エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」

連休に入り、たまった未聴盤を聴いたりして過ごしています。

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エミール・クライン(Emil Klein)指揮のハンブルク・ソロイスツ(Hamburg Soloists)の演奏で、ハイドンの管弦楽版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は1995年9月23日から25日にかけて、ハンブルクのモーツァルトホールでのセッション録音。レーベルはBMG傘下のARTE NOVA。

2012/06/19 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集

エミール・クラインとハンブルク・ソロイスツの演奏は以前にこのディヴェルティメント集を取りあげていますが、非常にのどかで朗らかな演奏が特徴でした。そのクラインによる、短調ばかりの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」、録音がある事は知っていて、ちょっと気になっていましたが、ようやく先日ディスクユニオンの店頭で見かけて入手しました。

クラインの略歴などは、リンク先をご参照ください。このアルバムでもエミール・クライン独特の豊かな音楽がきかれるでしょうか。

Hob.XX:1 / "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七語」 [D] (1785)

序章
意外にあっさり、速いテンポで入ります。録音は残響が多めで低域が分厚いもの。高音は控えめですが解像感に不足はなく、自然さを感じる聴きやすいもの。序章から劇的な演奏も多いですが、クラインの足早な解釈は、これからはじまる7つのソナタの雄大さを引き立てるための、まさに序章という位置づけでしょうか。

第1ソナタ
期待通り、ソナタに入るとクラインの特徴である歌に満ちた旋律の美しさ全開です。弦楽合奏の美しい響きが部屋中に満ちていきます。楽器の数が減って音量を落とす部分の繊細さと、分厚い弦楽器群によるメロディの力強い演奏の対比が絶妙。いい意味で一貫して拍子が軽いところが音楽の推進力を保ち、ハイドンの名旋律をクッキリと浮かび上がらせていきます。後半の音が消え入るような表現も精妙。

第2ソナタ
ことさら沈み込む第2ソナタは休符を印象的にコントロールして、深く深く沈み込みます。ハンブルク・ソロイスツの演奏は弦の音色のそろい具合と演奏の一体感が見事。ハイドンの名旋律をゆったりと磨き上げていきます。流麗でかつ力の入れどころ、抜きどころのメリハリがはっきりして、まるで大理石の美しい彫像を見るよう。滔々と流れる雄大な音楽。クライン節全開です。

第3ソナタ
おそらく以後もこの大河のような一貫した演奏がつづくことが想像されます。小細工をする人ではないことは他の演奏でわかっていますので、安心して身を任せることが出来ます。スリリングな緊張感溢れる演奏もいいものですが、こうしてゆったりと音楽に浸ることができるのも楽しみの一つです。ここまでゆったり出来る演奏もそれはそれで貴重です。終盤に入り弦の表現がことさら力感を帯びて、尋常ならざる雰囲気になります。明らかに一つのクライマックスを意図しているようですね。

第4ソナタ
前楽章の興奮をそのまま受け継ぎ、フレーズの表現が大胆な迫力を帯びています。静かに力が漲る音楽。以前聴いたディヴェルティメント集の音楽の軽さとは異なり、大曲を前にあらん限りの表現を尽くすよう。ヴァイオリンの高音部がホール内に美音を轟かせ、低音部が図太い響きでホールを揺るがせます。クラインのコントロールがここまで神々しい領域に踏み込むとは。

第5ソナタ
好きなピチカートによる楽章。意外にもピチカートの音量を極端に抑えて、非常にテンポを落としてきました。かすかなピチカートに乗った旋律の方をしっかり描きます。ただただ磨かれた演奏とは異なり、かなり踏み込んだ解釈。しっかりとした設計があって、ただでさえ素晴しいハイドンの音楽が、クラインの演出により、燦然と輝きを帯びます。この楽章は驚くべき迫力。再び抑えてテンポを落としたピチカート。クラインの演出にノックアウトです。弦の強奏の迫力は雄大さを極め、凛とした美しささえ感じさせます。

第6ソナタ
冒頭から心にしっかりと楔を打ち込むような印象的な序奏。そして雲間から光が差し込むような旋律が癒しをもたらします。ヴァイオリンの磨き抜かれた美しい響きが印象的。やはり抑えた部分の静寂感と全奏部分のコントラストが息を飲むほどの見事さ。言葉になりません。この曲の楽譜に仕込まれた情感をこれほどまでに描ききった演奏はないのではないかと思うほど。

第7ソナタ
大詰め最後のソナタ。これまでの表現の限りを尽くした演奏を振り返るような郷愁を感じます。すこし表現を抑えて、諦観すら漂わせます。癒しと諦観の入り交じった音楽が流れていきます。音楽が魂になって昇華していくよう。

地震
ことさら大迫力で演奏するものも多い中、これまでのソナタがメインとばかり、カッチリとメロディを描いていく理性的な演奏。やはりクラインはこの曲の7つのソナタをまるで大山脈のように描くために、序章と終章の地震を抑えたのだと思います。

エミール・クラインの率いるハンブルク・ソロイスツの演奏、想像を遥かに超える超絶的な演奏でした。弦はクラインのコントロールが隅々まで行き渡って完璧な演奏、録音も雄大な音楽を見事に捕らえたものです。ハイドンの曲としては極度にロマンティックな演奏ですが、この曲の表現の範囲を逸脱した印象はなく、この曲に込められた情感を余すところなく伝える名演です。冒頭の序章をあっさり仕立てるあたりに読みの深さが感じられます。この曲の現代楽器の演奏では一押しの名演ですが、残念ながら現在は流通していないようですので、中古を丹念にさがすしかないでしょう。評価は[+++++]とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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