イジー・ホシェク、ドミニカ・ホシュコヴァーによるバリトン二重奏曲集

今日も湖国JHさんからお借りしたアルバム。しかもハイドンマニア以外の方にはお薦めしにくい超マニアックなアルバム。

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イジー・ホシェク(Jiří Hošek)、ドミニカ・ホシュコヴァー(Dominika Hošková)のチェロによる、ハイドンのバリトン二重奏曲3曲(Hob.X:11、XII:4、XII:1)とハイドンの教え子であるアントン・クラフト(Anton Kraft)の2つのチェロのためのソナタOp.1のNo.1、No.2、No.3、2つのチェロのためのディヴェルティメントOp.7のNo.3の合わせて7曲を収めたアルバム。収録は2002年6月25日から26日、チェコのプラハにあるフス教会でのセッション録音。レーベルはチェコのMUSIC varsというレーベル。

このアルバム、ちょっと見、ごく普通のアルバムに見えるのですが、ライナーノーツを開いてみると、ハイドンとその弟子でもあったアントン・クラフトへのリスペクトがものすごいエネルギーで立ちのぼっています。

ライナーノーツを開けるとまずはハイドンの肖像とエステルハージ宮殿の写真に「チェロ奏者アントン・クラフトの作曲の教師」との記載され、裏表紙にはアントン・クラフトの生地、チェコのロキツァニ(Rokycany)の紋章と市庁舎のイラストが記載されています。そして裏表紙の裏にはハンガリー国立博物館所蔵の1750年J. J. Stadlmann作のバリトンの写真に演奏者のイジー・ホシェクの「父に捧げる」との言葉が添えられています。バリトンの頂部の渦巻きの部分には日本のカッパのようなユーモラスな頭部の彫刻があります。今一度ジャケットをよく見ると左下に"World Pewmiere Recording"とあるではありませんか。なにやら特別なアルバムのようす。

バリトンといえば、ハイドンが仕えたエステルハージ家のニコラウス侯が偏愛した楽器。いつも紐解く大宮真琴さんの「新版ハイドン」をみてみると、ハイドンは侯爵自身が演奏するために、ニコラウス侯の求めに応じて膨大なバリトンのための曲を作曲しています。作品リストにはバリトン協奏曲、バリトン八重奏曲、そして有名なバリトン・トリオ、その他にこのアルバムに収められたバリトン二重奏曲などがあり、現存している曲だけでも136曲にのぼるとのこと。ニコラウス侯のバリトンへの飽くなき興味に応えるにはハイドン一人の力では足りず、当時エステルハージ家お抱えのバリトン奏者であったビヒルもバリトン四重奏曲を148曲作曲し、また当時バリトンの名手とされていたアントン・クラフトやリドル、フランツといった奏者たちや、エステルハージのヴァイオリニストだったトマッシーニなどもニコラウス侯のバリトンのお相手を務め、ハイドン自身もヴィオラで演奏に加わったとのことです。

このアルバムのキーとなるアントン・クラフトは1749年、先程紹介したチェコのロキツァニ生まれのチェロ、バリトン奏者。ハイドンの推挙により1774年頃アイゼンシュタットのエステルハージ家のオーケストラに入った人。チェロやバリトンの名手とされ、ハイドンのチェロ協奏曲2番はアントン・クラフトのために書かれたということです。クラフトはハイドンに作曲も習い、作品を残していますが、このアルバムに収められているのがその一部ということでしょう。ハイドンのバリトン二重奏曲も手元の所有盤リストでは最も早い時期の録音、またおそらくアントン・クラフトの曲も初録音ということで、ジャケットに世界初録音と表記されているものだと思います。

奏者についても少し触れておきましょう。

イジー・ホシェクは1955年チェコ生まれのチェロ奏者プラは音楽院やハンガリー、フランスで学び、1980年プラハの春国際コンクールのチェロ部門の優勝者。チェコ放送交響楽団の首席チェロ奏者やプラハ舞台芸術アカデミーの音楽学科の准教授などを務めた人です。チェコでは知られた人でしょう。

ドミニカ・ホシュコヴァーは美人チェリストですね。1982年生まれ。解説やネットを読んでいたらイジー・ホシェクの娘だとわかりました。父の勧めで4歳からチェロを弾き始め、プラハやオーストリアのリーツェンでのコンクールで入賞するなど活躍、コンサートやテレビへの出演多数とのことです。近年は父とのチェロのデュオでの活動もしているそうです。ドミニカの方はウェブサイトがありましたので紹介しておきましょう。

