ダニエル・バレンボイム/ECOの交響曲46番、47番 - 燻し銀

まだまだLPいきます。先日ディスクユニオンで仕入れたアルバム。

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ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲46番、47番を収めたLP。収録の情報はLPには記載されていませんが、Pマークは1981年。レーベルは独Deutsche Grammophone。

ダニエル・バレンボイムは、ハイドンの没後200年の2009年のウィーンフィルのニューイヤーコンサートで、ウィンナワルツの間に敢えてハイドンの交響曲45番「告別」の一人一人楽団員が退場していく有名なシーンを取りあげ、華やかなムジークフェラインに、ほの暗いシュトルム・ウント・ドラング期の陰りを持ち込み、マニア好みのこの曲を一躍メジャーに取りあげた功労者。ただし、ハイドンの録音は多くなく、デュ・プレのチェロ協奏曲の伴奏や、パリセット、そしてこのアルバムの他に告別やマリア・テレジアなどを入れたものくらい。私が知る限り、ピアニストとしてピアノソナタを入れたアルバムなどあっていいはずですが、こちらも未だ見た事もありません。

ピアニストに指揮者にと大活躍のバレンボイムですが、私自身バレンボイムの演奏のツボを知るほど聴き込んではいないため、むしろ未知の指揮者というところです。欧米での活躍と比べると日本でももっと着目されていい人だと思いますが、日本での人気は今ひとつということなのでしょうか。

ダニエル・バレンボイムは1942年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれのピアニスト、指揮者。両親はロシア出身のユダヤ系移民とのこと。両親からピアノや音楽を学び、7歳でブエノスアイレスで公開演奏会を開き、ピアニストとしてデビューしました。1952年にイスラエルに移住し、1954年にはザルツブルクでイーゴリ・マルケヴィチの指揮のマスタークラスに参加し、またフルトヴェングラーに会っています。その他、アバドとともにフランコ・フェラーラの指揮クラスに参加したり、パリでナディア・ブーランジェの和声と作曲を習ったりと恵まれた教育を受けました。ヨーロッパでのピアニストデビューは1952年、ウィーンとローマで。つづいて1955年にパリで、1956年にロンドンで、1957年にはストコフスキーの指揮でニューヨークでデビュー。10代で世界中に知られる存在となったわけです。21歳のころにはベートーヴェンのピアノソナタの全曲公開演奏を行う等、才能に恵まれました。1966年からはこのアルバムのオケであるイギリス室内管弦楽団とモーツァルトの交響曲録音で指揮者デビューを果たし、以後ピアニストとしても指揮者としても膨大なレパートリーを誇ります。指揮者としては、パリ管弦楽団の首席指揮者、シカゴ交響楽団の音楽監督、ベルリン国立歌劇場の音楽総監督、ミラノ・スカラ座音楽監督など有名どころを歴任していますが、これぞバレンボイムという決定盤があるかといえば、なかなかそうゆうものがないのが正直なところでしょう。ハイドンではやはり、1967年、当時奥さんだったジャクリーヌ・デュ・プレとのチェロ協奏曲1番の指揮が印象に残るものでしょうか。

とらえどころのないバレンボイムの指揮するハイドンの交響曲の出来は如何なるものか、興味深く聴きます。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
もう少しキレのいい音を予想しましたが、LPとしては穏やかなサウンド。若干ハイ落ちなのがそのような印象につながっているのでしょう。LPのコンディションもすこし摺れている感じ故致し方ありません。バレンボイムのコントロールは至極オーソドックスなもの。曲のどこかにスポットライトを当てるというよりも、極力指揮者の個性を排除して楽譜通りに音楽を再現しようとしているような印象。ただ、徐々にオケの演奏に力が入り始め、高音弦のきれの良さが印象に残ります。
2楽章のポコ・アダージョは、逆にオーソドックスさが活きて、この時期のハイドン特有の陰りを、しっとりとさりげなく描き、曲自体の素朴な魅力を楽しめます。短いアダージョからメヌエットへの入りの転換は意外に効果的で、メヌエットの立体感がくっきりと浮かび上がります。演奏はオーソドックスですが、等身大のハイドンの魅力を上手く表現して、地味にいい楽章。
フィナーレも実にオーソドックスな入り。LPならではの音の厚みと実体感で音楽が弾み、実に味わい深いニュアンスが漂います。オーケストラの重なりあうそれぞれの楽器の醸し出す複雑なハーモニーがえも言われぬ雰囲気。最後の静けさのあとのフィニッシュは音楽を聴く悦びに溢れたものでした。地味ながら、地味なりに深い味わいがありますね。

Hob.I:47 / Symphony No.47 [g] (1772)
基本的に前曲と同様の響き。オケは前曲よりも心なしかリラックスして演奏しているように聴こえます。また曲想のせいか、弾む感じも良く出て、ハイドンの初期交響曲の魅力を上手く引き出しています。派手なところは一切なく、バレンボイムは実に誠実にオケをコントロールしています。
8分以上かかる長い2楽章ですが、主題の変奏が弱音器付きの弦楽器を中心に引き継がれていきながら、音楽が展開。低音弦が丁寧に描くメロディーラインの美しさは格別。静かな音楽が心に刺さります。作為のない大きな音楽の流れであることが徐々に明らかになり、少しずつメロディーがくっきりとしてきて素晴しい迫力に。終盤は逆に静寂の中に音楽が沈み込みます。この静寂の美しさはLPならではのデリカシー。
穏やかな短いメヌエットを経て、フィナーレはヴァイオリンの実に柔らかく力の抜けたメロディーと、オケの全奏のコントラストが見事。良く聴くとこの絶妙に力みのないフレージングには格別のこだわりがありそうです。ハイドンらしい柔らかい響きを得るためにかなりデリケートなコントロールが行き渡っているように感じます。気づいてみると、これまでも弱音の自然さを保ちながら絶妙の柔らかいコントロールがバレンボイムの特徴でしょうか。弱音よって強奏部分の活き活きとした表情も映えてくるというものです。実に玄人好みの音楽作りということでしょう。

ダニエル・バレンボイムの指揮によるハイドンの初期交響曲2曲でしたが、さほどコンディションのよくないLPにもかかわらず、ハーモニーの美しさ、静寂感、音の柔らかな表情はLPならではの美しさ。とらえどころのない人と思っていたバレンボイムのコントロールは、穏やかな表情の中に実に豊かな音楽が流れる、まさに燻し銀といった風情でした。評価は46番が[++++]、47番は[+++++]とします。

バレンボイムのハイドンは、手元にあるパリセットのCDもちょい聴きした程度であまり聴き込んでいませんし、また、今日取りあげた曲と同時期の録音と思われる、DG国内盤の「悲しみ」、「告別」、「マリア・テレジア」の高精度ルビジウム・クロック・カッティング盤も昨年リリースされ、こちらも未聴。これは手に入れなくてはなりませんね。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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