【新着】マルカンドレ・アムランのピアノ協奏曲集

このところLP漬けの幸せな日々が続いていますが、ここらで下界に降りて新着アルバムを紹介しておきましょう。

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マルカンドレ・アムラン(Marc-André Hamelin)のピアノ、ベルナール・ラバディ(Bernard Labadie)指揮のル・ヴィオロン・ドゥ・ロワ(Les Violons du Roy)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲 (Hob.XVI:11、XVI:3、XVI:4)の3曲を収めたアルバム。収録は2012年10月1日から4日にかけて、カナダ東北部のケベック・シティーにあるパレモントカームでのセッション録音。レーベルは英hyperion。

アムランはハイドンのピアノソナタを最近3集に渡って録音しており、ハイドンに格別な興味をもっているよう。現代曲を難なく弾きこなす素晴らしいテクニックの持ち主がハイドンに興味をもつと言う事にハイドンのソナタの特別な価値があるような気がします。以前に第3集は当ブログでも取りあげています。

2012/05/17 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】マルカンドレ・アムランのピアノソナタ集3

そのアムランの最新録音はピアノ協奏曲集。ソナタ集では器の大きさを見せつけたアムランですが、協奏曲においても冴え渡るアムランの静かな狂気のようなものが聴かれるでしょうか。

アムランの情報はリンク先の記事をご覧戴くとして、伴奏の方は指揮者もオケも初めて聞く名前故、ちょっと調べておきましょう。

ベルナール・ラバディは1963年、カナダケベック州生まれの指揮者で、ケベック・シティの聖シャルル・ガルニエ大学とラヴァル大学音楽科で学び、1984年彼自身が設立したこのアルバムのオケであるル・ヴィオロン・ドゥ・ロワと、こちらも1985年に設立したケベックオペラの音楽監督を務めている人。アメリカでは知られた人のようで、ニューヨークフィル、ロサンジェルスフィル、フィラデルフィア管などにも客演しているといるとのこと。アムランのサポートを担当するという事ですからそこその実力者でしょう。

さて、ソナタ同様の冴えが聴かれるでしょうか。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
むむむ。冒頭から素晴らしいキレ。アムランのソロが入る以前からオケがキレキレ。透明感溢れる超高精度のオケが抜群のリズムで入ります。もちろんアムランのソロはその伴奏にミクロン単位の精度で応えてピタリと入ります。冒頭の一音からもの凄いスリリングな展開。アムランの冴えは予想通りではありましたが、オケのキレは期待したものとは次元が異なります。むしろオケのキレにのけぞるような素晴らしい演奏。ピアノとオケの火花散る展開ですが、音楽のベクトルが一致しているので一体感もある希有なアンサンブル。これはスゴい。アムランはいつものようにソロだけで高みに達するような演奏ですが、オケも難なくついていきます。この曲のカデンツァは非常に変わったもので響きの変化を楽しめるものですが、ライナーノーツを見るとワンダ・ランドフスカのもの。
2楽章はアムランの恐ろしい精度のピアノの極限まで磨き込まれた美しい響きに支配されます。並のピアニストのリズム感とは次元が異なります。現代音楽に通じた冷徹な印象すら感じさせる険しさもありますが、ハイドンの書いた美しいメロディの陰影がクッキリ浮かび上がり、8X10の大型カメラで精密に録られた写真のような美しいディティールとトーンの変化の多彩さを感じさせる音楽。この楽章のカデンツァもランドフスカのもの。途中宝石箱を開けたような懐かしさと美しさが同居する瞬間もあり、ハイドンのこの曲の新次元を切り開くような素晴らしい演奏。
フィナーレは予想通り、冒頭のキレとキレの対決。なぜかピアノとオケ以外の音が伴奏に入ります。何かを叩いているよう。アムランもオケも冴えまくって聴いている方が切れそう。アムランのキレは古典期の曲の解釈の枠を遥かに飛び出した表現とも取れますが、不思議に違和感はまったくなく、本質を踏み外していないことがわかります。1曲目から圧倒的な迫力。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
続く2曲は簡単に。前曲よりも20年近く前の作曲。ピアノとオケのリズムの響宴。アムランのソロが入るとやはり
鋭いリズム感が冴えまくってます。オケは今度はサポートに徹するような柔らかさもありますが、各奏者のリズム感はかなり鋭敏で緊張感を保ちます。ラバディのコントロールは各パートをクッキリ浮かび上がらせ、各パートそれぞれがアムランのピアノと対峙すするような引き締まったもの。アムランは相変わらす、完璧なリズム感できらめくような美しいピアノの音を置いていきます。この曲のカデンツァはアムラン自身のもので、短くオーソドックス。
この曲の聴き所となる美しいラルゴ・カンタービレはもちろんアムランの独壇場。タッチの確かな抑えた美音の魅力が溢れます。アムラン自身のカデンツァもハッとするような転調を聴かせる見事なもの。
フィナーレは躍動感漲る素晴らしい演奏。再びアムランもオケもキレキレ。コンチェルトの快感がすべて詰まった素晴らしい感興。ピアノの速いパッセージのキレの良さは何も引っかからず、キレが良すぎて逆にさらさら流れていると感じるほど。2曲目も格の違いを見せつけます。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
最後の曲。わずかにピアノの調律が変わった感じがします。アムランも3曲目ということで、ワインでも一杯やってすこしリラックスして弾いているように感じます。もちろんリズムのキレの良さはそのまま。この曲では左手のアタックが特徴的。カデンツァはアムラン自身のものですが、前曲よりも踏み込んで、リズムの面白さと転調の妙を主体とした本格的なもの。ハイドンのコンパクトな協奏曲に華をもたせるようなカデンツァ。
2楽章のアダージョはアムラン自身が過去を懐かしむように、今までになく叙情的なピアノを聴かせます。ここにきて、暖かみのあるゆったりとしたフレージングになります。曲調を踏まえての判断か、最後の曲故の名残惜しさでしょうか。
フィナーレはもはや説明の必要はないでしょう。アムランとオケの絶妙なアンサンブル。鋭敏なリズム感は健在で、触ると切れそうなほどのキレ味。音量を下げたところの静寂感も素晴らしく、やはりこのコンビの素晴らしさをを証明するがごとき完成度でした。

マルカンドレ・アムランの最新作であるハイドンのピアノ協奏曲集。書いたようにアムランもオケも凄まじいばかりのキレを聴かせる名演奏です。アムランが描いたハイドンのピアノ協奏曲は、モーツァルトの美しくセンチメンタルな旋律に溢れたものでも、ベートーヴェンの力感と威厳に満ちたものでもなく、打鍵するピアノの構造の本質にせまる、リズムとピアノの音色の美しさを際立たせるものでした。まさにハイドンのピアノ協奏曲の本質的な魅力を知り尽くしているからこそ出来る名演奏。アムランが最近ハイドンの録音を集中的にこなしてきた意味がわかりました。このアルバム、ハイドンのピアノ協奏曲演奏の新次元を開く偉業と断定します。もちろん評価は[+++++]。オケと録音の優秀さも素晴らしいものでした。

たびたびで恐縮ですが、当ブログの読者であるコアなハイドンファンの皆様。買いです。このリズムのキレに打たれるべきです。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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