DOMINIKA HOSKOVA - Offcial websites of the Czech violonecellist

今日取り上げるバリトン二重奏曲は非常に珍しいものですね。今までバリトンに関するアルバムは何度か取りあげています。もちろんバリトン二重奏は初めてのこと。

2011/11/25 : ハイドン–その他 : ハイドンとアビンドン卿
2011/06/30 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】バレストラッチのバリトン三重奏曲集
2010/12/21 : ハイドン–室内楽曲 : 【年末企画】アンサンブル・リンコントロのバリトン・トリオ
2010/02/01 : ハイドンねた : 今最も重要なレーベルは?

ハイドンのバリトン二重奏曲は6曲作曲され、原曲が残っているのは1曲のみ。2曲は消失し、残りの曲はハイドン以外が三重奏用に編曲したもののみが残っているとのこと。

Hob.X:11 : Bryton Duet [D] (c.1766-69)
この曲は編曲が残っていたもの。モデラート - メヌエット - プレストの三楽章構成。全体で7分ちょっとの短い曲。チェロの雄弁なメロディをもう一本のチェロが追いかけて行く曲想。チェロ(本来はバリトン)2本と言う構成で、それほど難しくないメロディーを重ねていく音楽的にも面白い曲。ハイドンがニコラウス侯に演奏しやすく、美しいメロディーを楽しめるように工夫しているのがよくわかります。ニコラウス侯がにこやかに演奏するようすが想像できるようです。演奏は流石に親子だけあってピタリと息のあったもの。メインはおそらく父のイジー・ホシェクだと思われますが、伸びのある美しい音色。チェロ2本のえも言われぬ響き。かなりメリハリをつけて、繊細な部分と迫力ある部分の両面を聴かせます。1曲目から素朴な美しさに満ちた曲にうっとり。

Hob.XII:4 : Bryton Duet [G] (c.1766-69)
この曲が唯一原曲が残る曲。チェロの演奏ながらピチカートを使ってまるでバリトンのような響き。やはり曲の充実度は前曲より一段上。演奏も緊張感が一段上がります。チェロが次々とメロディーを重ねながら楽興を深めていきます。この曲は表現が深く、フレーズひとつひとつがクッキリと浮かび上がり、短い曲なのに幽玄、深遠な印象まで醸し出します。チェロの音色の深さが心にエコーのように響き渡ります。抑えた部分の精妙な表情が曲を引き締めます。やはりハイドンの書いた原曲の完成度は素晴しいですね。それを知ってか演奏も神憑ってきました。kの曲はモデラート - メヌエット - アレグロですが、楽章間の変化と、それぞれの楽章の表情も豊かで非常に聴き応えがあります。バリトン二重奏曲のしかもチェロによる演奏がこれほど面白いとは思っていなかっただけに、感慨も一入。

Hob.XII:1 : Bryton Duet [A] (c.1766-69)
一曲目と同様、編曲が残っていたもの。演奏の特徴はかわらず、息のあったチェロ2本によるアンサンブルですが、やはり前曲とくらべると構成感、メロディーの変化の面白さはちょっと劣りますでしょうか。曲自体はハイドンが書いたものの編曲から復元したものだと思いますので骨格はハイドン作でしょうが、曲としての完成度にはディテールのいろいろな要素が影響するのでしょうから、他人の手を経たものだとハイドンの創意の真髄が削がれてしまっているのかもしれませんね。

このあと収められたアントン・クラフトによる曲は明るく快活なメロディーの美しい曲ですが、チェロと言う楽器の真髄をとらえると言う意味でハイドンの作とはやはり格がちがうというのが正直なところ。快活な練習曲という感じです。

湖国JHさんからお借りしたマニアックなアルバム。アルバムから立ちのぼるハイドンとクラフトに対する想いと、チェコのチェリスト親娘による息のあったアンサンブルによるハイドンの珍曲の素晴しい演奏が印象的な素晴しいものでした。これはハイドンファンなら是非手に入れるべき、貴重なアルバムです。私も手に入れるべくリサーチをはじめました。評価は全曲[+++++]とします。中でも2曲目のXII:4は素晴しいですね。

いやいや、このアルバムには参りました。湖国JHさん、ありがとうございました。

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tag : バリトン二重奏曲

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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