シモン・ゴールドベルク/オランダ室内管のヴァイオリン協奏曲

シモン・ゴールドベルク(Simon Goldberg)のヴァイオリンと指揮、オランダ室内管弦楽団(Netherlands Chamber Orchestra)の演奏を集めた8枚組のアルバムから、ハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)を取りあげます。収録は1974年10月27日から31日にかけて、アムステルダム・コンセルトヘボウでのセッション録音。元の録音はPHILIPSですが、このアルバムはRETROSPECTIVEのもの。
シモン・ゴールドベルクは1909年ポーランド中央部のヴウォツワヴェク(Włocławek)出身のユダヤ系ヴァイオリン奏者、指揮者。幼少の頃からワルシャワでヴァイオリンを学び、1917年にベルリンに移ってカール・フレッシュにヴァイオリンを師事。1921年には12歳でコンサートデビュー、1924年にはベルリンフィルと3回のコンサートを開き、そして1925年にはドレスデンフィルのコンサートマスターとなり1929年まで務めるなど若い頃から天才と呼ばれた人。1929年にはなんと弱冠20歳にしてベルリンフィルのコンサートマスターに就任しますが、1934年、ナチスの台頭により、フルトヴェングラーがユダヤ人楽団員を守ろうとしたにもかかわらず、ベルリンフィルを離れました。1930年から34年まで、パウル・ヒンデミットとエマニュエル・フォイアマンとのトリオに加わったり、1934年以降はピアニストのリリー・クラウスとヨーロッパを演奏旅行でまわり、1938年にはカーネギーホールでアメリカデビューを飾りました。その後アジアツアー中に日本軍によってジャワ島に終戦まで拘留されました。戦後はオーストラリアツアーの後、渡米し、アメリカに帰化。その後指揮者としての活動が主になり、1955年より、このアルバムのオケであるオランダ室内管弦楽団を創設、1979年までリーダーを務めました。晩年は教職に専念しましたが、日本人ピアニストの山根美代子さんと結婚し、1993年に84歳で富山で亡くなったとのこと。山根さんとの結婚生活は5年間だったそうです。1990年から亡くなるまでは新日本フィルを振っていたそうです。
独特の図太く力強いヴァイオリンの印象が強い、シモン・ゴールドベルクですが、ハイドンを弾いたり振ったりしているのは最近まで知りませんでした。ゴールドベルク節とも言える独特のヴァイオリンはハイドンでも火を噴きますでしょうか。
Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
オランダ室内管弦楽団というので、繊細な響きを予想していたら、かなり図太く分厚い音色。ハープシコードがカッチリとした隈取りをつけたオーソドックスなオケの序奏。ゴールドベルクのヴァイオリンは最初からもの凄い存在感。艶やかというより強やかといったほうがいい、かなりテンションのかかった力強いメロディー。オケもヴァイオリンもかなりはっきりとしたフレージング。特にヴァイオリンは音階をわかりやすく丁寧に演奏していきますが、かなりのテンションで、ホールの隅々まで鮮明な音が行き渡りそう。高音にいくに従って力感が増すあたりは尋常ならざる迫力。日本中のコウモリを呼び集められそうなほどの高音のエネルギー。流石シモン・ゴールドベルク。オケもかなりわかりやすく丁寧なフレージング。カデンツァに入ると丁寧なフレージングはそのままに、録音会場に轟く圧倒的な音量。これは真似が出来ない音色でしょう。音程が少々不安定になりそうな瞬間がなくはないのですが、迫力に圧倒されて、気遣う暇がありません。
2楽章のアンダンテは冒頭から磨き抜かれたゴールドベルクの美音炸裂。冒頭から圧倒的なプレゼンスでヴァイオリンの音が耳に突き刺さります。孤高のヴァイオリンとはこの事でしょう。ヴァイオリンの持続音がこれほどの輝きと力をもつとは。ヴァイオリンの圧倒的なエネルギーを際立たせるためかどうか、オケのピチカートはかなり抑え気味。
フィナーレは先程までの極端なヴァイオリン重視の演奏とは打って変わってオケとのバランスが正常化し、オケも前に出てきます。前楽章、録音のバランスまでいじっていたかもしれません。小気味好いオケの反応を楽しめる曲ですが、ちょっと溜め気味のヴァイオリンの存在感はやはり変わらず、やはりゴールドベルクの存在感の大きさが印象に残る演奏でした。
シモン・ゴールドベルクが自ら設立したオランダ室内管を振ってのヴァイオリン協奏曲。ハイドンの名曲を、ことさらヴァイオリンの圧倒的な存在感で聴かせきってしまう典型的なソロ重視の協奏曲の演奏。ヴァイオリンの、特に高音の素晴しいエネルギーは常人離れしたもの。元PHILIPSによる素晴しい録音によって、輝かしいゴールドベルクのヴァイオリンが部屋にリアルに定位します。あらためてちゃんと聴くとこれはこれで素晴しい演奏。評価はつけ直して[+++++]としました。
日本全国うだるような暑さですが、脳髄に直撃するヴァイオリンのエネルギーに暑さを忘れて放心状態です(笑)


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tag : ヴァイオリン協奏曲
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四季も傑作だし、一番の収穫はブランデンブルク協奏曲です。私はブランデンブルク協奏曲好きなのでたくさん聴きましたが、ゴールドベルクは愛情が目一杯滲みでていて、幸せな気持ちになれます(*^^*)
Re: タイトルなし
このボックス、確かに聴き応えありますね。普段の流れでハイドンばかり聴いていますが、ハイドン以外も素晴しい演奏目白押しです。私もブランデンブルク協奏曲は好きです。これだけ良い演奏が現在流通しているのは素晴しいこと。シモン・ゴールドベルクの音楽の力が歴史を超えてつたわっているようで嬉しいですね。