ブルーノ・ヴァイル/ターフェルムジークの86番

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ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)指揮のターフェルムジーク(Tafelmusik)の演奏による、ハイドンの交響曲85番「王妃」、86番、87番の3曲を収めたアルバム。収録は1994年2月15日から19日まで、カナダ、トロントのグレン・グールドスタジオでのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。
このバラのアルバムはもう流通していないようで、こちらが現役盤のターフェルムジークのハイドンの交響曲の録音7枚をまとめたもの。

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今手に入れるなら、もちろんこちらでしょう。今日はこのなかから、好きな86番を取りあげましょう。
ブルーノ・ヴァイルのハイドンは今までいろいろ取りあげています。
2012/08/11 : ハイドン–管弦楽曲 : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/01/24 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの四季
2011/08/14 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番4】ブルーノ・ヴァイルのテレジアミサ、ネルソンミサ
2011/01/10 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイルの天地創造
2010/12/25 : ハイドン–交響曲 : 【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番
2010/03/08 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへ
ヴァイルの紹介は交響曲50番などのアルバムの記事をご覧ください。私は古楽器によるハイドンの交響曲の演奏のなかでは力感と鮮度のバランスのよさからヴァイルをお薦めしています。ピノックほどカッチリ形式的ではなく、アーノンクールほど尖っていず、ホグウッドよりも力感があり、時にスタティックすぎるブリュッヘンよりも自在で、ハイドンの曲のもつポテンシャルに対してバランス良くいい演奏が多いのがヴァイルの特徴でしょうか。
最近ではトーマス・ファイなんでしょうけれども、ファイのものは純粋に古楽器による演奏ではなく金管楽器など一部を古楽器という形態でした。
Hob.I:86 / Symphony No.86 [D] (1786)
昔はずいぶん聴いた愛聴盤だけに、久しぶりにCDプレイヤーにかけると、脳裏に焼き付いた古楽器独特の鮮明な響きが蘇ります。比較的速めのテンポで、さらりとした入り。古楽器独特の練らない序奏は、昔はは違和感がありましたが、今ではごく当たり前。推進力抜群の主題に入るとヴァイル独特のさっぱりと爽やかな演奏にすぐに耳を奪われます。この曲独特のリズムの響宴。キレのいいオーケストラのアタックの連続による楽興に痺れます。音ごとに楽器の重なりが変化し、リズミカルに寄せては返す波に身を任せるような極上のひと時。高音弦のキレの良さとティンパニをはじめとするリズムセクション、時折色っぽい音色で花を添える木管楽器とオーケストラの色彩感あふれる音色に魅了されます。まさにハイドンの傑作たらん素晴しい出来を堪能できます。
2楽章に入ると微妙にテンポと力感を変えながらそれぞれの楽器が絶妙の一体感でハイドンの美しい曲にクッキリと表情をつけていきます。良く聴くとかなり大胆にテンポを変えてきますが、不思議と流れがよく、曲に多彩な表情を与えています。このへんがヴァイルの上手いところ。ヴォリュームを上げていくと、スタジオ録音ながら響きの良さが際立ちます。録音もなかなかいいです。
そしてメヌエットに入りますが、このラルゴからメヌエットへの入りの呼吸の見事さはいつ聴いても痛快。メヌエットにハイドンが込めた推進力を実に上手く表現しています。実に自然で、実に印象的。ハイドンのメヌエットの豊かな表情を古楽器でこれだけ華やかに表現できるのはよほどの音楽性が必要でしょう。ヴァイル独特のセンスの良さが際立ちます。メヌエットの幸福感に浸ります。
敢えて間をとって静寂を印象的に表現した上で、フィナーレに入ります。迫力重視の演奏が多い中、ヴァイルはあくまでもバランス重視。力まず、適度な力感をベースに、抜群の推進力でグイグイ弾んでいきます。金管群はもの凄い精度で全く乱れず音を重ねていきます。聴き慣れているせいもありますが、予定調和のようにすべての音が、そこで鳴るべくして鳴る完璧な演奏。ここにハイドンの音楽の理想の演奏があります。最後もピカイチの決め球をキャッチャーの構えたミットに煙をたてて吸い込まれるように投げたピッチャーの満足感のような余韻が残るフィニッシュ。実に爽快な演奏です。
続く87番の出だしの音を聴いただけでアドレナリン大噴出。やはりこの曲の刷り込み盤だけに言うことなしですね。
久々に聴き直しましたがヴァイルのハイドン、特にこのアルバムのパリセットあたりの録音は素晴しい演奏であり、ハイドンの交響曲の古楽器による演奏の定番として、多くの人にお勧めできるものです。今更ですが評価は[+++++]とします。


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コメントの投稿
No title
私も昨年"86番漬け"になっていた頃、次々音盤を取り寄せ、ヴァイル盤が届いたとき、「これはイケる!」と思った印象的な1枚です。
今月のレビュー、楽しみにしています。
Re: No title
いつもコメントありがとうございます。ヴァイルのハイドンは確かに「これぞ」と思わせる良さがあります。
私も最近michaelさんのブログに触発されてLPを取り上げるようになったので、LPの記事楽しみにしております。最近はカートリッジにも興味津々です(笑)