直なところでしょう。特に第5ソナタの踏み込んだ演出はもうすこし説得力がほしいところ。今後のアンサンブルとしての成熟に期待したいところです。評価は[+++]としました。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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