ダニエル・バレンボイム/ECOの悲しみ、告別、マリア・テレジア

前記事でとりあげたバレンボイムのLPが良かったので、すかさずamazonにバレンボイムの現役盤CDを注文。

Barenboim44.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番「マリア・テレジア」の3曲を収めたアルバム。収録は「悲しみ」が1975年9月エジンバラ、その他の2曲が1978年3月、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでの世ション録音です。

このアルバム、国内盤でユニバーサルから"The Best 1200"というシリーズでリリースされたもの。この手の国内盤はほとんど買ったことがありませんでしたが、バレンボイムのハイドンの初期交響曲で現在入手しやすいのはこれしかないため、躊躇せず注文したものです。

国内盤はジャケットのセンスも今一。仕事は丁寧ですが、所有欲をかき立てるかというとそうではなく、どうしても輸入盤の方にいってしまうのが正直なところです。このアルバムもジャケットもせっかくのDG風のものに茶色の縁取りとThe Best 1200というセンスの悪いロゴが入って、今ひとつどころか、美的感覚が疑われるところ。ただし内容は悪くありませんでした。

上記のHMV ONLINEのリンクをご覧戴くとわかるとおり、「高精度ルビジウム・クロック・カッティング」が売り物で、帯にも「ルビジウム・クロック・カッティングによるハイ・クォリティ・サウンド」とのコピーが踊ります。LPで聴かれた繊細かつデリケートなコントロールが最新のリマスターでどのように蘇ったのか、興味は尽きません。

バレンボイムの情報は前記事を参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
前記事で取りあげたLPの演奏の穏やかな感覚とは異なり、流石に名曲「悲しみ」は冒頭から力感に満ちた入り。テンポも速めでバレンボイムがかなり煽っているのがわかります。いい意味で期待したよりも覇気に溢れた演奏。バレンボイムらしく音量を落とした部分の丁寧な演出は健在です。オケのイギリス室内管は名手ぞろいで、くすんだイギリスの空のような深みのある音色が魅力。弦パートのキレの良さは他のアルバムでも聴き所なほどイギリス室内管の特徴的なもの。ハイドンの名曲の実に味わい深い演奏です。肝心の音質は、もちろん音にこだわったCDですので安定しています。ただし、LPほどの繊細な解像感はないものの、ダイナミックレンジと迫力は最新のリマスターらしくなかなかのものです。
2楽章のメヌエットはほの暗く、サラッとオーソドックスな演奏。良く聴くと表情の変化があって聴き応えはありますが、バレンボイムらしく実に地味な展開。
秀逸なのは3楽章のアダージョ。やはり前記事のLPから期待した、非常にデリケートな弱音部のコントロールが絶妙。抑えているのに非常に表情豊かな演奏。ハイドンの緩徐楽章のツボをおさえた演奏ですね。古き良きハイドンの魅力を存分に味わえます。
そしてフィナーレに入ると図太い低音弦の象徴的なメロディーが巨大構造物のごとき存在感で非常に印象的。楽章の変わり目の呼吸というか演出が非常に上手いですね。フィナーレは弦の分厚い響きによるザクザクとした演奏が大迫力。オケ全体から立ちのぼる気迫とエネルギーが伝わります。まさに力感の塊のような演奏。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
演奏場所が変わってヘンリー・ウッド・ホールでの録音。どちらかというと、前曲のエジンバラでの録音の方がキレがあるように聴こえます。基本的には聴きやすい録音ですが、響きが前曲と比べると固まって、余韻の漂う感じが薄れ、多少デッドな印象です。この録音の印象が演奏の印象にも影響して、やはり第一印象はオーソドックスで地味目なもの。ただし良く聴くとイギリス室内管の魅力ある演奏でもあり、バレンボイムらしいオーソドックスながら豊かな表情も聴き取れます。
続くアダージョも同様、前曲で聴かれた繊細なコントロールほどの緻密さは感じず、実にオーソドックス。これはLPで聴くともうすこし表情がくっきり浮かんでくるような気がします。ただ、曲が進むにつれて抑えた部分の表情は豊かになってくるところはバレンボイムの意図通りなのでしょうか。
そしてメヌエットは吹っ切れたような自然なソノリティが魅力。前楽章のデリケートなコントロールのあとに、ある意味淡々としたメヌエットを重ね、楽章ごとの変化を印象づけます。
そして聴き所のフィナーレ。前半は予想通りクッキリした表情で淡々といきます。後半も予想通りあっさり淡々とした入り。徐々に楽器が減るところでも一貫した表情で特に目立った演出は加えません。徐々に寂しさが浮かび上がってきて,ふと我に返るような演奏ですね。

Hob.I:48 / Symphony No.48 "Maria Theresia" 「マリア・テレジア」 [C] (before 1769?)
最後はマリア・テレジア。録音会場は前曲同様ヘンリー・ウッド・ホールですが、響きの力感と鮮明さはむしろ1曲目の悲しみに近い印象。このアルバムで一番クッキリハッキリした録音に聴こえます。クッキリしすぎてちょっと整理し過ぎな印象もある感じです。祝祭感あふれるこの曲らしく、力感とエネルギー感を感じさせるコントロールですが、逆にデリケートさは交代して、若干の単調さをはらんでしまっています。
2楽章に入るとデリケートなニュアンスが戻ってきました。陰りのあるイギリス室内管のしっとりとした響きとバレンボイムのあっさりとしたコントロールが実にいい感じ。木管楽器の美しい音色と弱音器付きの弦楽器群の織りなすハーモニーが美しく溶け合います。
メヌエットは祝祭感満点。クッキリ明るい部分は若干古風な印象もありますが、すぐに展開して、陰りが強くなり陽と陰のコントラストを見せます。そしてフィナーレもクッキリした明解な響きが基調となり、バレンボイムもクライマックスに向けてテンポを上げて煽ります。フィナーレは快速テンポで一気に聴かせてしまいます。

バレンボイムの指揮するイギリス室内管の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲集。前記事のLPが一貫してゆったりかつ抑えた部分の表情の美しさで聴かせたのに比べると、こちらはテンションの高い力感を重視した演奏に聴こえますが、曲によっては、力感重視のところは単調な印象もはらみますね。CDとしてのリマスタリングは手間をかけているように聴こえ、音質もなかなかのものですが、やはりLPによる繊細な響きの魅力は捨て難く、比べるとLPに軍配が上がりますでしょうか。評価は「悲しみ」が[+++++]、告別が[++++]、マリア・テレジアは[+++]とします。

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tag : 悲しみ 告別 マリア・テレジア

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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